終わりの時
此処はとある異世界。
剣や魔法で戦い、人間以外にも身体能力に長けた『獸人』、魔法や各々の特殊能力に長けた『魔族』、長命で精霊が視え契約出来る『エルフ』。
そして、スキルと呼ばれるこの世界に生きるありとあらゆる生物が得る『可能性』のある世界の中で人間だけは唯一ほぼ全ての人間が産まれた時からスキルを授かっている。
獸人、魔族、エルフの順でスキルを授かる可能性が低くなっていき、魔物がスキルを得ている事は無いと言っても良い。
そんな世界の、ある大陸、ある国境、その森の中を歩く影。
「はぁ......はぁ......」
か細い吐息、傷だらけの華奢な身体、みすぼらしい服装。
美しかったであろう金色の髪は乱れており、靴すら履いていないその姿はまるで囚人。
何より特徴的なのは髪から見える長く尖ったエルフ特有の耳。
「こっちだ!こっちの方に足跡が続いて居るぞ!」
「第一王女を暗殺しようとした者を招いた裏切り者だ!絶対に捕らえろ!」
その数百メートル後ろには甲冑を着込んだ騎士のような男が20人程。
「くそっ!明日には奴隷刑に処されて調教に出る筈だったのに!」
「奴を逃がしたら我々の面目がいよいよ潰れる!絶対に見つけだせ!」
ガッチャガッチャと甲冑が音を立て、静かな森の夜に響く。
(逃げ、ないと......)
エルフが奴隷として売られたらどんな悲惨な結末になるか分からない。
特に人間が大きな権力を持ち支配するこの国『ヒュラマイト』では。
様々な国や領地があるこの大陸の中でも特に大きな国の1つであり、人間特有の強力なスキルを保有する者が多く人口も多いこの国では人間以外は身分が低い者が多い。
勿論、エルフ、獸人、魔族もそれぞれ自分達の国を持ち、その国ではそれぞれ他の種族は下に見られる事が多い。
(私、は)
そんな人間の国でエルフの母と人間の父を持つ少女。
いや、父と呼ぶべきではないだろう。
何せ少女の母は貴族である父のメイド、という建前の奴隷だったから。
美しく、不老とも言われる程何もしなくともその美しさを保てる種族であるエルフは出産率が低く希少価値が高い。
その為かエルフは奴隷狩りと呼ばれる、人攫いの対象になる事が多く、精霊と呼ばれる生物と契約出来なければ他の種族よりも弱いのが一般的。
つまり少女の母は立場も力も弱く、そのせいで自分を産む羽目になった、と幼い頃に聞かされた。
そして次は自分も同じ目に合う、他所へ売られた母を見た少女はそう確信し屋敷から逃げ出した。
(つよく、なった、のに)
ぺた、ぺた、と幼い頃と何も変わっていない、靴すらもなく森を歩く少女の瞳は幼い頃とは違い力が宿っていない。
スキル『神速』。
自身の速度を上昇させる単純なスキルだが、単純だからこそ強く、その能力と泥を啜るような想いをしながら生き延び、時には料理店の残飯を漁る事だってあった。
今だってこのスキルを使ってるからこそ、馬に乗って追いかけて来ている騎士達から逃げられているし、このスキルのおかげで討ち取った敵もいる、乗り越えた窮地もある。
そんな中、偶然この国の第一王女に見定められた少女は王女に引き取られ、近衛騎士として育てられた。
生きる為、スキルを活かせるからと苦手な近接戦闘を仕込まれ、強大な力をエルフが持っていたら反逆される可能性があると精霊と契約させて貰えず、それでも少女は1つ下の自分とは何もかも違う第一王女を守る為に戦った。
そして王族の儀式として16歳になった年に国の辺境にある遺跡に自身が選んだ騎士達と共に祝福を受ける、その為に遺跡へと赴き祝福の儀式を終えた帰り道に事件は起こった。
いきなり現れた謎の集団に襲われたのだ。
だが、騎士達は選りすぐりの猛者達、数十年城に仕えている者や神童と呼ばれた者達、国の中でも上澄みの実力者達。
18の少女が出るまでも無く謎の集団は討伐される、筈だった。
しかし騎士達は次々と倒され、謎の集団は数も質も騎士達よりも高かった。
だから最後の手段として、少女が王女を抱えて城まで帰ると言う力業を行った。
そして帰り道にある街まで走った所で少女に不幸が降りかかった。
(うら、ぎられた、そんなの、わか、ってた、のに......)
