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水没

 最終撃滅輝力砲『メルギアス』。

 神器開発の第一人者・ラランベリ様が趣味の一環で大昔から造っていたという最強の神器──圧倒的威力を誇る迎撃特化型超々巨大砲撃兵器。


「すげぇ……」

「圧巻じゃろう? 圧巻じゃろう?」

「ですねぇ〜……」


 開いた口が塞がらないとはまさにこのことだ──デカい、とにかくデカい! 

 こんなにデカい人工物(神造物?)は生まれて初めて見たかもしれない……一体何百メートルあるんだ、この砲塔!? こんなデカブツから放たれる砲撃……成程、その威力は確かに絶大だろう!


「射程は神域全域。この場所からの移動は出来ぬが、そのデメリットを踏まえたうえでも余りある性能じゃ」

「でも、エネルギー源はどうするんです? 一発撃つだけで凄まじい輝力が必要になると思うんですけど」

「問題ない。総力戦ならではの補充法を確立している」

「と、言いますと?」


 俺が首を傾げると、ひたすらにドヤ顔を浮かべていたラランベリ様は途端に神妙な表情で眼鏡を押し上げた。


「神域の住人を使う」

「……と、言いますと?」


 全く同じ言葉を全く違うトーンで繰り返す。

 ラランベリ様はすぐさま俺の意図を察し、苦笑していた。


「其方の考えているようなことではない。妾は犠牲ありきの方法など好まない」

「なら良いんですが……だとしたら「使う」とは?」

「直接戦闘担当のハル、パルシド、ステラティアと中距離担当のクライア以外は全員超遠距離部隊に回る……というのは前も伝えた通り」

「ええ、存じてます」

「超遠距離部隊のほぼ全て……すなわち神と神使のほぼ全てには、メルギアスの「バッテリー」になってもらう。当然、命の保証はしたうえでな」


 命の保証、という言葉を聞いてようやく肩の力をを抜く。


「バッテリーとしての役目を果たしたからといって死んだりすることはないんですね?」

「死を前提とした作戦は立案しない。この妾が決してそんな真似はさせぬ」


 たとえガルヴェライザを倒して神域を守ったとして、そこに住むべき民がいないのでは意味がない。

 民を犠牲にすることはない、というラランベリ様の言葉を信じる……信じられる御方だ、この神は。


「ただしその代わり、撃てるのは三発が限度……いや、出来れば二発までが望ましい。三発目はバッテリー組の危険性もグッと高まるのでな」

「……二発、ですか」


 決して多いとは言えない数だ。とはいえ、この砲撃自体必殺級の威力なのだろうし……確実に二発とも当てれば、形勢は一気にこちらへ傾くだろう。

 そのために重要となってくるのは、この神器を如何に上手く扱えるかだ。


「ちなみにメルギアスの砲撃を指示するのは?」

「当然、妾じゃ」


 俺の質問に即答するラランベリ様。予想通りの返答に、俺は大きく頷いた。


「妾が造った妾の神器じゃ。適任じゃろう?」

「はい、これ以上なく」


 俺の言葉に対し朗らかに口角を上げたラランベリ様は、メルギアスの大元──諸々の制御システムを搭載しているという超々巨大砲塔の天辺に視線を送った。


「この砲塔の最上部にメルギアスのコントロールルームがある。余はそこから状況を把握しつつ砲撃指令を出すことになる。その為に、戦闘中のハルにも指示を出すこともあるじゃろう。一介の神が神王に指図するというのも何じゃが、堪えてくれ」

「何言ってんですか、頼みますよ。信頼してますからね」

「……フッ、承知した」


 ラランベリ様は、照れくさそうに笑って眼鏡のブリッジに指を添えた。


「して、ハルよ。神王化の方はどうなっておる? メルギアスよりも其方の方が重要なのじゃぞ」

「結構な数の大悪魔を倒してきましたけど、特に変化が無かったので……思い当たる方法はもう一つだけなんですが、それをするには間に合わないのでこのままでいこうかと」

「うむぅ……そうか。まぁ、ハルに参加してもらえないのが最悪のケース……臨機応変に対応せねばな」


 少々不安気ではあるものの、ラランベリ様もクライア様と同じ回答だった。妥協と言うほかないが、とりあえず今は神王化のことを忘れ、現状での戦い方を突き詰めていくべきだろう。


