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You're the one

「……ぁ」


 人間とは思えないほどしわがれた声。それが自分のものであると気付くのに数秒かかった。

 何度も瞼をしばたたかせる。何も見えない。


「……ぅ、ん」


 今度はゆっくり。

 大きく開いたり、閉じたり。


「……げ、ほっ……げほっ! げほっ! く、くるしっ……ゴホッ!」


 ようやく視界に光明が見えた瞬間、肺が突き破れたかのような耐え難い苦痛がこみ上げてきた。


「はっ……はっ……」


 浅く呼吸を繰り返し、なんとか酸素を取り入れる。

 寒いし、暑いし、重い。けれど、眼球がようやくまともに働き始めて──




「……ねぇ、平気?」




 ──あ、ミヌートだ


「……ぁあ、平気……」


 意地と気合いで無理矢理笑顔を作り、ひらひらと手を振って無事をアピールする。今にもぶっ倒れそうな気分だったが、それでも無理を押し通す。

 だって、彼女の可憐な瞳が、これまでになく心配そうに揺れていたから。彼女にそんな表情をさせている自分が許せなかったから。


「…………何があったの? 今、死にかけてたわよ。顔色悪過ぎだし、身体冷た過ぎだし……かと言って外傷はないし、呪いにかけられてもいないし……」


 芸術品めいた美しい両手が俺の頬を包み込む。彼女の手の平は泣きたくなるほど温かくて、次第に本当に涙が溢れ出てしまった。


「なっ、泣かないでよ……調子狂うわね、ほんとにもぉ……」

「……ごめん……ほんと、何やってんだろ、俺……」


 あたふたしている彼女に申し訳ないと思いつつも、鼻の奥がじーんと痺れていて、どうしようもなく涙が零れ落ちていく。


「俺……夢の中で……自分で自分を殺したんだ……ミヌートとの約束も果たさずに……ごめん……」


 イヴの紛い物も、彼女の行動も言動も全ては俺の心が生み出したモノだ。俺は……無意識に全部投げ出して死のうとしていたんだ……。

 ミヌートは親指で俺の涙を拭いながら、呆れたように笑顔を浮かべた。


「どんだけ気負ってたら夢とリンクして死にかけるのよ……ほんと、ばかなんだから」

「うん……ごめん……」


 未だに痺れと寒気が引かない手を必死に動かし、頬を包んでいる彼女の手にそっと重ねる。


「そして……ありがとう。ミヌートのおかげで戻ってこれたんだ」

「でも、私何もしてないわ。まだ来たばっかりだし……」

「いいんだ……それで充分だったんだ」


 歯を食いしばってなんとか上体を起こし、ベッドに座り込んでいるミヌートを見据える。

 ……ああ、うん、やっぱりそうだな。あらためて目の当たりにしても、そうだと思う。


「な、何? そんなにじっと見つめて」

「俺、ミヌートが好きだ」

「………ふぁあ?」


 何が起こったか分からない、と言わんばかりに間の抜けた声を漏らすミヌート。いつも凛然としている彼女の抜けた声に、俺は思わず吹き出してしまった。


「なっ、ななな、何笑ってんのよ! さては冗談なのね!?」

「俺、冗談で告白なんて死んでもしないよ」

「え……えぇーっ!? ……つ、つまりほんとに、マジ……なの? わぁーっ、やば……やばいわね……あはっ……」


 顔どころか耳まで薔薇色に染まったミヌートは、片手で唇を隠してもごもご呟いていた。しかし当然、この距離では全部筒抜けである。いっそいつもみたいに堂々としていればいいのに……というか、こんなに照れるとは全く予想していなかったので俺も面食らっている。


「あー……ごめん、ミヌート。無理に返事はしなくていいんだ。とにかく伝えたかった、今伝えておきたかっただけなんだ」

「ばっ……ば、ばかにしてんの!? この私が押されたまま帰るとでも!?」

「押されてたの?」

「ち、ちょっと黙ってなさいよ、ばか!」


 言われた通り沈黙する。

 俺が黙っている間も、ミヌートは絶えずもごもご呟いていた。やることもないし、こんな彼女はそう見られるものではないのでひたすら観察していると、不意に言葉を投げ掛けられる。


