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バトル・オブ・デビル

 俺が台詞を言い終える頃には、既に四本の触手が肉薄していた。それに対し、俺はあえて神王剣を全開にせず素の状態で触手を弾ききる。


 なるほど、相当パワーが増しているな……!


 それでも剣は素の状態で構わない。全開状態のフォルテシアであれば斬り裂けるだろうが、斬れば当然再生される。ならば斬らなければいいだけのことだ、わざわざ“残機”を増やしてやる必要はない。


 俺が弾くと同時に、残りの四本が地を這うような軌道で胴体へと繰り出されていた。

 これも恐るるに足らない、予想通りだ。そもそも、初手で八本全てで攻撃するのではなく敢えて半数の四本で攻撃してきたあたり、奴の行動は絞れるというもの。

 俺はこの目に映るブラルマン本体の姿だけを捉え続け、爆発的速度で大地を蹴った。

 背後で触手が空を切る。その時点で、俺は既に奴の懐に潜り込んでいた──!


「──ふっ!」

「おうさッッ!!」


 神速の剣を突き出すも、魔力を集中させた拳に防がれる。この反応速度……俺とほぼ同等か!

 だが、それがどうした! 怯む理由にならない! 攻めない理由にならない!!


「はぁっ!!」


 純白の剣閃が視界を濡らす。

 そこには微塵の甘さも無い。一振りごとに必殺の念を込め、一秒にも満たぬ空白で百を超える斬撃を繰り出す。


「ドォララララララァァァ!!!!」


 こいつマジか!? 触手抜き、両拳のみで捌き切りやがった!

 驚きも束の間、俺の背後で伸びていた触手八本が急速に舞い戻ってくる気配を感じ取った。触手に気を取られず懐で好き勝手出来る猶予は一秒も無い、ならば俺が取るべき行動は……!


 一瞬の判断、一瞬の行動。そこに僅かでも迷いが生じれば痛打を浴びることになる。

 極限の状況で俺が選んだのは、剣ではなく水であった。

 左手を振り翳すと同時に膨大な水流をブラルマンの胴体に叩き込み、大きく後退させて背後からの触手を悠々と躱してみせる。

 結果としてこの攻防、優位に立ったのはブラルマンではなく俺だ。たとえこの神王剣を防がれようとも、戦い方次第でどうにでもなることの証左と言える!


「オオッッ!!」


 吹き飛ばされ、四肢を獣の如く大地に押し付けながらも、ブラルマンは引き戻した触手を素早く攻撃に転じさせた──今度は六本か!

 舞うように純白の剣を振るい、ものの一瞬で全て叩き落とす。と同時に、残りの二本がいかなる方向から騙し討ちして来ようとも対応出来るように、身体の周囲に幾つもの巨大な水玉を張り巡らせた。


 ここまで奴とやり合ってきて、よく分かったことがある。

 対ブラルマンにおいて何よりも重要なのは、堅実さだ。冷静に、落ち着いて攻撃を捌いていればまず致命傷は受けない。


 ──ほら来た、残りの二本!


 一本は腹を貫かんと直進し、もう一本は背中を突くように背後から。

 方向は関係ない、どこから来ようが俺の水玉で弾き飛ばせるのだか……はぁ!?!?


 大きく目を見開いた。自慢の水玉は触手を弾くことなくぶち抜かれ、俺の土手っ腹目掛けて急伸している──勢力がまるで衰えていない! 

 まずい、気配的に背中の方も破られてる!? 対処は間に合うか……!?


 前方は目で。後方は気配で。

 瞬時に触手の動きを把握し、ここしかないという刹那のタイミングで、スケート選手もかくやという高速のシングルアクセルを繰り出し、触手の軌道上から外れてみせる。

 俺という標的を失った二本は正面衝突し、膨大な魔力と爆音で大気を震わせた。

 危なかったと一息つく間もなく、相変わらずの凄まじい追撃が俺を追い立ててくる。


 キュッと唇を噛み締めながら、フォルテシアと水弾を駆使して猛攻を凌ぎ続ける中、俺は大悪魔ブラルマンに対する認識を改めていた。


 そりゃあれだけ特異な魔力を纏っているのだから、当然攻撃力もスピードも強化されているであろうことは予想していた。だがその尺度を誤った。俺の水玉を難なくぶち破るなど、戦闘開始時のブラルマンからは考えられない。途轍もない膂力だ。


“六本での攻撃はハルの油断を誘うために敢えて力を抑え、残る二本に魔力を集中させて本気で殺りにきた……ブラルマンらしい戦い方じゃな。どれだけ強くなっても根本的な戦術は変わらないか”

「お前なぁ! 冷静に言ってるけどこれ純粋に脅威増してるからな、ガチで!」


 クソッ、これまでは攻撃の隙を突いて本体へ肉薄したりもしていたが、今は厳しい……一撃一撃が格段に疾く、重くなっている! このままでは奴と俺の不毛な我慢比べが続くことになるぞ……!


