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特訓

ブランがセリナに拾われて2週間後。


「はぁ....はぁ....」

「よし、朝ご飯にしよっか」


ブランに最低限自衛出来る実力(セリナ基準)を付けて貰う為にセリナはブランと組手をしていた。


「どう?何か掴めた?」

「いえ、まだ、わからない、で、す」


自身の本当のスキルを目覚めさせる、なんてそんな簡単に出来る物ではない。


ブランは常に自分がギリギリ目で追い切れない速度で攻撃してくるセリナに対して本当にセリナの言う通りこの訓練をしていて意味があるのかという疑問を欠片も持たずに信用し毎朝食らいついていた。


(.....ま、そんな簡単に掴める訳ないか。と言うかこの特訓で大丈夫かな?)


むしろセリナの方が疑問に思っている。


セリナ的には戦って追い詰められていけば覚醒するだろうくらいの感覚だったのだが何せセリナは他人に戦いを教えた経験は殆ど無いのだ。


セリナの実力は確かに上がっている。少なくとも村周辺の魔物に遅れを取るレベルでは無いし、並の相手ならその速度で圧倒出来るだろう。


(と言うかそろそろボクも薬草採取しないとだし、ブランも連れていこうかな。ボクばっかりと戦ってても変な癖とか付いちゃうかもだし)


家の裏にある特訓場のすぐ側を流れてる川から水を汲んで湯船に満杯まで注ぐ、朝の訓練の最後のメニューを終わらせた2人はブランがお風呂を沸かす、セリナが朝食を用意する、この2週間ですっかり馴染んだ行動をしながらこれからの予定について考えるセリナ。


薬草採取と言って舐められがちだが、そもそも薬草に対する知識が無ければ出来ない事だし適当に詰んで数打ちゃ当たる戦法でいけばその大半が無駄になって報酬にならない。


セリナが異世界に来て感じた1つがその薬草採取の重要度で、特に大規模な魔物の討伐や疫病が発生した直後は普段の価格が10倍以上に跳ね上がる事もよくある話だ。


「えっと、セリナさ....セリナ、お風呂、湧きました......」

「およ?もう沸いちゃったか、今行く〜」


考え事をしていて効率が落ちていたセリナが下準備を済ませるより早くお風呂の支度が出来たので1度中断し脱衣所に向かうセリナ。


ブランと暮らし始めて気付いた事がある。


「?どうかしましたか?」

「あー、いや、なんでもなーい」


それはブランの発育が思ったよりも良い事。


決して自分だって無い訳じゃない。無いのだが、セリナによる健康的な生活のおかげで日に日に肉付きが良くなるブランのある部分が明らかに成長してるのだ。


例えるならセリナがお椀でブランはどんぶりと言った感じだろうか。拾った時もそこまで小さくなかったのだがそれでも明らかに成長している。


「でも、贅沢ですね。1日に2度もお風呂に入れるなんて」

「もうボクには希望が.....でも大事なのはバランスだし、前世でも大きさより形派だったし.....」

「?大丈夫ですか?何処か体調が悪かったり」

「......うぇ!?あ、う、うん大丈夫。この家建てるときにさ、出来るだけお風呂に入りやすいように川の近くに家を建てて貰ったんだよね。」


正直セリナ自身自分のスタイルは良い方だと思ってる。


ある所はあるし、へこむ所はへこんでいて無駄な肉も付いていないし、傷跡1つ無い綺麗な肌サラサラとした髪、エルフの美少女という言葉をそのまま現した、と思っている。


「朝の薪割りや水汲みも生活と訓練の両立になるし、何より身体が綺麗だと気持ちいいからね」

「はい。私もセリナと暮らし始めて何だかとても日々が潤っている、ような気がします」

「そっか、それならよかった」


でもやっぱりこうして比べると少し羨ましく思ってしまう。


「.....まぁでもあんまり大きいと動きずらいしぶぶぶぶ」

「セリナ?」


ぶくぶくぶく、と湯船に沈んでいくセリナを見てまた不思議な行動をしてると思いながら首を傾げるブラン。


「っと、そろそろ上がろっか。朝ごはんもまだだし」

「はい、わかりました」


まるでセリナに懐いてる忠犬のようにセリナの後についていくブラン。


着替えを済ませ朝食を食べ終えた後、セリナが出かけると言って来たので再びついていく。


「何処に行くのですか?」

「ん?そろそろボクの仕事.....仕事?日課?趣味?.....お金貰ってるから仕事、っていうか冒険者の依頼みたいな物かな。それに連れてっても大丈夫かなって思ってさ」

