壊明の光
「あっ、やべ!」
光刃が本体諸共ドリルを突き破り、大地に触れた瞬間慌てて『フォース』を解除する。危ない、勢い余って本当に星を貫くところだった……!
“うむ、丁度良い感じに地表を焼き払えた。これで触手の残骸を探す手間を省けると言うものよ”
「焼き払えたっつーか、かなりデカめのクレーターできちゃってるけど……」
セラはああ言っていたが、当然触手の残骸が残っていないか入念に確認する。奴のしぶとさと言ったらもう、尋常ならざるとしか言いようが無いからな。
…………よし、どうやら本当に残ってない。
魔力探知を終え、安堵の息を吐き出しながらゆっくりと周囲を見渡した。
何も無い。目に入る物全てが壊れている。
あぁ……本当に滅茶苦茶だよ。ブラルマンを倒すためとはいえ、この星は今後生物が暮らせる環境に戻れるのだろうか。
“時間は掛かるが、この星は必ずまた命が芽吹く。安いものじゃよ、ブラルマン相手なら。むしろよく被害を抑えたほうじゃ”
「そうかなぁ……ていうか、セラは平気なのか? 俺が来る前に来ていた神七体、全員死んだんだぞ。俺は彼等と面識ないけど、セラはよく知った面子ばかりなんじゃねーの?」
“無論、悲しみはある。怒りもある。じゃが、此度は相手が悪かったとしか言えぬ。現れたのがよりにもよってブラルマンじゃからな。奴に出くわした時点でどうあっても助からなかった”
「割り切ってんなぁ」
“仕方がない、一喜一憂していては王は務まらぬぞ”
「…………」
セラのこういうところ、正しいとは思うがちょっと好きにはなれない。とはいえ、じゃあどうすれば良かったのかなんて、俺ごときに正解を導き出せるわけもなく。
まぁそもそも、今の俺にごちゃごちゃ偉そうなことを言う資格など無いが……。
絶対に、もっとやりようはあったと思う。戦い方を工夫すれば、もう少し星を傷付けずに終われたと思う……が、とにかく余裕が無かった。この惨状は俺の未熟さの表れだ。
もしも俺が完全な神王化を遂げていれば、この星はもっとマシな状態で……。
「なぁセラ、俺は強くなってるのか?」
“心配要らぬ、其方は既に充分強い”
「そうじゃなくてさ、ブラルマンと戦う前と後で、だよ。一応今回は修行の名目でもあったろ」
“む……そう言われるとあまり神王化は進んでおらぬな。精神的、技術的にはレベルアップしているじゃろうが”
「……やばいな。これじゃ神域襲撃に……対ガルヴェライザに間に合わない」
「心配いらねぇよ」
え?
「テメェはここで死ぬからな」
──ズンッッ!!!!
「ごッ……!?」
視界が眩んだ。宙に浮いている。天地倒錯の世界。
「ぐっ……! おぉッ!!」
ビタリ! と空中にて停止し、俺を遥か上空へ殴り飛ばした存在をこの目で確かめる。
「……馬鹿な。お前、一体……!」
「何故生きている、か? 言うまでもないだろ、おれは不死身の悪魔だぜ」
だ……大悪魔ブラルマン!! 一切の傷痕を残さず、万全たる状態の化け物が、砕けた地表に佇んでいる……!!
“何じゃ、どういうことじゃ!? どこから湧いてきおった、此奴!!”
「肉片が残ってないか、ちゃんと確認したけどな……くそっ、痛ぇ……一発良いの貰っちまった」
確認といっても、無論目視によるものだけではない。命のストックとなり得る魔力物が残っていないか遥か彼方の地表まで魔力探知を行い、その上で完全消滅を確信したのだ。
それなのに、何故。
「ふぅ。降りて来な、神王。そう警戒すんなよ、おれともっと殺し合おうぜ」
「やだね……と言いたいところだけど。お前を放置して帰っちゃあこの星に来た意味が無い」
「おぉ、そうこなくちゃな」
緩慢に、探るようにゆったりと地上へ降り立つ。二言三言交わしただけだが、復活する前と今とで雰囲気が変わってる気がする……いや、雰囲気だけじゃないぞ……。
奴の纏う魔力……以前より明らかに、澄んでいる……!!
「はは、不思議そうだな神王」
「そりゃそうさ。お前、マジでどこから湧いて来た?」
「下だ」
それが至極当然のことであるかのような、余りにもナチュラルな声音でボロボロの地表を指し示すブラルマン。
この余裕綽々な態度、振る舞い……完全に一皮剥けてやがる。
「悪魔は……と言うより、おれは新しく能力が開花する時、何となく分かるんだ。それがどういう能力で、自分がどうすりゃいいのか……だからおれは、咄嗟に突っ込んでいた」
「肉片を、地面に?」
「ああ、かなり奥深く。魔力すら消え入る遥か下にな。そもそも突っ込んだのは、切り離されて極微弱な魔力しか残ってねぇ滓だ。意識して探ろうとしなけりゃ見つけられるわけがねぇわな」
そこまで種明かしされ、ようやく合点がいく。
俺が魔力探知を行ったのは地表と、地表から精々一〇〇メートル下までだ。残骸がそれ以上奥深くに残っているなど考慮していなかった。
俺が出し抜かれたのは確かだが……こいつの勘の鋭さ、引いては戦闘センスの高さは凄まじいものがある。
「言ったはずだ。テメェと戦うほどにおれは強くなっている……そして今、それがピークに達してる」
そう述べた直後、稲妻の如き鮮烈な輝きを帯びた魔力が全身から放たれる。
く、比べ物にならない……これまでとは“質”が違う!!
“こ、此奴……確実に近付いておるぞ! 何としてもここで殺せ! でなければ、或いは……!”
「冗談抜きでお前の……“ゾフィオス”の後釜になり得る、ってか? そりゃまた、困ったもんだな……!」
元より、大悪魔ブラルマンは最も『ドゥーム』に近い悪魔という前評判ではあった。ただし「近い」と言っても所詮は便宜上の表現であって、実力的には『ドゥーム』と比べるべくもなかった。
それが今は、正真正銘実力的な意味で『ドゥーム』に「近く」なっているのだから、恐るべしと言うほかない。
「それでも」
純白のマントをはためかせ、俺は敢えて悠然と一歩踏み出す。
右手には、今日初めて振るったとは思えぬ程手に馴染む神王剣。
心には、二心同体を謳う神王セラフィオスの魂。
そして、必ずこいつを倒さなくてはならないというこの俺自身の確固たる意志、責任!
いかなる進化を遂げようとも、決して。
こいつに負ける要素など──あるはずがない!!
「いくぜ、神王」
「来いよ、ブラルマン」
いずれにせよ、「次」はない。
自己再生? 命のストック?
それらは全て些末事。
お前とやり合うのもこれで最後だ、ブラルマン。
ここで何があろうとも、必ずお前を……殺す。




