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Resurrection tentacle 〈奥義〉

 

「はッ!!」


 光の刃で触手を再び斬り落とすも、数秒と経たない内に元に戻る──何だこの再生速度は!? しかもただの攻撃じゃない、神王剣の斬撃だぞ!?

 明らかに異常な治癒力に動揺しつつも、俺はすぐに頭を切り替える。いや、切り替えざるを得なかった。


 “この程度で折れてくれるなよ、ハル”

「分かってる! 色々打開策練ってんだからちょっと待ってろ!」


 息つく暇もないほどの猛攻に対処しつつ、俺はあくまでも冷静に現状の把握に努める。


 ……待て、流石におかしいぞ。


 触手を斬れば斬るほど懸念が強まっていく。斬っても斬ってもどれだけ斬っても、奴の内包魔力量が一切変動していない。

 つまりこの再生能力は魔力由来のものじゃない、奴は完全にノーリスク・ノーデメリットで肉体を再生できる生物として進化を果たしているのか……!


「オイオイ神王ォ! 期待外れだぜ、このままいくとォ!」


 喧しく喚いているブラルマンの顔に、俺は無言で視線を注ぐ。

 もしかしてこの超再生力は、触手にのみ適応されるんじゃないか? そのくらい限定的でなければ納得できないほどイカれた力なだけに、自分の中で妙な説得力がある。本体を集中的に攻撃することでブラルマン攻略の糸口になる……そうならなくてはおかしい。


 自分の中で強く結論付け、身体の周囲に複数の水玉を生成・直線状に射出して触手にぶち当て、軌道を逸らす──本体への道が生まれた! 今だ!


 剣を構えると同時に大地を踏み締め、一瞬だけ生まれた間隙を潜り抜けるように突貫していく。

 俺の跡を追うように触手が付き纏ってくるが、それらは水玉に妨害させることで事なきを得た。


「テメッ……」


 追撃を捌かれたブラルマンが魔力を拳に集中させて応戦しようとしていたが、もう遅い。この一撃は確実に決まる!


 キィィィィィィィンッ!!!!


 ブラルマンの強固な外殻に光の刃を突き立てると同時に、花火の如き光の粒子が撒き散らされ、そして──!


「ぐおおおおおぉぉぉぉぉっっ!!!!」


 外殻を突き破り、そのまま貫通した──まだだ、これで終わりじゃない!


「せぇぇぇぇいッッ!!」


 鳩尾付近に突き刺した剣をグイッと回し、体内で無理矢理捻転させると、そのまま豪快に斬り上げて奴の上半身を縦に裂いた。

 血飛沫が噴水のように噴き上がり、赤黒い大地を真紅に染め上げる。当然、この時点であらゆる生物が絶命するはずの一太刀だ。再生能力が触手限定であれば、勝敗は既に決した……!


「グオォァァァアハハッ、痛ってェんだよこの野郎!!」

「……案の定かよ」


 悪夢でも見ているようだった。真っ二つに斬り裂かれた上半身が、絶叫の最中に完全再生を遂げて何事もなかったのように喋っているのである。

 頭部、つまり脳も両断したはずだが、記憶や知能に影響は無さそうだ。いよいよ化け物染みた能力だな……。


「っと」


 水玉(大)を複数生成し、隙あらば向かってくる触手を水の砲撃で往なしていく。

 俺もただ驚かされっぱなしというわけではない、この触手攻撃自体はもう見切った。わざわざフォルテシアで斬らずとも水だけで対処可能な攻撃だ、恐るるに足らない。

 あとは、脳を裂いても即座に蘇るような化け物をどう仕留めるかだが……。


 “確実な方法は肉片すら残さず完全に消滅させることじゃ。再生の余地すら与えなければ間違いなく殺せるじゃろう”

「それはそうだけど、口で言うほど簡単なもんじゃねーぞ」


 ブラルマンの本体は強靭な触手より更に硬い。体感的には五倍硬い。秒で元通りになってしまう再生速度よりも尚速く、ブラルマンを跡形も無く消滅させる……おいおい面倒ってレベルじゃねーぞ、ってあれっ!?


 思考を急遽中断し、フォルテシアを横一閃に振るう──眼の錯覚か!? いや、やっぱ増えてんぞ!?


