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帰宅、日常、そして

「ふぅ、ただいまー」


 あれから時間が経ち、セツナの瞬間移動のストックが溜まってすぐに帰宅した。

 ソファに座り込むと、ドッと疲れが出てきた。うーん、やっぱり我が家は落ち着くなぁ。初めての神域訪問ということもあってか、何だかんだで緊張していたのかもしれない。


「そろそろ晩御飯食べて、それからお風呂に入って……宿題をして……」

「何言っているのよ、まだこんな時間じゃない」


 えっ? 

 ふと時計を見やる。

 驚愕だった。なんと神域に出発してからほとんど時間が経っていないのだ。地球と神域、まさかこれほど時間の流れに差があるなんて!


「セツナが歳を取るわけだ……」

「言い方言い方」


 うーむ……一転して暇になった。


「よし、じゃあ一緒に買い物にでも行くか」

「でも食材は全然足りてるわよ? 最近買い込んだばかりだもの」

「食材じゃなくてもいいよ。なんか無いのか、欲しいもの」


 セツナが自分のために何かを買ってきたことって、一度もない気がする。買い物ついでに好きなお菓子買ってきたりだとか、気に入った服を買ってきたりだとか。そういうの、もっとあっても良いと思うのだが。


「でも悪いわ。無駄なお金は使いたくないし」

「何言ってんだよ、俺の取り柄なんて結構な額の遺産を相続してることくらいしかないんだぞ。俺の存在価値のためにもここは一つ欲しいものを言うべきだろ」

「急に卑屈になったわね……」


 突っ込みながら、顎に手を添えて天井を見つめるセツナ。

 急かすような雰囲気にならないよう、俺もあらぬ方向を見つめて押し黙る。


「そう……ね。強いて言えば、自転車が欲しいわ」

「クロスバイク的なやつ?」

「ううん、ママチャリ。最近、どうも疲れやすいから。買い物の時便利かなと思って」

「なるほど」


 それくらいお安い御用だ。セツナが何かを欲しがったりすることなど早々あるもんじゃないし、彼女が欲しいと言ったものは出来る限り揃えてあげたい。流石に俺の命とか言われたら困るが。


「よし、じゃあなんか食べて、ちょっと休んだら買いに行くか」

「ええ、ハル」




        ***




 と、いうわけでサイクルショップに来たわけなのだが。


「こちらはどうでしょう? 注目の新商品ですよ」


 店員がニコニコと愛想の良い笑顔を浮かべ、とある一台の自転車を提示してきた。自転車についてはあまり詳しくないけど、これがママチャリとしては明らかに高級品だってのは分かる。

 何でかって、俺でも知っているような有名メーカーのロゴがフレームに描かれているから。しかも籠は別売りだし。電動アシスト機能がついているわけでもないし。高校生相手にこんなの引っ張り出すか普通?


「とりあえず試乗してみるか、セツナ」

「えっ、急に言われても乗れないわ」


 はい?


「もしかしてセツナ、自転車乗ったことない?」

「ええ」


 マジか……いや、もはや何も言うまい。何せこの子は、つい最近まで握手もしたことがない稀有な女の子だったのだ。自転車に乗ったことがない程度で驚く俺ではない。


「……練習、付き合うよ」

「ええ、お願いするわね」


 即答するセツナの横顔をチラリと見やる。

 なるほど……どうやらセツナはこの自転車が甚く気に入ったらしい。

 だったらここは家主として、潔く漢を見せるしかあるまい。




        ***




「納車は三日後だって。家まで来てくれるから安心だな」


 自転車を購入した帰り道、俺は後方を歩くセツナに振り返って話しかけた。

 せっかく初めてセツナが欲しがった物だから、奮発してあのクソ高いママチャリを買った。まぁでも、セツナだったら大切に扱ってくれるだろうし、コストパフォーマンスの面から見ても高級品を買うのは間違いではなかっただろう。


「……」

「ん? どうしたんだセツナ」

「しっ」


 人差し指を唇に当て、俺に黙るよう促してくる。一切茶目っ気のない表情に、俺はハッと口を押さえて辺りを見回し──ごくりと息を呑んだ。



 ……あれは、シルヴァニアン……!?



「町中を堂々と闊歩しているのね。あたしは初めて実物を見たけれど……確かに側から見たらただのうさぎにしか見えない」


 ボリュームをとことん押さえて小さく囁くセツナ。


「どうするんだ? このまま隠れてやり過ごすのか?」

「ええ」

「街の人達に危害を加えたりは?」

「きっとまだ情報収集中なのよ、安心して。それに、あれが本体なのか分身なのか判別ができないけれど、どちらにしたって手を出すのはマズイわ。本体なら瞬殺される、分身なら索敵される。ここは待つしかない」


 セツナの言葉に頷き、ひっそりと身を隠す。

 やがて黒いうさぎはぴょんぴょんと立ち去っていき、ようやく俺達は肩の力を抜いた。


「ふぅ、びっくりした……」

「そうね。まだ猶予があるとは言っても、クライア様には早く来て頂かないと……」

「それなんだけど、一体どうするんだろうな。クライア様も言っていた通り、姉さんの時みたいに戦うわけにもいかないじゃん。たっくさん生きてる人がいるわけだから。なのにどうやってシルヴァニアンを倒すんだろう」


 物陰から出て再び歩き出しながら、セツナに質問を投げかけた。


「おそらく、今回の事例と噛み合う能力を持った神様に協力を依頼するのだと思うわ」

「そんな神様がいるわけ?」

「……まぁ。覇天峰位の神様の中に、一人か二人はいると思うけれど」


 げっ! しまった! 地雷踏み抜いちゃったよこれ!


「ま、まぁまぁまぁ、クライア様を信じて待つしかないよな、へっへっへ………」

「何よ不気味な笑い方して」


 覇天峰位の話題はセツナの前ではあまりしたくない。もうちょっと考えて発言するようにしないとな……。


「か、帰ろうぜ! ご飯ご飯! お腹空いたよ俺!」

「道端でそういうことを叫ばないの。もう少し考えて発言しなさい、子供じゃないんだから」

「は、はい……」

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