“ハル、ぶっちゃけ再生されるのを嫌がっておるじゃろう”

「そ、そりゃそうだろ! 本気の戦いでわざわざ面倒は選ばねーよ!」

“埒が明かぬわ、このまま弾いているだけで勝てる相手ではないぞ。別に多少再生されたところで大した脅威にはならん”


 現在の状況と自分の思考に相反するセラのアドバイスは、簡単に受け入れられるものではなかった。

 セラの言い分に一理あるのは間違いない、だが後々のことを考えれば面倒事を増やすだけとも思える。

 奴はどんな小さな残骸からも再生し、加えて攻撃手段として意のままに操れる。パワーもスピードも増した今、むざむざ残機と手数を増やすことは全く得策とは思えなかった。


“どうしたハルよ。其方はそこまで頭が固い男じゃったか? 別に「再生すると残機が増える」というわけではないぞ”

「──た、確かに」


 そこまで言われてようやく理解した。

 そうか、セラの言う通りだ。自分で思っているよりも俺は随分焦っていたらしい。

 考えれば単純な話だ。先の戦闘において苦しめられた“残機”と“手数”は、再生したから増えていたわけではない。斬り落とされたから増えていたのだ。

 つまり。

 結局、分断された残骸あっての物種でしかないわけで。



「フォルテシア──全開ッッッ!!!!」



 敢然と叫んだ瞬間、純白の剣から莫大な輝力が噴き上がる。

 そして、剣の柄を四十五度捻った状態で振るい、全ての触手を()()()


「グッッ……!! 痛ェなァこの野郎!!」


 苦痛に顔を歪ませ、ブラルマンが触手を引っ込めながら怒号を上げる。八本の触手は、総じて先端部分を消し飛ばされていた。


 そう──「面」だ。


 ただの剣であれば斬る、或いは突くという攻撃手段に限られる。だがこの神王剣フォルテシアはその枠に縛られない特異性を持つ。

 それが全開状態。強大な輝力を纏った剣身は斬撃のみならず、それ自体が必殺の威力を持つ輝力兵器である。

 故にこそ、俺は金色の紋様が刻まれた面を触手の先端に振るい当て、肉体を分断することなく窮地を脱することに成功したのだ。


「なーんか慣れないな……テニスのラケットで戦ってるみたいだ」

()りとて結果は上々じゃ。さぁ、反撃の時じゃぞ”


 改めて剣を握り締め、既に完全再生を果たした大悪魔ブラルマンを見据える。

 さっきの攻撃で、奴をどう殺すかのヴィジョンは大体思い描けた。あとは、それをどれだけ忠実にやれるかだ……!


「──すぅ」


 小さく息を吸い込む。現在進行形で、自らの体内で凄まじいエネルギーが練り上げられていることを実感する。

 小細工は抜きだ。こいつの場合小細工を弄せば弄すほど面倒な事象を引き起こすからな。

 正々堂々真正面からやり合って、殺す。純粋な力比べだぜ、ブラルマン。


「おもしれェ、テメェがそのつもりなら!」


 俺の闘志に呼応するかのように、待ち構えるブラルマンが再び全身から強烈な魔力を解き放つ。

 奴も奴で真っ向から迎え撃とうってわけだ。


 度重なる進化によって、俺とブラルマンの実力差はほとんど埋まってしまった。豊富な戦闘経験を加味すれば、むしろ俺の方が分が悪いかもしれない。

 全く……こうも頻繁に進化・新能力を会得されるのは、相手にしていて精神的にクるものがある。 

 ただ、この戦闘でアレ以上の進化は無い。それだけは断言できる。

 それは、別に奴の「ピークに達した」という言葉を鵜呑みにしているわけではなく、純然たる客観的事実としての見解。

 大悪魔ブラルマンが次に進化するとすれば、それは『ドゥーム』に到達した時──俺が殺された時だけだ。


“来るぞッ!!”


 セラの叫びとほぼ同時に全触手が射出される。まさしく(いかずち)のような速度──だが引かない! 突撃あるのみだ!!



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