「...あの、防具も無し、ですか?」

「うん」


魔物の相手を武器も防具も無しでやれと言われて流石に引いてしまうブラン。


「一応、ギルドで武器くらいなら貰えるから大丈夫だよ」

「防具は?」

「その辺は自分で稼いだお金で買おうね。これもまた修行なのだ」

「あの、因みにセリナは防具を着ないのですか?」

「うん、だって邪魔だし。大丈夫だよ死にそうになったら助けるから」


割とセリナは鬼畜だった。


一体この少し小さいセリナのお下がりの服1枚でどうしろと言うのだ、と思うブランだがセリナが言うならと納得してギルドに入る。


「......で、連れて来たと」

「そういう事〜。っていうかサラちゃんは?」

「サラは休みだ。そもそもお前は受付を通して依頼を受けんだろうが」


そして一連の流れをマスターに説明したら呆れたように頭を抱えられた。


「すまんなブラン。このアホは人を鍛えた事が無いんだ」

「ちょいちょい、誰がアホだって?」

「お前の事だ。全くせめて師匠なら装備の一式くらい用意してやらんか」

「え〜?だってボク全部自分で揃えていったんだよ?」


どうやらセリナは少々厳しかったのだと、マスターの反応を見て知ったブラン。


「まっ、それはそうとブラン用に支給の武器ちょうだい?」

「だからお前が用意してやれと......はぁ、全く金がない訳でも無いだろうに。まぁいい、ブランついて来い」

「あっ、はい」


カツ、カツ、と杖を着いて歩くマスターの後を追うブランとセリナ。


「質は悪いがこの中から1つ好きに選ぶといい、次の武器を買うまでの繋ぎくらいにはなる」

「わかりました」


ぺこり、とお辞儀をした後、並べられている武器を眺めるブラン。


その仕草を見て何処かの誰かさんもこれくらい礼儀正しければ良いのにと視線を送るが当の本人は何処吹く風、悩むブランの元に駆け寄る。


「どうしたのブラン?」

「あ、いえ。その、実は......」

「なに?」

「その、私、実は剣より弓の方が得意で......」

「じゃあ弓を選べばいいじゃん」


と、軽く言ってるセリナだが今朝までブランと剣の訓練をしていたのは他でもないセリナである。


「え、あの、良い、のですか?」

「ん?何がー?ボクは良いと思うよ?ブランのスキルが目覚めても足が早いのには変わりないし」

「でも、ブランは剣で訓練してましたし」

「まぁ近接出来て損は無いから。むしろ最初っから遠距離ばっかりだと近付かれた時や矢が無くなった時に殺されるだけだからどの道鍛えるつもりだしこれからも鍛えるからね?」


ブラン的にはセリナが教えてくれたのだから剣を選びたい、でも得意なのは弓、という感じで悩んでいたのだがセリナはあっさりと切り捨て立てかけられている弓と矢筒をブランに渡す。


「.....ありがとうございます、ブラン」

「どういたしまして」


と、良い感じの雰囲気なのだが問題が1つ。


「でもボク、弓って使えないんだよねぇ」

「そうなんですか?」

「うん、弓使ってたらさぁ直ぐ弦が切れるか弓が折れちゃうんだよ...」


セリナは力が強すぎて弓を戦闘でまともに使った事なかった。


「スキルを使わなかったら使えるんだけどさ?それならスキルを使って斬撃を飛ばすか衝撃波で倒した方が早いし楽なんだよねぇ。スキルを使わないで倒せるくらいの相手なら弓で遠くから狙うより近付いて殴った方が早いし」

「.......ソウデスカ」


どうやら弓の扱いについてはセリナは頼れないと分かったブラン。


「まっ、とりあえずこれで準備出来たし早速行こっか。マスター何か依頼ある?」

「残念ながら無いな。そもそもお前に頼まないといけない依頼なんざ数ヶ月に1つ出てくるかって所だ。今日の所は何時も通り薬草採取をしてくれ、この前の一件で怪我人かなり出たからな薬の貯蔵が減ってるらしい」

