しばしの別れ
「ねーさんねーさん」
「んー、どうしたの葉瑠くん」
「人ってどこから生まれてくるの?」
「そりゃあ当然コウノトリさんが運んで来るんだよ。前にも教えたでしょ?」
「ふぅん、そう。でもさぁ、そんなの見たことないよ」
「絶滅危惧種だからね」
「そうなんだ」
「そうそう」
***
「ねーさんねーさん」
「どうしたの葉瑠くん」
「人ってどうして生まれてくるの?」
「難しいことを聞くねぇ……」
「どうして?」
「うーーーん……意味なんてないんじゃない?」
「えっ?」
「生まれてきたから生まれてきたんだよ」
「???」
「よし、バイト行ってくるね」
「えーっ」
***
「葉瑠くん葉瑠くん」
「なぁにねーさん」
「たとえばだよ、たとえばの話」
「うん」
「明日私が死んだら、葉瑠くんはどうする?」
「えー、やめてよ、そんなの」
「たとえばだってば」
「う、うーん……すごく悲しいと思う。あんまり考えたくないなぁ」
「うふふ、まぁ可愛らしい子だこと」
「ねーさんは?」
「ん?」
「おれが死んだら、ねーさんはどうするの?」
「私も死ぬよ。一人ぼっちは可哀想だもん」
「えー、やめてよ、そんなの」
「あれ、嫌なの?」
「やだよ、ねーさんまで死ななくてもいいじゃん」
「んー、どうしよっかな。ま、葉瑠くんは死なないでね? 私、どうにかなっちゃうよ」
「死なないよ、たとえばだってば」
***
「葉瑠くん葉瑠くん」
「どしたのねーさん」
「私がこの世で一番大切にしてるのは何でしょーか?」
「バイト」
「えっ!? 私ってそんな風に見えてるの!」
「ふふふ、じょーだんだよ」
「まぁ可愛らしい冗談だこと! ……じゃなくて! さぁ何でしょーか?」
「もしかして……おれ?」
「せいかーい! 葉瑠くんおいで、ぎゅーってさせてあげる!」
「ていうか前もこのしつもんあったよね」
「通算五度目だねー」
「あはは」
***
***
***
「姉さん」
「なぁに、葉瑠くん」
「久しぶり」
「そうだね」
「別れ際のこと、覚えてる?」
「もちろんだよ」
「俺、あの時、姉さんに幸せになるって言ったけどさ」
「うん」
「多分、もう、姉さんが望んでる道から外れたっぽい」
「上手くいかないねぇ、ほんと」
「今はどうなるか分かんないけど、一応謝っておくよ。ごめんなさい」
「困るなぁ。だって私、あなたの幸せを本気で願ってたのに」
「……うん」
「私だって葉瑠くんに説教なんかしたくないよ。でも、これは……この道はさぁ……」
「それでも、俺がやるしかないんだよ……」
「……それ、ちゃんと葉瑠くんの意志で決めたんだよね?」
「うん。俺が決めた」
「……私はね、葉瑠くん。あなたのことが世界で一番大切で、あなたには幸せに生きてほしいって思ってる」
「うん、数え切れないくらい聞いたよ」
「今、あなた、平気?」
「……もちろん、平気さ。姉さんが地上を滅ぼしたと知った時よりはね」
「おっ、言うようになったねぇこいつめ」
「ふふふ」
「…………きっと、葉瑠くんが頑張れば……その先に幸せは待っているはずだよ。幸せに溢れた、あなたの理想郷がね」
「はは、だったら良いな」
「いざとなったら、ここで私が待ってるし。そう考えたら気が楽でしょ」
「……かもね」
「どうか俯かないで、葉瑠くん」
「……あぁ、これからは前を見てないと、すぐにぶつかりそうだし。俺、そろそろ行くよ」
「葉瑠くん」
「ん?」
「いってらっしゃい。また逢う日まで」
「……うん、行ってきます。ありがとう、姉さん」




