真実
「な......」
深夜、ヒュラマイト王城敷地内にて。
満身創痍の騎士隊長ガトルガ含む18名が帰還。
その様子から自分の要望には答えられなかったと察する第2王女。
そして翌日早朝。急遽会議が開かれる。
「まさかガトルガが敗れるとは」
「200年前の天災、まさか実在していたとは...」
集まったのは国王、女王、第1第2王女、騎士団総団長の5名。
「ですが、襲撃から数日経ち、更に向こうはこちらが手を出さない限り攻撃する意思はないと言っています。ならあのハーフエルフを放置するのが良いのでは?」
そう発言したのは第1王女。
ブランを拾い、育て、自らの騎士にしようとしていた本人。
「......むぅ」
「ガトルガの話ではスキルを自ら開示したとの事。その情報を聞くにそこが天災の限界点。むしろあの発言はこちらを牽制する為なのでは?」
悩ましげに声を漏らす国王。そんな国王とは逆に自らの意見を述べるのは女王。
「確かに、一理ある。次は隊長格を複数名遣わせればエルフが2体、手に入るという事だな」
「そうですわね、お父様。エルフはあの方が求める最も重要な存在、繁殖力も低く数も少ないエルフが2体も手に入るとなればあの方も喜びになられるでしょう」
「......しかし、せめてガトルガの傷が癒えてからでは。あのガトルガを圧倒したとなれば複数名の隊長であろうとも痛手は確実。我が国の防衛力に穴が開きます」
確かにガトルガはこの国で『最硬』の異名が与えられる程、防御力に長けた存在。そんな存在が負傷し、戦線に立てないと知れ渡っている中、他国に攻め込めば別の国からの攻撃を許してしまうかもしれない。
「そもそも、伝承になるくらい恐ろしい存在が実在していたのです。高々2体エルフを手に入れる為に国を崩壊させかねない行動は危険過ぎます。そもそも天災が自らのスキルを開示したと言ってもそれが偽の情報かもしれません。もし、開示された情報を信じ込んでしまい、それが偽の情報なら我々は更なる痛手を負う事になる、最悪200年前の悲劇の続きが再現されるかもしれません」
第1王女の言う事は正しく、相手は1度単身で国家転覆を成し遂げた怪物。
一体何の意図があり、ブランを保護したのか分からないが下手に刺激すれば今度こそ国が滅ぶかもしれないと続ける。
しかし。
「あら、まるで自分の玩具を壊させない為に我儘を言っているように聞こえるわお姉様」
「リスクとリターンは天秤に掛けるべきと言っているの。私がそうしたようにね」
「お姉様が生きている間はあの玩具の所有権はお姉様にある。あの方と交渉し、手に入れた玩具に裏切られて引き篭っていたのに随分強気ね。臆病者のお姉様?」
「自らの危機を察する事の出来ずに飛び込んで行く者を何と言うかしっているのかしら?愚妹」
本来、この国では人間以外の種族は奴隷として扱われる。
そしてその殆どが国を治める王族へと渡り、そこからある者に渡されるのだが、第1王女はブランを自分が死んだ後に納めるという契約をし、自らの騎士にしようとした。
「そこまでにしなさい」
「「!?」」
バチバチと姉妹間で火花が散っている中、突如6人目の声が部屋に響く。
「エルフを、取り逃したと、聞きましたが?」
「っ!で、ですが必ず捕まえ、いや、もう1人エルフを捕らえ奉納致します!」
「まぁ待ちなさい、私も報告は聞いています。200年前の天災、彼女が相手となればこの国が束になろうと勝率はそう高くありません」
「.....なんと、貴方様がそこまで....」
ローブに身を包み、男にも女にも子供にも老人にも聞こえるその声にこの場に居る全ての人間が顔を上げられずにいる。
「しかし、それは正面からぶつかった場合。策を練り、時を待ち、場所を選べはその勝率は9割は下らないでしょう」