「まぁそうだよねぇ、りょーかいマスター」


とは言えブランの初めての依頼が薬草採取っていうのも味気が無い、と思って何か適当な依頼を受けようとしたセリナだが。


「弟子の初舞台だからって他に依頼を受けるなよ?そもそもまだ2週間しか経ってないんだ本当ならまだ安静にしてるような期間だぞ?それにお前の基準は他人に比べて高過ぎるんだからな?いいか?暫くはこの辺の地形や植物、魔物を覚えさせろ。先ずは土地勘を得てから本格的な実戦にしろよ?いいな?分かったな?理解出来たな?」

「あーはいはい分かった分かった分かりましたー言う通りにしますー」


あーあーあー、と耳を塞ぎながらギルドを出るセリナと一礼した後慌てて追いかけるブラン。


「ん〜!全くマスターも心配性だなぁ、ボクの時はあんなに煩く無かったのにさぁ」

「えっと、そうなのですか?」

「そうだよ?ボクの時なんて剣貰って速攻依頼行ってこいって言ってたんだよ!?ブランと同じくらいの歳だよ!?しかもまともに戦いなんてした事なかったのにさぁ!」


うがー!と両手を上げて叫ぶセリナに苦笑いするブラン。


しかしそれは400年前の話。


当時は村の周りにも今以上に強い魔物が蔓延っており、冒険者達の死亡率も高く、更には人間の国ヒュラマイトと魔族の国『デモナイト』が戦争をしていた。


人が当たり前に死ぬ、明日には村が滅んでいるかもしれない。そんな時代、意地でも力を付けないと死ぬのは自分だった。


今と比べて弱い国だった、そんな中こんな小さい村に派遣出来る兵は限られていて、そんな状況が100年くらい続いたある時、負傷した魔族の軍が流れついた。


「えっと.....」

「まっ、あの頃は色々殺伐としてたからさ、そう思うとあの時の選択は間違いじゃなかったんだなぁって思うよ」

「?」


最初、村の皆は敵だと判断し、武器を向けた。でもセリナはそんな村人の反対を押し切って魔族達を治療した。


その時の軍の隊長が、見ず知らずの自分達に土下座し、『頼むから部下の傷を治療させてくれ、もし不安なら俺の命を人質に取ってくれ』と自分もボロボロなのに頼み込んで来たのだ。


「....そんな事が」

「うん、どうやらその人結構有名な魔族だったらしくてさ。その事が切っ掛けでボク達の国オーレルとデモナイトは友好条約?を結んだんだよ。まぁ手当てした後ヒュラマイトの軍がカラナシ村を拠点にしてデモナイトに攻めようとしてたらしくてそいつらを一緒にぶちのめしたのが1番おっきかったみたい」

「....何故、そこまでしてヒュラマイトは他国と戦争を」

「何かあるんだろうね。ボク達じゃ考えつかない、世代が変わっても遂げたい野望っていうのが」


この前の襲撃だって、200年前から一切干渉して来なかったヒュラマイトがいきなり軍を率いて襲撃してきたと言うだけで何が切っ掛けなのか分からないのだ。


「だから不思議なんだよ。なんで君がヒュラマイトで産まれながら無事に生きてたのか」


何故王女はブランを保護して近衛騎士に育てあげようとしたのか。何故奴らは他国に執着しているのか。何故ブランが来た途端に200年も干渉して来なかったのにいきなり襲撃して来るのか。


「まっ、考えても分からないし考えたくもないから別にいいんだけどさ」


また来るならその時は倒すだけだから。


セリナの力を間近で見たブランにとってこれ程頼もしく、力強い言葉はない。


「さてっと!それじゃあお勉強の時間といきますか」

「お勉強、ですか?」

「そうそう、この辺にある薬草とかを憶えて貰いたくてさ。2人だと効率も良いし、ボクの普段の仕事はこれだからね」


そうやってブランに周辺に生息している魔物や使える薬草、食べられる野草や果物、キノコを教えながら手慣れた手付きで背負った大きな籠に入れていくセリナ。


「そう言えばさ、ブランは王女様に仕える騎士様だったんでしょ?なんでエルフなのに騎士になれたの?」

「えっと、私が9歳の頃に王女様に拾われて、そこから自分の騎士になるようにと言われて、それで....」

「...ふーん、そうなんだ」

「あの、なにか...」


セリナが少し考えた後、驚く程冷たい声色の返事をした事が余程驚いたのか恐る恐る、まるで親を怒らせた子供のような態度でセリナの様子を伺うブラン。


「ん、いーや。ちょっと確認したかっただけ」


思い出すのは200年前の光景。


人間以外の種族に人権は無いと言わんばかりのおぞましいあの光景。200年経った今でもそれは変わらないだろう、ブランにした仕打ちがその事実を物語っている。


だからこそ王女の行動には違和感しかない。


もし可愛がる玩具が欲しいなら奴隷、良くてメイド扱いだろう。態々命の危険が高く自分に直接仕えさせる近衛騎士になんて選ばないだろう。


(あれは明らかに何か研究してた。エルフだけじゃなく獣人、魔族、人間以外の種族について。それなのにブランだけは例外?ハーフだから?いや、ハーフでも純血でも寿命も魔力も精霊と契約出来るのも変わらない。ならあいつらの研究はもう終わっていた?ならこの前の襲撃は何の意味が)


