第一話 ステロト村
始まります。末永くよろしくお願いします
「俺、前からずっと・・・ずっと、お前のことが羨ましかった。羨ましくて仕方がなかった。だから俺は同時にお前が誰よりもーーー」
そんな夢を、未だに見続けている。
◇◇◇◇
「俺が勇者ユーピテル様役をやる!」
「えー!昨日もお前がやったじゃん、今日は俺にやらせろよ!」
この平和な村ーーステロト村に元気な子供の声が聞こえてくる。
彼、彼女等がヒーローごっこの主人公役として抜擢しているのは『勇者ユーピテル』、三百年前に魔王を倒した所謂世界の英雄というやつだ。世界中の人間から尊敬され、老若男女問わず、ユーピテルに憧れて、冒険者の道に進もうとする者もいる。
「あっ、見つけた!アヌ、何サボっているのよ!」
アヌ、と呼ばれる現在進行形で寝そべって目を閉じている少年を見つけて少し怒っている様子の少女ーーロザリアが典型的な例で、冒険者になる為に日々鍛錬している。彼女はユーピテルに関する本を読みすぎているせいか、話す内容はユーピテルのことか、冒険者のこと。アヌは残念なことにロザリアに乙女な姿を見出すことができなかった。何と脳筋な女の子なのだろう。
アヌはいかにも迷惑そうな顔をしてロザリアに言う。
「何で俺なんだよ・・・もっと剣術ができる奴も、魔法が使える奴もいるだろう、俺を選ぶ理由がない。」
アヌは不思議でならなかった、何もできない自分に、どうしてここまで構ってくるのか。今、自分自身でも言っていたが、本当に何故アヌと一緒に修業したがるのか理解出来ていなかった。
「俺と一緒に修業した所でお前に何のプラスにもならない。何で俺と一緒にやろうとする?」
今日こそはこの謎に決着をつけようと、質問をする。しかし、幼馴染のロザリアの答えは拍子抜けするようなものだった。
「・・・何となく?」
「・・・」
アヌは言葉を失う。阿呆みたいな答えだ、反論する気を無くす。思わず盛大にため息をついてしまった。
「そもそも、剣術で俺がお前に勝てるわけねぇだろ、お前は剣聖なんだから」
そう、ロザリアは少数の者にしか与えられない最上級職業の1つ、『剣聖』の持ち主で、『剣士』、『剣豪』、『剣帝』、『剣聖』、『剣神』という剣の類の職業の中で超トップの職業を授かったのだ。ちなみに、努力すれば上の職業になれるが、剣神は剣聖でもかなり修業をしなきゃなれない。恐らく、ロザリアが死ぬ気で修業し続けてても十数年以上、下手すれば半世紀ほどかかるかもしれない。
アヌはハズレ職業の『何でも屋』なので本気で戦ったら瞬殺される。残念ながら上位職業が『何でも屋』にはない為、成長する見込みがない。
「だからあなたのことを強くしようとしてるんじゃない」
「俺を強くする努力よりも、自分を強くする努力をした方が良いと思うんだがな」
アヌが即座に言い返すと、ロザリアがアヌに、「何を言っているんだこいつは」という顔をして言い返す。
「私が強くなる為には、確実にダンジョンに入る必要がある。そうなった時、仲間は必要でしょ?私の行動はちゃんと考えた上で成り立っているのよ」
「いや、やっぱり考え方が間違っているな」
アヌは疲れた様な顔で言い返す。
「ダンジョンに入る為には仲間が必要、じゃあ尚更俺じゃなくて良いじゃないか。俺は戦闘スキルを持っていないんだぞ?いくら頑張っても、剣を握ったばかりの人に毛が生えたくらいのことしかできないはずだ」
「私知ってるんだよ?アヌ剣はあんまりでも魔術は使えるでしょ」
「チッ」
アヌは思わず舌打ちをした。『何でも屋』はその名の通り、一応何でもできるから、魔術も使えるのだ。ただし、全て初級だが。
「だけど、少ししか使えない。クソの役にも立たないぞ」
