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【行間 三】 特異点

 早足で長く薄暗い廊下を進んでいく。

 ここに来ての緊急招集……まさかとは思うけど、こんなにも早い段階で……?


 定刻通り玉座の間に到着するも、王の姿は無い。自分が指定した時間くらい守りなさいよ……。

 代わりに、というか先に着いていたのは、見たくもない同僚悪魔共である。


「やぁ、シャルミヌート」

「招集概要は?」

「そう焦ることもないだろう? じきに王様が説明してくださる」


 この感じ……内容を知ってるわね。ほんっと嫌味な奴。


「二人共、静粛に」


 ガルヴェライザが荘厳な雰囲気を醸し出しながら言い放つ。相変わらずクソほど暑苦しいトカゲだこと。

 全くもって鬱陶しい二体の悪魔に舌打ちをした、まさにその時だった。


「ん。集まってるな」


 瞬きの間に、悪魔王が玉座に座していた。いつも通りの無感情な顔付きで、頬杖を突きながら『ドゥーム』の面々を睥睨している。


「さて、と……おいエメラナ」

「はい、王様」


 全幅の敬意を表すように、あのエメラナクォーツが片膝を着いて頭を垂れる。こいつ、ホント王にだけは態度を一変させるわね。当然っちゃ当然なんだけど。


「ブラルマンの件は既に把握してるな」

「勿論でございます」

「どう思った」

「いえ、何も。弱者が強者に狩られただけのこと……それ以上でもそれ以下でもございません」


 えっ……何? ブラルマン? ま、まさか……!?


「王、まさか、ブラルマンは」

「死んだよ。殺された。相手は……テメーの想像通りだぜ、シャルミヌート」

「……ッ!」


 う、嘘でしょ……ブラルマンを彼が!? 

 レムシオラとブラルマンでは実力に大きな隔たりがある……あまりに異常な成長速度! あまりに速すぎる!

 ということは、つまり、この招集は……!!


「ガルヴェライザ」

「はっ」

「二度手間になって悪かったな」

「滅相もない」

「近い内に出撃させる。前回以上に研ぎ澄ませろ。出し惜しみは無しだ」

「御意」


 神域侵攻……! すなわち、既に彼が王の定めた基準を超えているということに他ならない!

 彼は……葉瑠は、本気で……。


「他の二体は前と同じだ。エメラナもシャルミヌートも勝手に動く事は許さん」

「承知いたしました」

「……はい」


 適格者とは……神王の器とは、それほどまでに……。

 信じ難いし、信じたくない。だってあの優しい葉瑠が、レムシオラやブラルマンみたいな上位の大悪魔を殺して回ってるってことでしょ……? 頭がおかしくなりそう……。


「ガルヴェライザ、侵攻にあたって何か質問は? 現神王の力量や戦法が知りたきゃ教えてやっても良いが」

「御冗談を。『ドゥーム』の誇りにかけ、神域諸共真正面から討ち倒してみせましょう」

「ああ、テメーならそう言うと思った」


 王は軽く頷き、頭を垂れる炎龍をじっと見つめていた。

 基本的に王ってガルヴェライザには甘いというか、丸い。こんなつまらない冗談、エメラナや私には絶対言ってこないわ。


「それじゃ話は終わりだ。散れ」


 王の号令を聞き届けた『ドゥーム』は、各々の領地へ戻るために王の城を後にした──この私を除いては。


「……何だ、シャルミヌート。何か言いたい事でもあんのか?」


 明らかに面倒臭そうな声色で問い掛けられるも、私の胸中には王への遠慮など微塵もなかった。

 今この胸にあるもの……それは。


「……彼に会って来たのですか、王は」

「ああ、ついさっきな。ただしシャルミヌート、テメーは駄目だ」


 王は漆黒の手袋に包まれた両手を組み、小さく溜息を漏らす。


「テメーは奴に会わせられねぇし会わせたくねぇ」

「無敵の悪魔王は良くて私が駄目な理由をお聞きしても?」

「馬鹿なテメーのためにもう一度言ってやるが、テメーと奴はまだかち合うべきじゃねぇ。テメーは殲滅戦じゃなく奴とのタイマンを望んでいるだろ?」

「当然です。他の奴らなんてどうでもいい」

「タイマンだと、少なくとも完全な神王化を果たさねぇ内は勝負にならねぇからな。一方的な虐殺の何が面白い?」

「別に面白くなくていいんです。この私が彼を殺せさえすれば……」

「やだね。面白くなけりゃ意味が無い」


 やはり平行線。彼を巡る私と王の意見は、どれだけの口論を経ても決して交わらない。


「テメーが奴にそこまで執着する理由は詮索しねぇが、何であろうとオレの許可無しに奪うことは許さん」

「では私、ガルヴェライザが殺されることを心から祈っておきます」

「そうなりゃ嫌でもテメーの出番は来る。とにかく今は大人しくしとけ。分かったらとっとと失せろ」

「言われずとも帰ります…………いえ、最後に一つ質問が」

「何だよ」


 若干の呆れ顔で再び頬杖を突く悪魔王などお構いなしに、私は粛々とした口調で質問を投げ掛けた。


「王は……彼とガルヴェライザ、どちらが勝つと思っているのです?」

「現状ならどう足掻いてもガルヴェライザが勝つ」

「現状なら、ですか」

「ああ。奴は未だ神王として不完全な状態だからな。だが、もしも完全体になれさえすれば勝負は全く分からなくなる。何しろ、今回は神域も総力を結集して迎撃にあたるはずだからな。完全体の神王と神域全体を相手取るとなれば、さしものガルヴェライザも苦戦を強いられるだろうぜ」

「言い換えれば、彼単独ではたとえ完全体になってもガルヴェライザに敵わない。そんな相手に、どうして王がそこまで固執するのか分かりません」


 そう、そもそもどうして王はこれほどまでに彼に固執するのか。それさえなければ、葉瑠は道を踏み外すことなく私の手で……。


「そうか、テメーは神王セラフィオスの実力を伝聞でしか知らねぇのか」

「さして興味が無かったので。まぁ『ドゥーム』に匹敵するとだけは聞いてますけど」

「しねぇよ」


 王は、途方もなく昔のことをまるで昨日のことのような口振りで言い放った。


「実際に戦ったオレから言わせれば、神王セラフィオスはガルヴェライザにもエメラナにも絶対に敵わなかった。断言していい」

「はぁ、それで?」

「既にハルの輝力量は、不完全体ながら完全な神王だったセラフィオスを超えている」

「!」


 ……なんですって?


「要因の一つは、ゾフィオス時代の賜物だ。神王と『ドゥーム』、二つの境遇が相乗効果を生んで力が増している。単純な上乗せじゃねぇにしても、当時のセラフィオスよりもハルの方が遥かにポテンシャルがあるのさ。ハルの場合、完全体に成るのがゴールじゃねぇ。むしろそこからがスタートなんだ」

「…………それ以外の要因とは?」

「んなもんテメー、わざわざ聞くまでもねぇだろうが。最大の要因は──ハルが運命に選ばれた存在だからだ」


 運命に、選ばれた……?

 ありきたりなフレーズ。けれど王が口にするそれは、途轍もない不穏を孕んでいて。

 私はその結論を、否が応でも察知出来てしまう。




「まさか、彼は……()()()()()()()()()()()?」




 もしも。

 もしもそうだとしたら、彼は──




「ああ、そうだ」




 ──まさしく、運命に選ばれし者だ




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