セリナだけが知っている事実。200年前にブランと同じように保護したエルフを連れ去られ、助けに行った時にはもう既に息は無かった。


あの時、まるで彼女の身体を調べ尽くすかのように身体のありとあらゆる部位にメスで切った跡や致死量の血を抜いたであろう注射の跡があった。


そしてセリナが乗り込んだ途端に襲って来た魔物でもヒトでもない怪物達。慌てて何かを奥に運ぶ人間達。その後彼女を看取る間も悲しむ間もなく襲いに来る兵士達。幾らセリナでも数の暴力には敵わず撤退する事になってしまった。


「あの、その...私、何か...」

「んぁ?あっ、ごめんごめん。ブランは悪くないよ、少し考え事してただけだから」


ポンポンと不安そうにするブランの頭を撫でると照れくさそうに頬を赤くするが心地良さそうな雰囲気のブランを見てまるで子犬みたいだと癒されるセリナ。


(あの娘もこんな感じだったな)


蘇る懐かしい記憶、セリナの作ったスープがお気に入りで、頭を撫でると恥ずかしがりながらも照れくさそうに笑って、生真面目で常識に疎い、少しの時間しか一緒に居なかったけど間違いなく大切な、まるで妹のような存在だった。


「あ、この辺りは...」

「ん?....あぁ、もう少し行ったらボクがブランを拾った辺りだよね。村の冒険者はこの辺にはあんまり来ないんだよ、あるのは薬草とかだし、特に良い魔物が居るって訳でもないから」


魔物が少ないから依頼で来る冒険者も居ないし、この先にあるのは崖。


「でもこの辺は人が来ないから結構穴場なんだよね〜♪ほら、美味しそうな山菜も採れたし今日は天ぷらにしよっか......ブラン?どしたの?」

「いえ、その、人が来ないなら、あの焚き火の跡は...」

「.....ちょっと待ってて」

「あ、ちょ」


対岸にある焚き火の跡まで飛んだセリナ。


(1人?少なくとも大人数じゃないのは確かだね。それにこの血痕、相当出血してる。でもこれだけの血の量、かなりの怪我なのに無理矢理動いて村の方に向かってる?)


強化した視力で血痕を辿ると、どうやら川から上がり暫く歩いた後、此処で焚き火をして一夜を過ごしたのだろう。焚き火の跡に触れるとほんのりと暖かく、強化された嗅覚がまだ血の匂いを嗅ぎ取っている。


「手がかりはこの布切れ...ボク犬じゃないんだけどなぁ」


多分匂いからして女性の物だろう、血の中に微かな優しい香りが残っている。


「あ、どう、でしたか?」

「多分ヒュラマイトからの亡命者だね。結構怪我は深い。多分焚き火は一昨日くらいだけど真っ直ぐ村の方に向かってるからボク達と入れ違いかも」

「ヒュラマイト、から...」

「うん、多分女の人かな?自分の着てる服で手当てしたんだろうね近くに服の切れ端が落ちてたから、とりあえず帰るついでに追いかけるよ」

「へ?あ、ひゃぁぁあああ!?」


お姫様抱っこされたブランはいきなり数10メートル跳躍するセリナに思わずしがみつく。




そしてブランが初めての体験に絶叫している頃、カラナシ村入口にて。





「なっ!?お、おい嬢ちゃん!」


亡命者が流れ着く村として知られているカラナシ村の門番でも目にする事の無いくらい傷ついた黒髪の少女がフラフラと弱々しい足取りで辿り着いていた。




ご読了ありがとうございました!


更新が遅くなり申し訳ないです....


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― 新着の感想 ―
[良い点] このポンコツ師匠ポンコツ可愛くないですか? [一言] 追い詰められた覚醒ってそんな少年漫画のノリで出来るわけが…HAHAHA 一体誰が辿り着いたんでしょうか!
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