【行間 一】 殺意
「やぁ、おはようシルヴァニアン」
声がした。
目を開く。
目の前を見る。
「喋ってごらん。いや、君は喋れないか。テレパシーは使えるかな?」
目の前には悪魔がいた。
一目見ただけで理解した。
あの悪魔は……常軌を逸した本物の怪物だ。ワタシとはまるで次元が違う。
「どうだい?」
『……お前はなんだ? ワタシに何の用がある』
テレパシーを使い、奴の脳内に直接声を送り届ける。
「僕はね、君が大悪魔になるのを待っていたんだ。君が下級悪魔から大悪魔に至るまで、ざっと二五〇〇年くらい経ったかな。比較的早い期間でよく登りつめたものだね、お見事」
『前置きはいい』
ワタシが鋭く言い放つと、目の前の悪魔は肩をすくめた。
「君の能力がとても希少だから興味があるのさ。僕だけじゃなく……お、来たね」
瞬間、轟音と共に一体の巨大な悪魔が現れる。
馬鹿な……この悪魔も桁違いだ!
これほどの存在が二体同時に揃うとは……!
「此奴か」
「ああ、これまで見たことのない能力だ。きっと……いいや、まだ期待し過ぎるのは良くないな。まずは成長を見守ろうじゃないか。君もそうしてくれたまえよ」
「フン……」
なんだ? ワタシの知らないうちに妙な話が進んでいるのか?
何がなんだか分からない……。
「ん? ああ、自己紹介がまだだったね。僕と彼は大悪魔さ。ただし二体とも、君よりも上のステージの存在だがね。なぁに、心配することはない。君もいつかここまで上がれるさ」
何のフォローをしているのだろう? ワタシは、別に「上」を目指しているわけではない。この二体と同じステージに立つことなど興味が無い。
「現状僕達『ドゥーム』は四体で構成されているが……そう遠くない未来、ほぼ確実に一席空くことになっていてね。さぁ、そこで君に提案だ」
目の前の悪魔は、ポン、と手を叩いて。
「君が『ドゥーム』になってほしい」
『断る』
「いいや、駄目だ。君がなるんだ」
『なぜワタシに固執する? 他を当たれ、興味が無い』
頑なに拒む。
面倒ごとは嫌いだ。
ようやくまともな知性を手に入れたのだ……これからは──
「ガルヴェライザ」
「やむを得ん」
直後、ワタシの体がいきなり炎に包まれる。
しかし、不思議なことに体は全く熱くない。
熱くなったのは──
『がっ……はっ! お、お前達、ワタシに何をしたァ!!?』
「彼の能力で君の殺意を高めてもらっただけだ。上級悪魔と同程度かな。さぁ、これからは本能のままに破壊と殺戮を楽しんでくれたまえ」
『な、ぜだ……なぜ、ワタシに……』
「そんな疑問は求めていない。『ドゥーム』を目指す、ただそれだけ念頭に置くんだ。君の持つ稀少な力……『ドゥーム』に到達すればきっとより面白いモノへ仕上がるはずなのだから……」
目の前の悪魔は、笑っていた。
ひたすらに、不気味に、不愉快に。
絶対に、こんな奴らの言いなりになど……なるものか……!!
絶対に、ワタシは……!!