圧倒的な圧力でも存在感でもない。この場に居る全員がその者に歯向かう恐怖を知っているのだ。
「先ず彼女を相手に正面から戦い勝てる相手はそう多くないでしょう」
「っ、で、では」
「だが、我々人間の強さは正面から戦う事ではない。獣人のような身体能力も、魔族のような魔力も、エルフのような精霊の力も持たない我々にある力、それは受け継がれる技術と狡猾な戦略を練れる知能」
限られた短い寿命に決して高くはない能力。だがそれが逆に人間の強さとなっている。
限られているからこそ、終わりが見えているからこそ、誰かに自らの培ったモノを託し、託された者はまた別の誰かに託す。
能力が高くないからこそ戦略を練り、格上の相手を打破する知能。
「......して、その、方法、とは」
「撃破が難しいのであれば封じてしまえば良い」
コト、っとテーブルの上に隙間なく札が貼られた大きな釘が4本刺さった人形を置くローブの人物。
「この釘を両手首と両足首に刺せば刺された者は人形に封印される」
禍々しいナニかが漏れ出るその人形に思わず唾を飲んでしまう5人。
「だがこれを打ち込むには奴を心身共に限界まで削らなければならない。そして君達に任せるのは心身の身体。肉体的な削りだ」
つまり、目の前の存在は単独で1度国を半壊させた存在と戦えと、そう言っている。
「承知致しました。総団長、騎士団の士気と練度を今まで以上に高めよ。魔物の討伐程度なら冒険者ギルドに流し、この戦に備えるのだ」
「御意」
狂っている。
高々ハーフエルフ1人捕らえる為に国を上げるなんて。
それも既に罪は冤罪だと暴いた後、彼女には何の罪も無いのに。
不自然にフードの左右が、まるで長く尖ったモノに押されているような謎の人物。一体何が目的でこんな事をしているのか。
「....では、私は失礼します」
「あぁ、お前も先日の襲撃があり、まだ疲れているだろう。呼び出してすまなかったな」
「.......いえ」
いつの間にか居なくなったローブの人物の次に部屋を出たのは第1王女。
「相変わらず、無愛想ですわね」
「あぁ、あれでは国民は惹かれぬ。王族は民の前では笑わなければならないというのに、全くあの様子では女王は任せられぬ」
そそくさと部屋を出た姉に対して、呆れたように呟く第2王女。
そしてその夜。
第1王女が失踪した。
1週間後。
そんな事があったとは知らないセリナとブランは。
「洗濯物、干し終わりましたよ」
「ん〜、ありあと〜」
今日も平和に暮らしていた。
元々治りかけだったブランはあの戦いの2日後には完全に熱が下がり、傷も癒えて日常生活程度なら問題なく送れている。
「......」
セリナと暮らしていてブランは1つ分かった事がある。
それは、意外とセリナは怠け者だという事。
早朝にはトレーニングを欠かさずに行っているし、料理もセリナが作ってくれる。しかし、その後の皿洗いや洗濯なんかはある程度溜めてから纏めてやろうとするのだ。
そして気付けば日当たりの良いソファや屋根の上で昼寝をしている。
「ふぁ〜」
何となく、セリナの事を何でも出来る完璧超人のように思っていたブランはセリナから貰った教科書とノートを開いて勉強を始める。
「ブランは凄いねぇ、もうそこまで進んだんだ〜」
「あ、はい。昨日もつい熱中してしまい、『セリナ』が寝た後も進めてしまいました」
「そっかそか〜。また本屋さんに一緒に行こっか」
最初はセリナ様だったのだ。
と言うのも、セリナはあの絶望的な状況を一瞬で打破し、完膚無きまでに相手を撃ちのめした。最早セリナはブランの中で魔王を倒し世界に平和をもたらした勇者のような、そんな神格化されていたのだが、セリナはそう呼ばれると一瞬驚いたようにした後、すんごい嫌そうに止めてくれと頼み、様付けもさん付けも許して貰えず、結局呼び捨てになった。
(何故、私だけ様ではダメなのでしょう?)