「……ねぇ」

「ん?」

「あの日、旅館の庭園で私が言ったこと、覚えてる?」

「覚えてるよ」

「……約束したわよね。次に会うまでにお互い宿題が出来たから、ちゃんと心の整理を付けとくって」

「ああ、した。俺の方はもう大丈夫。ちゃんと整理付けて、そのうえでこの答えに行き着いた」


 大きく頷きながらにこやかに笑う。ミヌートは一層身体をもぞもぞさせたかと思うと、天井の仄かな灯りに目を逸らした。



「……私もね、今日こうして会いに来たってことは、ちゃんと整理が付いたってことだから」



 これまで考えてきたことを反芻しているのか、とてもゆったりとした口調でそう告げると、ミヌートはようやく口元の手をどけて俺と向かい合う。

 ぼぅっと、熱に浮かされたように濡れる桃色の瞳は、寸分の揺らぎもなく俺の視線と絡み合っていた。



「私はキミを特別扱いしてる。いつからかは分からないけど、間違いなくそれは確かで。何でだろうって、理由をずっと考えてたんだけど……どうやら、そういうことなのよ」



 霞みがかった銀色の髪を揺らし、大きく、深く、静かに息を吸い込んで、





「I……love you too……」





 相変わらず沸騰しそうなくらい、顔を真っ赤に紅潮させながら。

 ずっと前から用意していたであろう言葉を、この上なく真摯に述べてくれた。


「……っ!」


 脳裏によぎるのは、いつか彼女と交わした会話。『愛してる』よりも『I love you』の方が恥ずかしい、という彼女の主張。

 そこから導き出される事実は、俺から言葉を失わせるに充分な威力を誇っていて。


「………うわ、やばい、俺、寝惚けてたのかな……」


 ついさっきまで冷静だったはずの頭が、今じゃ馬鹿みたいに熱を帯びている。なんであんなに冷静でいられたんだ、今までの俺……。

 顔から火を吹きそうな気分に陥り、堪らず桃色の双眸から目を逸らした。


「えっ……えへへ、何よ何よ、顔が真っ赤じゃない? あはっ、こりゃ愉快ね」

「いや、ちょっとこれは……こんなの、予想してなかった……」

「私だってそうなんだからね!? 先制パンチ喰らわせられた身にもなって欲しいものよ!」

「ご、ごめん……だって……どうしても言いたくなったから……」

「……あ………そう」


 二人して俯く。

 二人して顔を上げる。

 全く同じタイミングで目が合った。


「…………なんか言ってよ」

「…………ごめん、頭ん中パンクしそうなんだ」

「そんなの、私もなのに」

「…………うん」


 頭が明瞭に働かない。本当に働かない。ずっと寝惚けていれば冷静でいられたのだろうか。一方視界は明瞭だ。それは嬉しい。だって視界が明瞭でなければ、こんなにミヌートの可愛さを明瞭に感じ取れはしなかったかもしれない。あれ、今明瞭って何回言った? 


「い、色々問題あるよな、これ」

「そりゃ、そうよ。仮にも神使と悪魔が、そ……相思相愛……だなんてね……」


 一段と頬を赤くしながら飛び出た彼女の言葉に、俺はどうしようもなく恥ずかしくなってしまう。

 ていうか、俺はともかくどうしてミヌートはそんなに照れてるんだろう。とんでもない年月を生きてきた悪魔とは思えない純情乙女っぷり……でも、その生涯の大半を狂界で過ごしていたなら無理からぬことか……いや、それにしたってやっぱりおかしくね?