足止めの為に残った筈の騎士の1人が先に街に居たのだ。
そして、その騎士は少女が王女を拐おうとした、自分以外の騎士は全員殺された、と街の騎士に伝え、そして少女は捕らえられた。
その後は酷かった。
王女暗殺の罪を擦り付けられ、牢屋へ閉じ込められ、毎日毎日拷問を受けた。
ある時は雷の魔法に身を撃たれ、ある時は鞭でその美しい肌を赤く染めるように痛め付けられ、そんな日々が半年続いた。
そして騎士達の捜査の末に、あの時生き残った者が首謀者だと分かったのに、『あのエルフも仲間だった』、その一言で少女はエルフにとって最も辛いと呼ばれる奴隷落ち、その名の通り奴隷としてこの国に一生従わなければならないという罰を与えられた。
そして、今日の正午、奴隷商人に引き渡される時に逃げ出したのだ。
騎士も奴隷商人も少女を侮っていた、半年間も続いた拷問を受けて逃げ出せる力があるとは思ってなかったのだ。
だが少女は逃げ出せた。
(たん、じょうび......か、ぁ......)
何と言う皮肉か、明日は少女の誕生日。
誰にも祝われない、祝われた事なんて無い、しかし自分を拾った王女が彼女の産まれた日に祝われている事を知り、誕生日はその人を祝う日だと知っている。
手には手錠、首には鎖の付いた首輪。
半年前ならば何とも感じなかった重さも体力と精神力が磨り減った今では岩のように重く感じる。
あぁ、神様、もし本当に居るのなら一度くらい、そこまで考えて自分が欲しい物が何も無い事に気が付く。
生きる為に泥水を啜り、残飯を漁り、他人の何倍もの努力をして生きて来たのに生きる理由なんて無かったと知る少女。
「ぁ」
自分が何処をどれだけ歩いて居るかも分からずに歩いていた少女はそこが崖だとも気付けずに足を踏み外し崖から落ちた。
「おい!此処で足跡が無くなって居るぞ!」
「くそ!捕まるくらいなら崖から飛び降りたってか!?」
「た、隊長、どうしますか、このままでは我々は」
「くっ、ど、どのみちこの崖から落ちたのなら生きてはいまい、魔物にでも食われたという事にしておくぞ!」
「で、ですがあのエルフを捕らえ損ねたとなったら我々は」
「くっ、だから見た目しか能が無いエルフを騎士にするべきでは無いと言っていたと言うのに」
王女がそうすると言ったから、エルフでも珍しくスキルを持ち、剣術に長けていたから、騎士ならば誰もが目指す王族の懐刀と呼べる近衛騎士に他でも無い王女自身が選んだ。
近衛騎士になる条件はただ一つ、王族に任命される事、それだけ。
はっきり言って、エルフと言う異種族である少女は殆どの騎士達から妬まれていた。
だと言うのに第一王女はそんな少女を自分の側近に選んだ、選んでしまった。
だからこそ誰かが今回の遠征の詳細を漏らし、その情報が悪人から悪人へと伝わり、結果として誰かが最悪の人攫い集団『血染めの棺』に王女を含む全員を拐う、抵抗が激しいようなら殺害して貰うように依頼し、その結果がこの有り様だ。
王女を救った英雄とも呼べる少女は冤罪、第一王女自身もまた最も信頼していた少女を含む自身が選んだ騎士達が居なくなってしまった事による傷心、そしてかろうじて儀式は成功したものの評価としては最悪と言った結果。
せめて自分を拾ってくれた王女だけでも助かった、自分が居たからこそ守れた命があった、それが唯一の誇りだと思いながら少女は崖の下へと落ちて行った。
そしてこの崖から落ちたのなら命は無い、それにこの先はどの国にも所属していないとは言え自分達の領土では無い、生きている筈の無い罪人をわざわざ崖を下ってまで探す事と自分達がこれ以上醜態を晒す事を天秤にかけ、引き返す事にした騎士達。
「いくら転生したとは言え空から女の子が降って来るなんておかしいと思うんだけどなぁ」
その崖の下で気を失った少女を抱き止めた人物が居たともしれず。
そして、夜は過ぎて行き朝日は昇る。
それはこれまで理不尽な不幸を背負い続けて傷ついた少女の闇を払うかのように暖かく明るい、雲1つ無い綺麗な青空へと変わって行った。
「よし!何処の誰だか知らないけどこんな女の子を見捨てるのはダメでしょ!」
背中には大量の薬草が入っている籠を背負い、少女を抱き上げたのは同じくらいの体格の銀髪の少女。
朝日に照らされ透けるように煌めく銀色の髪からは気を失っている少女と同じく長く尖った特徴的な耳がぴょこんと飛び出していた。
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追記:まさかのタイトル間違ってました、すみません.....




