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【行間 一】 邂逅

 私は何のために生まれてきたのでしょう?


 全ての命に理由があって。


 全ての命には意味がある。


 これが絶対不変の理だということは、この世に生を受けた時から理解していました。


 であれば、私が生まれてきたことにも理由があるはずでしょう? 何かの意味があるはずでしょう?


 それなのに、なぜ? 

 どれだけ考えても答えが出てこないのは。


 ああ、暇さえあればそんなことばかり考えてしまいます。


 誰かに聞けたらいいのだけれど……あいにく私の周りにそんな方々はいません。


 別に、周りに誰もいないわけではないんです。


 私の周りには多くの方々がいますが、私が何を喋り掛けても無反応なのです。木偶の坊なのです。


 誰でもいい……誰でもいいですから……誰か私に答えをください……。


 このままでは私は……何も分からないまま、終わってしまう……。





        ***





 ……あれ? あれれ? 私、どれだけ眠っていたのでしょう? なんだかとっても気怠くて……苦しくて……どうしようもないくらい、寒い……。


 今、私、どうなってます? 


 誰か答えてください。


 誰か……誰か……誰かっ!!


 どうして誰も答えてくれないんですか!?


 だめ、このままじゃ私……嫌です、それだけは嫌!!


 何も知らないまま終わることだけは、耐えられない!!


 これじゃ私は、一体何のために……!


 何のためにっ……生まれてきたのですか……!!


 お願いっ、誰か……っ!! 誰か、私の声を……っ!!





「うーん、結構弱ってるな。とりあえず……」





 ……え? 


 この声は……私に向けられたもの? 


 衰弱した気力を振り絞って、私はその声がした方向を確認しました。


 目の前に広がっていたのは、今まで見たことも無いほどに明るい、光に満ちた景色でした。


 そしてその光の中に、私の周りに立ち塞がる方々を強引に掻き分けて優しい笑顔を浮かべる、一人の男性がいたのです。





「綺麗だなぁ」





 たったの一言でした、その人が口にしたのは。


 だけど、それで充分でした。充分過ぎました。


 確信したのです。


 私がこの世に生まれてきた意味を。存在の理由を。


 この世に生まれたその時から抱えていた心の靄が、一気に晴れていくのが分かりました。


 ええ、間違いありません。


 この人は……私にとって、光そのものです。





「もう開けちゃったやつで悪いけど勘弁な」





 そう言って柔らかく微笑んだ彼は、ペットボトルの水をゆっくりと私に飲ませてくれました。


 ああ、なんて美味しいのでしょう。


 なんて……幸せなのでしょう。





「おい葉瑠なにやってんだ、遅刻するぞ!」





 友人の方……でしょうか? 


 衰弱しきった私は、名前を呼ばれて離れていく彼を名残惜しそうに見送ることしか出来ませんでした。


 彼の姿が見えなくなったあとも、私の心はまるでのぼせたようなふわふわとした気持ちで一杯です。


 ああぁ……なんて多幸感……こんなの生まれて初めてですよ……。


 ……ん!?


 あっ、彼の名前!!


 彼の名前、あの友人の方が呼んでましたよね!? 葉瑠って呼んでました! 


 うぅ~、はる、ハル、葉瑠! なんて綺麗な名前なのでしょう!


 葉瑠さんこそ私の光です! 生きがいです!


 もう一度……いえ、二度、三度……いえいえ、できれば永遠に!!


 あの人の笑顔を見ていたい! 見ていたいんです、私!


 そのためなら、何を捨ててもいい!


 葉瑠さんの隣に立つためならば、私の全てを捧げたってかまわない!



 そう……全てを……!!



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