「……ミヌートって何歳まで人間だったんだっけ?」

「ん? 二十二歳よ。急にどうしたの?」

「いや、その割にめちゃくちゃウブだなって」

「なぁっ!?」


 ぼんっ、と頭から湯気を立ち上らせつつ、口をぱくぱくとさせているミヌート。しまった、これはあまり触れない方が良かったのかも。


「ご、ごめん、口が滑った。あんまり可愛らしい反応だったから、つい」

「……し、仕方ないじゃない……だ、だって……私箱入り娘だったし……宝物みたいに育てられてたし……悪魔になってからは、キミに会うまでそういうのも無かったし……」


 しどろもどろになりながら素直に言葉を紡ぐミヌートの姿は、率直に言って凄まじい破壊力だった。胸を焼き焦がすほどの愛おしい感情が、堰を切ったかのように際限なく溢れて止まらなくなる。

 今日まで彼女への気持ちに気付かなかったのが不思議でならない。俺という人間は、こんなにもミヌートに恋い焦がれていたというのに。

 超新星の如き莫大な光が心を満たし、照らし、染め上げている。まるでこの世全ての祝福を一身に受けているようだった。


「………ねぇ、そんなことより……ね?」

「?」

「キスしよ?」

「えっ」

「告白とキスは、セットなんじゃないの? 違うの?」

「……そ、そうかも……なのかも……?」


 普段のミヌートからは考えられないほどの、とろけるような甘ったるい声が耳朶を打つ。

 彼女のこんな声を聴いていると、頭がぼうっとのぼせて胸が苦しくなる。漠然と、これは脳が喜びすぎている反動なんだろうなと思った。


「手……繋ご? 繋いだまま、しよ?」

「……うん」


 今の俺達は、きっとのぼせ過ぎてどうにかなっている。それを互いに自認していながら、自制しようなどとは一切考えておらず。

 差し伸べられた白い手に、俺はゆっくりと手を伸ばし──





 ──ぱしゃっ





「「……は?」」


 異音がした。伸ばした右腕から。

 視線を送った。伸ばしたはずの右腕に。



 ──無い。腕が、無い



「え……えっ、キミ……それ……」

「あ……れ、なんだ、これ……」


 手が無い。肘も無い。肩口からごっそり消えている。溶けている。

 呆然とした表情でベッドのシーツに目を向ける──ああ、水だ。ひどく濡れている。


「腕が……水に……?」


 俺と同様に呆然としているミヌートは、か細く震える声でそう呟いた。

 そして、それを見計らったかのように、シーツに染み込んでいた水が俺の肩口に収束していく。

 集合した水は腕の形を模る(かたど)と、瞬く間に色付き、再生し、回帰した。完全に取り繕われた。

 この事象を形容するならば、それは。



「疑似的な……自己再生」



 眼前のミヌートが静かに小さく呟く。

 その直後、



「ふぅ、間一髪間に合ったようじゃな……」



 俺の唇と声帯が一人でに蠢いた。

 俺の意思とは全く無関係に、ただ動く。



「む……何!? 何故ここにいる、シャルミヌート!」



 なんだ……何だこれは!? ありえない!!!!


 今の言葉は何だ!? 誰のものだ!?

 俺じゃないのに、俺の意思じゃないのに!!

 何が……一体、どうなって……!?




「……ッッ!! まさかお前ッ、“ゾフィオス”か!?!?」




 ミヌートは突如立ち上がると、喉を擂り潰しているかの如き叫び声を上げた。

 思わず呆気に取られる。聞いたことがない声だった。出来れば一生聞きたくない声だった。


「な、何で……よりにもよって、何でそこにいんのよ……はぁっ!? ふざけんじゃないわよ糞野郎!!」


 憤怒と憎悪と焦燥を一緒くたにしたような、形容し難い悲痛な眼差し。それは他ならぬ『俺』に向けられていて。



「王……ッッ!! これか……これを……!! ちくしょう!! くそっ、くそっ、くそぉっっっ!!」



 未だ困惑が抜け切れないまま激昂し、どこからともなく日傘を取り出すミヌート。その先端を素早く『俺』に向けると、駄々をこねる子供のようになりふり構わず喚き散らした。


「まだ間に合う! まだ間に合う!! まだ間に合う!!!! お前の魂だけ殺せば……そうすれば、また……!!」

「いや……もう無理じゃよ、シャルミヌート」


 またも俺の口が勝手に動く。俺ではない誰かが俺の身体で喋っているのか……いや、“誰か”じゃない、“ゾフィオス”だ。

 というか……ゾフィオス? それって確か『ドゥーム』の……えっ、はぁ!? なんでそんな奴が俺の身体使ってんだ!?