「っと、すみません。そろそろステラティアとの約束の時間なので失礼します」

「ステラティアと? そりゃ遅れたら面倒じゃ、早く行け。また話の場は設ける」

「はい、分かりました! 月ちゃんにもよろしく言っておいてください!」


 芸術的な造形の砲身を尻目に、俺はステラティアの気配を探りながら飛び立った。

 えーと、ステラティアは……よし、さっき別れた場所からそう離れていない位置に居る。これなら充分間に合うぞ……!

 あっ、そういえばパルシド卿にまだ声かけてないけど……まぁいい、ステラティアと合流してから会いに行こう。

 彼は俺と同等かそれ以上に多忙な身だが、今回ばかりはなんとか時間を作ってもらわないとな。





「おい待て」





 ……えっ?

 呆気に取られたまま、俺は文字通り真っ逆様に墜ちた。

 ドンッ! という鈍い音の数秒後に、じんわりと全身に痛みが広がっていく。

 な、なんだ? 今、俺は……何をされたんだ? 

 いや、それよりも何よりも、絶対にありえないモノを目にしたような……。


「馬鹿かテメー、忠告してやっただろうが」


 仰向けに叩き付けられた俺の視界に現れたのは──狂界の創造主にして悪魔を統べる存在。

 紛れもなく、悪魔王ホロヴィア張本人であった。


「か、はっ……あんた、何故……何故今、あんたがここに居る……!?」


 息も絶え絶えに問い掛けた俺の顔に、吸い込まれてしまいそうなほどに漆黒な双眸が突き付けられた。


「んなもん、テメーが不甲斐ないからだろう、ハル」


 あ、ありえない……こんなことはありえない!! ガルヴェライザならまだしも、悪魔王が現時点で俺に接触してくるなど……!!


「確かにオレは言ったよな? 完全な神王化を遂げないと話にならねぇと。何故言う通りにしない。何故不完全なまま思い上がっている。それじゃ勝負にならねぇから忠告したんだぜ、オレは」


 ぐっ……お、起き上がれない! 今、奴は何の力も行使していないのに……あの一瞬でそれだけのダメージを負ったとでも言うのか、“神王”が!


「……いや、真に馬鹿なのはテメーではなくセラフィオスの方か? まぁいい、とにかく見てられねぇ。オレはテメーを信じていたから、さっき送り出しちまったんだよ」

「……は」


 え、送り、出した……?


「もうじき奴は神域に到達する。だってのにテメーは、未だに不完全体かよ? 何のために猶予を与えたと思ってんだよ? 本気で殺し合って殺される分には諦めが付くが、これじゃオレは……」


 悪魔王の表情は以前と同様冷静極まっていたが、その分声に感情が乗っていた。

 俺は彼と親しいわけではない。けれどそれでも、今の彼が彼にとって大変珍しい反応をしていることは察せられた。


「おいテメー、最後に寝たのはいつだ?」

「え……そんなの、ずっと前だけど。だって眠くならないし……」

「馬鹿が。今は神でも元は人、テメーの場合眠くなくても偶には寝ろ。今すぐにだ」

「な……」


 何を言っているんだこいつは……この状況下で寝られるはずがないだろ。


「出来ねぇと言うならオレが寝かし付けてやる。精々手遅れになる前に覚醒しろ、馬鹿野郎が」


 悪魔王の言葉を理解できないまま、その言葉を最後に視界が闇に染まった。

 そして……意識も、暗く……途切れ……沈んでいく……。


「ガル──すぐ──醒め──」


 たぶん最後の最後まで、悪魔王は何か言っていた。けれど上手く聞き取れないまま、俺は……。



 意識が、完全に途絶えた。



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