「でも、少しは使えるんでしょ?伸び代あるよ!それに、魔術ができるなら、きっと剣術もできる!」
「やっべぇ、話が通じない。理屈が狂っていやがる・・・」
そう言ってアヌはその場を立ち去って行った。
ロザリアは頬を膨らませてアヌを睨んでいた。
周りの人からは何やら「バカだなあ」とか、「ロザリアが誘ってる理由まだ分からないの?」とか話していた様だが、アヌは疲れていたので、全く聞こえていない様だった。
「うん?殺気――!」
ーードンーー
次の瞬間、アヌは強い衝撃を受けて気絶してしまった。
殺されるのか、誰にやられたか、何も分からない・・・ただ、一つ思ったこと・・・
「(ああ・・・ここで死ぬくらいなら、ロザリアから盗んで隠しておいた大量のお菓子を食べておくべき・・・だっ、た・・・)」
ガクッ
クズである。
*
アヌの意識がゆっくりと覚醒する。地面は硬く、土の匂いが鼻をつく。目を開けてみれば、豊かに緑の葉っぱが茂る木があった。
「ここは・・・」
アヌは何故ここにいるのか、何が起こっているのか全くわからなかった。
「あ、起きた」
隣には座っているロザリアがいた、アヌは直ぐには状況が理解できなかった。ロザリアは申し訳なさそうな顔をしていた。
「あれ?俺死んだんじゃないの?」
「何か、サボりそうだったから仕方なく気絶させて連れてきたの」
「やばいよやばいよ、立派な犯罪じゃん。仕方なくじゃねぇよ・・・」
こんな犯罪まがいな事をして、ロザリアは将来大丈夫なのだろうか、とアヌは心配になる。
だが、こうなってしまってはもう逃げられない。アヌは覚悟を決めた。この地獄の修業につきわあされる事を。そしてまた、他に1つの決意をした。絶対に次は逃げ切ってやる、と。
*
2時間も経った頃だろうか、修行も最後に差し掛かり、模擬戦が始まった。負ける事は分かりきっているし、これ以上疲れるのが嫌なアヌは一方的にボコボコにされる。
何年間もかけて、相手の斬撃を受け流したり、受け止めたりしないしない技をアヌは身につけていた。
「私と打ち合って全く疲れてないって・・・アンタ、普通にすごくない?」
「・・・マジか、今代の剣聖は節穴だな。こりゃダメだ、皆魔王に殺されてバッドエンドだ!つーか、俺の状態を見て、どうやったら俺が疲れてないと思えるんだ?」
「心臓の動きが呼吸に対して静かだから」
「・・・」
心臓の動きまでわかるのか、と、アヌは少し引いた。
そしてロザリアに尚も反論しようとすると、ロザリアが目を見開いて村の方角を見ている事に気がついた。
何を見ているのだろう、とアヌも村の方角を見る。
するとーー
「煙・・・?」
アヌが言うと同時にロザリアが走り出す。
アヌもロザリアを追いかける。
「何か、あったのかも・・・」
あの煙の出方、焚き火とかではないだろう、恐らく、村にある家がいくつも燃えている、その様な煙だった。
*
村に着き、アヌとロザリアは絶句する。
村は赤色で染まり、逃げ惑う人々がいた。家はほとんど破壊され、足元には冒険者だったものがある。
「何で、こんなにボロボロなの・・・?」
ロザリアはそう口にする。何故ならーー
「ゴブリンしか、いないのに・・・」
アヌもすぐに異変に気づいた。今、村を襲った魔物は低級の魔物、ゴブリンしかいないからだ。ゴブリンは魔物の中でも最弱と言っても良いほどに弱い。だからこそ、ゴブリンだけにここまでやられる理由がわからないのだ。
その光景に2人が驚いていると、アヌの横を短剣が通り過ぎて行った。
「ッ!?」
アヌとロザリアは思わず後ろを振り返る。すると、全身を黒の衣装で包んだ男が立っていた。
1話書くのにこんなに時間がかかるとは・・・しかも物語急展開すぎないですか?次はもっと小説らしくなるように頑張ります!書いたの初めてだからボロボロでごめんなさい!