「無理!? そりゃあんたの都合でしょうが今すぐ死ね!!」

「融合は済んだ。儂を殺すとなれば此奴も死ぬ」

「馬鹿馬鹿しい、ハッタリだわ、浅ましい!!」

「つまり単なる決め付けで此奴を殺すと?」

「……ッ!!」

「貴様が狼狽えているところなぞ初めて見た。どうやらよほど特別な存在らしいな? 殊更慎重に選ぶべきではないか、シャルミヌート」

「お……おま、え……!!」


 ミヌートの全身が震えている。まかり間違っても怯えているわけではない。溢れんばかりの凄まじい殺意が、彼女の指先に至るまでを激しく震わせているのだ。

 殺意の対象は目の前。そしてそれを確実に殺せる力を保持していながら手出し出来ないこの状況。圧倒的な実力を誇るミヌートにとって、それはあまりに特異な経験だったのかもしれない。怒りに任せて握り締めた傘の柄は易々と砕け散り、ゴミのように転がった。



「……………………代われ」



 数秒の沈黙の後、ぽつり、と。ミヌートは微かに呟いた。

 目が完全に据わっている。纏う雰囲気が数秒前とはまるで別物へ変化している。

 詳細は分からない。それでも、悲壮なまでに強固な決意と覚悟だけは感じ取れた。


 きっと、彼女は決めたんだ。


 今後の道を。自分がどうすべきかを。

 このたった数秒間で、無限回の思考を重ねて。


「……彼に代われ。代われるでしょ、融合しただけなら。完全に乗っ取ってるわけはない……あれだけ力を削ぎ落とされた残り滓風情が」

「…………」

「代わらないならここで殺す。完膚なきまでにぶち殺す。私に王のような慈悲は無い」


 見ているだけで凍てつくような絶対零度の視線が『俺』を射抜く。彼女の『俺』を見る瞳は恐ろしいほど無機質で機械的だった。


「人質を取ったと高を括った? 馬鹿が、ここで死んだらアンタは本当に終わりでしょうが。命からがら惨めに逃げ出してまで存在していたかったんでしょ? だったら私の条件を呑むしかない、違う?」

「……だが此奴が貴様にとって特別であることは確かじゃろう。だのに殺せるはずがない」

「いいえ、私は選んだわ。考えた末に選んだ。だから、もはや早いか遅いかの違いでしかなくなったのよ……理解できる?」

「……分かった。退こう」


 ミヌートが淡々とゾフィオスを説き伏せた瞬間、一気に「俺」が表層へ浮上した。


「……あ、戻った……のか?」


 俺の意思で口が動き、思った通りの言葉を発する。ミヌートが代われと言っていたのは、俺の身体の支配権の事だったのか……。

 いや、今はそれどころじゃない。ミヌートと話をしなくては……。

 顔を上げ、ミヌートと目を合わせた瞬間……俺は胸が張り裂けそうになった。

 ひどく無機質だった彼女の表情は、一転して悲しみの色に染まり切っていたから……。



「……葉瑠」



 ミヌートが緩慢な口調で俺の名を呼んだ。呼ぶ機会はいくらでもあったはずなのに、通算でまだ二度目。彼女の葉瑠呼びはまだまだ聞き慣れない。



「葉瑠、よく聞いて。落ち着いて、聞いてね」



 彼女はガタガタと震える両手で俺の頬に手を添えた。

 そして、端正な唇を戦慄かせながら、



「私は……もうここには来ない。次、キミに会う時は……キミを殺す。私の手で、始末を付ける」



 ……ころ、す? ミヌートが……俺を?