村の人の中にはセリナを様付けで呼んでいる老人も居ると言うのに、何故自分だけはこんなにも拒否されたのかが気になるブラン。
「でもさ〜、ぶっちゃけもう普通の勉強の範囲は終わっちゃうんだよね。こっから先は学者とかそういう人達の領域だし」
「そうなのですか?」
「うん、そもそも研究者でも無い限りそこまで勉強が必要って訳でもないしね」
ブランは地頭はかなり良く、スポンジも驚く程の速さで知識を吸収していった。
「それにそろそろ身体も動かさないと、というか鍛えないとね?」
「......また襲ってくるかも、という話ですか」
マスターと話した次の日、ブランには話していた。
恐らく奴らはまだ諦めていない。恐らく次は大軍を率いて来るだろう、と。
それらを考慮した上で最低限の実力は身につけて貰うと言ったが流石に病み上がりの身体に鞭を打つような真似をするセリナではなく、先に一般常識と知識を覚えてからにしようと提案した。
「正直、今日明日攻めて来るなんて事は無いだろうし、これは完全に予想だけど最低でも3ヶ月はあるとボクは考えてる」
「3ヶ月、ですか」
「うん。ボクがボコした奴は向こうでもかなりの実力者だったんでしょ?それをわざと、じっくりといたぶる様に攻めて相手の切り札を文字通り正面から叩き潰した。なら奴らは次、確実に勝てるように戦略と軍を整えて来るだろうしね」
ソファで寝転がりながらブランに現状と自分の予測を話すブラン。
「......なぜ、そこまでして」
「さぁ?それは分かんないけど、奴らは人間以外の種族を執拗に欲してる。特にエルフに関しては他国に攻め入ってでも確保するくらいにはね」
まるで熟す前の苦々しく渋い果実を噛み締めるかのように話すセリナに思わず驚くブラン。
何時も明るく活発なセリナがこんな姿を見せるとは思っていなかった。
「とりあえず、君にやって欲しいのは最低限の戦闘力を手に入れる事。ただ、これに関しては多分直ぐに終わるよ」
「あれを見せられて、直ぐに終わると言われても信じられないのですが」
自分のスキルを使用した超加速ですらセリナはスキルを使用しない素の身体能力で追い越してしまうのに、と苦笑いが溢れるブラン。
「いやいや、流石に今すぐボクと同じくらい強くなられたらボクの努力とかその他諸々含めて色々複雑だからね?これでも魂の知覚とか限界を超えた強化とか色々凄い事出来てる自覚はあるからね?」
普段の言動はそんな事を感じさせない辺り、セリナの性格なのだろう。
「一応、これでもこの国最強のエルフって事で上の方には知られてるんだからさ。まっ、今回ので噂程度だったボクの存在が公になった訳だけど」
別にどーでも良いんだけどね〜、と軽い感じで話ながら足をパタパタと踊らせるセリナ。
「最強のエルフ、という事は他の種族もそれぞれ決まっているのですか?」
「ん〜?ん〜、まぁそうだね。ボク以外の3人はそれぞれお偉いさんに仕えてるんだけど、まぁそれはそのうち教えてあげる」
よいしょ、とソファから起き上がったブランは大きく伸びをする。
「とりあえず、明日から少しずつ君の身体を鍛える。同時に君の『本当』のスキルも開花させる。この2つ、特にスキルを理解したら多分だけど君は相当強くなれる」
スキルの中には強力過ぎるが故に自覚出来る範囲で使用していると1部の能力しか使えないと言う事がある。
例えばガトルガのスキル『絶界』だって最初はただの障壁を生み出すだけだった。しかし、鍛えていく内に自身のスキルの能力を引き出せるようになり、次第に障壁は世界を絶つ壁となり鉄壁の防御力を手に入れた。
「とりあえず、明日は基礎的なトレーニングとブランがどれくらい動けるか確かめるかな。一応確認だけど戦えるよね?怖くて戦えないとか無いよね?」
「まぁ、一応、騎士団では中の上くらいの実力では、ありました。.....まぁ、貴女が片手間で薙ぎ倒した人達くらいですが......」
「おっけおっけ〜そもそもエルフは全種族の中でも1番身体能力低いからね。むしろ精霊とも契約しないでそれだけ戦えるなら上出来だよ」
じゃあ素の身体能力で全種族ナンバーワンの身体能力を誇る獣人すら圧倒出来そうなセリナは何なのだと問い詰めたいブランだが、ブランとしても自分が強くなる事でセリナが少しでも楽になるのなら嬉しい。
「とりあえず、ご飯作るけど今日は何食べたい?」
「では、何時ものスープで」
「好きだねぇホント」
すっかり大好物になったスープを即答で所望するブランに笑いながら作り慣れたスープを作り始めるブラン。
誰かと暮らす。懐かしい感覚。もう二度と味わう事はしないだろうと考えていたのに、そう思いながら野菜の皮を向き始めるセリナだった。
ご読了ありがとうございました!
中々時間が取れず、更新出来なくて申し訳ないです...
こんな感じで不定期更新になるとは思いますが良ければこれからもよろしくお願いします。
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