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半神使の力

「あ、そうじゃ、忘れておった。軽くハルの身体データを採っておくようにとクライアから言われたのじゃった」


 出し抜けにそんな事を(のたま)い始めるラランベリ様。当の俺はというと相当渋い表情を浮かべていたのだろう、傍らのつきちゃんに軽く小突かれてしまった。


「どうした、嫌そうじゃな」

「あ、いえ、すみません。身体データを採るっていうのは……俺が半神使だからですか?」

「うむ。この世でたった一つの例なのじゃし、可笑しい話ではなかろう?」

「……そうですね。確かに」


 自分が珍しい存在だということは、一応分かっているつもりだ。だけどやっぱり、実験動物的扱いをされると複雑な気持ちになる。悪意のかけらもなくナチュラルに言われるのがまた辛い。


「そこまで時間があるわけじゃなし、採血は無理か。ではまず簡単な動体視力のテストをしてみるかの」


 言うが早いが懐から小さな螺子を取り出すと、


「ほれ」


 ボンッッ!! というエグすぎる破裂音を轟かせながら弾き飛ばしてきたのである。


「……ひゅぇ」


 変な呼吸音が漏れた。無理もない、俺の頬を掠めんばかりの距離に、螺子が真っ直ぐ飛ばされてきたのだから。


「どうじゃ?」

「は……え? な、何がですか?」

「螺子の頭に何かが見えたか?」

「あ、はい。俺の名前が刻まれてました」

「ふむ。動体視力は神使と変わらず……っと。なんじゃ、優秀じゃの」

「……そ、そんなはずは」


 しまった、分からなかったと答えるべきだったか? 優秀でもないくせに期待値を上げて、良いことなんかないのに。


「では次。握力を調べるぞ」


 握力か……神使の平均が何キロなのか知らないけど、思いっきり握るのはやめとこう。


「ちなみに握力測定は手を抜くとすぐバレる」


 うわ、もう悟られてる。こうもバレバレでは抜くに抜けない。


「これを持って握るのじゃ」

「は、はい……」


 やたらとゴツい握力計を手渡されてしまう。もう腹括って真っ当にこなすしかないな、これ。

 しかしこの握力計……形状自体は地球の物と大差ないがメーターだけはえらく不思議だ、読み方が全然分からない。

 まぁいいや、とりあえず握ればラランベリ様が読んでくれるだろう。


「ふんっ!」


 開き直って力一杯握り締める。そういえば半神使になって以来、こんな風に全力で何かを掴んだのは初めてだ。以前の自分とは比べ物にならない力に慣れていないから、物を壊してしまうのが怖かったし。


「ふぅむ、どれどれ……何ッ、一二〇キロ!?」


 メーターを読み取ったラランベリ様の口から驚愕の一声が上がる。一二〇キロか……俺自身も驚きを隠せない。まさかこれほど……。


「貧弱ここに極まれりじゃ……」

「ぬっ!?」


 えっ何!? 一二〇キロってヤバいはずだよね!?


「全力でこれとは恐れ入った。ポッピンラブキッス、其方の握力はいくつじゃったか」

「四百五十八キロです」

「はぁぁぁ!? ゴリラかよ!?」

「ん? 何か妙な発言が聞こえたような」

「痛い痛い! アイアンクロー反対!!」


 実際に体感してみると分かるが、なるほど凄まじい握力だ。三十センチ近くの身長差があるというのに、月ちゃんと俺とではまるで馬力が違う。


「女の子をゴリラ呼ばわりは駄目だよ? ツッキー」

「はぁ、はぁ……悪かったよ……つい」


 ふー、凄い目に遭った。怒ると怖いんだな月ちゃん。次からは気を付けよう。


「半神使といえど部分的な面では本物の神使に匹敵する。が、やはり基本的には劣るようじゃな」

「いや、それは元から知ってました……やる意味あったんですかね、これ」


 痛い目に遭っただけのような気がする……。


「む、もうすぐ着くな。身体テストは一旦中止じゃ」


 俺の言葉をスルーし、窓の外を眺めながらラランベリ様がそう告げた。

 俺も釣られて窓を見やり、そういえばと女神に向き直る。


「あれ? そういえばどこに向かっているんですか?」

「惑星ウィッチャールだ」


 どこだよ。


「ちょうどそこに上級悪魔がおるらしいのでな。ウィッチャールを管轄する神に相談して、快く譲ってもらった」


 そう言うと、ラランベリ様は操縦席の方から一冊の本を取って戻って来た。


「良いか、其方らが戦う相手は此奴じゃ」


 開かれたページを月ちゃんと共に身を乗り出して覗き込む。

 その悪魔の名は「イザンナ」。

 なになに……『口は利けるが知能は低く、鋭い爪に鋭い牙を持ち生物の生き血を好む』……か。悪魔のお手本みたいな奴だな。画像も載ってあるが、いかにも凶暴そうな見た目をしている。


「ん? ていうかどっかで見たことあるような……」

「チュパカブラ?」

「あーそれそれ! チュパカブラだよこいつ! そっくりだ!」

「案外、この悪魔が正体だったりしてねぇ」


 和気あいあいと著名なUMAについて盛り上がっていると、ラランベリ様は呆れた面持ちでかぶりをふった。


「時間も無いのに何をしておるんじゃ全く。緊張感のない奴らめ」

「「す、すみません……」」


 二人揃って平身低頭。やばいな、俺も神使が板についてきたか。

 何はともあれ、惑星ウィッチャールはもう目と鼻の先。月ちゃんのためにも全身全霊でテストをこなす! その後のことは、その時考えよう! 今は対イザンナに集中だ!

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