「葉瑠は悪くないの、何も悪くないの。本当に……これはもう……運命としか、言いようがないの。キミは、幸せに生きたかったでしょうけど……もう、どうあっても、それは無理になっちゃったから……せめて私が殺してあげる」

「な……何言ってんだよ、ミヌート……」


 一度も嘘をついたことが無いミヌートが、俺を殺すと宣言した。けれど、それに対して恐怖の感情は一切湧いてこなかった。俺がミヌートを怖がるなんてたとえ殺される直前でもあり得ないことだ。

 だからこそ、今この胸の内に湧くのは、純然たる困惑の感情だけだった。


「俺、今、何がどうなってるのか全然分かんないよ……」

「うん、そうよね。私もわけわかんない、だって、ついさっき確かめ合ったばかりなのよ、私達。それが、なんでこんな……」


 そこまで口にして、ミヌートは諦めたように瞼を閉じた。ありのままの現実を咀嚼し、斟酌(しんしゃく)して、大きく首を横に振る。


「もう……決めたの。私がキミを殺す。王やガルヴェライザになんか殺させない、葉瑠を殺すのは私でありたい。キミだって、それが一番納得出来るでしょ?」

「……わかん……ないって、言ってんじゃん……」

「…………私ね、葉瑠のこと、本当に好きなのよ?」


 ミヌートは声を詰まらせながらも花が咲くように笑み崩れた。そしてその笑顔を見た瞬間、俺はどうしようもなく悟ってしまった。

 もはや俺とミヌートの間に、話し合いの余地は残っていないのだと。


「それじゃ、もう行くわ。残り僅かな余生、思い残すことが無いようにね」


 聖女染みた慈愛溢れる笑顔と共に、ミヌートは俺をぎゅうっと抱き締めた。

 ぴったりと隙間なく密着する柔肌を通して、とくん、とくんと心地の良い心音が俺の身体に伝播する。

 優しくて、温かくて、あまりにも均整が取れ過ぎている穏やかな心音。

 ……あぁ、と小さく呟く。俺はだらしなく垂れ下がっていた腕を上げ、彼女の身体をそっと抱き返した。

 もう、本当に、ミヌートは……。


「……寂しくなるな……ミヌートが来てくれないと……」

「また来るわ。たった一度、キミを介錯して看取るためにね」

「……そっか」

「ええ、そうよ」


 どこまでも透き通った声が虚しく部屋に木霊する。全てを悟り、全てを受け入れた者にしか出せない声色だった。



「…………ごめんね、葉瑠」



 最後に、消え入りそうな謝罪の言葉を口にして。

 ミヌートは俺から離れ、振り返ることもなくこの部屋から去った。俺もその背中をただ見送ることしか出来ず、どこかぼーっとした眼差しでベッドの上に座り続けていた。



 “…………アレが、あの大悪魔シャルミヌートなのか……? 俄には信じられん……”



 頭の中でゾフィオスの声が響き渡る。本当に信じ難い光景だったらしく、凄まじいほど呆気に取られているのが如実に伝わってきた。


「あんなミヌートは、俺も初めて見たよ……」


 感情の灯火を失った俺はそう呟いて、こてんとベッドに寝転がった。思ったよりもすんなりゾフィオスと会話している自分に内心驚く。

 まぁ、そもそもこいつの詳しい事情なんか知らないし、無闇矢鱈に嫌悪するのも違う気がした。俺の中にいる訳の分からないこいつが、果たして善なのか悪なのかも判然としていないんだ。

 そうさ、ほんと、分かんないことだらけだ。どいつもこいつも碌に説明してくれない。一体俺はなんなんだ、嫌になる、本当にショックだ。そう、今の俺はとにかくショックを受けている。何も考えられないし考えたくない。

 もう……何もしたくない……。



 …………ミヌート……。






 第四章 完。

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