「そこだァッ!!」

「しまっ……!」


 一瞬だけ気を取られた隙に触手が左肩に叩き付けられ、真横に吹っ飛ばされる。


「っ痛ぅ……」


 地面を滑りながらも体勢は崩さず、しっかりと踏ん張ってみせる。

とはいえ痛ぇ……下唇を噛み締め、打たれた左肩を片手でさすった。

 くそ、流石にパワーあるな……神王衣越しでもこれだけ痛むなんて。


「にしても……」


 依然として臨戦態勢を保ち続けるブラルマンを、少し離れた場所から呆れ顔で見据える。

 先程まで六本しかなかった触手が、なんと八本にまで増えているのだ。僧帽筋あたりから追加で二本生えてきやがった……ただでさえ多い手数が更に増えることになる。今後の戦闘を想像するだけでげんなりするよ……。


 一方のブラルマンはというと、珍しく攻撃の手を緩めて硬直していた。

 なんだ? 攻撃の“溜め”か何かなのか?


「テメェ……なんだその丈夫さは」

「え? あぁ……これでも一応神王なんでね。一発食らって倒れるほど柔な身体じゃない」

「……いいね、やっぱり最高だぜテメェ……!」


 奴が興奮気味に笑みを浮かべた瞬間だった。

 ドンッ! と爆発的な魔力を身体から放ち、八本の触手を隈なく覆っていく──なんだよ、アイツも本気で戦ってたわけじゃなかったのか。

 これまでの戦闘は差し詰め、再生有りきのウォームアップってところか。

 だが、だとしても。


 “ハルの方が上じゃ”


 相も変わらず毅然とした、信頼溢れる声が身体に染み渡る。

 全くこいつ、他人事だと思って適当な事を……と軽口を叩きたいところだが、俺自身も俺はブラルマンより強いと思っている。ただ……その差が歴然かと言えば全くそんな事はなく。

 何より相手は、悠久の時を生きてきた百戦錬磨の大悪魔だ。微々たる実力差などひっくり返せてしまえるだけの膨大な経験値がある。


 小さく息を吐き出し、剣を握り直した。

 今度ばかりは奴も本気で来る、決して油断するな。躊躇うな。本気で息の根を止めにいくんだ。

 今は──それのみに没頭するんだ。



「……っふぅーーーー……」



 全身全霊をもって倒す。

 こいつに殺された皆の無念も、俺がまとめて晴らしてみせる。

 そのために、俺は……“奥義”を行使する……!!



「……『セラ=』」



 おぞましい大地に両足を縫い止め、光り輝く刃を突き出して狙いを定める。


 そして、ただ一点に。


 ただひたすら一点に、倒すべき標的だけを見据えて。



「『フォース』ッッッ!!!!」



 ──それはまるで、超新星爆発(スーパーノヴァ)のようだった


 爆発的な光が剣を中心に膨れ上がり、収縮し、そして──巨大な光剣と化したフォルテシアは、極めて強大な輝力を帯びて急伸していく……!


「な──」


 奴にしてみれば全く予想していなかった致命的な攻撃。それでも奴は一瞬の間に全触手を前方で織り重ね、防御態勢に入っていた。

 理屈や思考ではない、数多の経験による本能的な行動……敵ながら見事と言う他ない動きだ。

 だが、それがどうした!


「貫けぇぇぇぇーーーーーーッッッ!!」

「グ……オ、オオ……オオオオオオオオォォォッッッ!!!!」


 全力全開の神王剣による“奥義”と、全魔力を注ぎ込んだ八本の触手の衝突──その余波は凄まじく、地表が片っ端から捲れ上がり新たな地形が形成されていくほどだった。

 くそッ……マジで硬い!! 本気で魔力を込めればここまで強固になるか、ブラルマン!!


「ヌ……ヌ……オ、オ、オオオオオ……!!」


 奴も必死だ。獣のような呻き声を上げながら、それでも頑として防ぎ続けている。

 しかし依然優位なのは俺だ、このまま押し切らせてもらうぞ……!!


「セラ!! 『セラ=フォース』はこれが最大出力か!?」

 “現時点ではな! 当然じゃろう、其方はまだ完全体ではないのじゃぞ!!”

「ごもっとも!」


 今の俺ではこれが限界。今この瞬間に完全な神王に成らない限り、この状況が頭打ち。

 だったらどうするか? 決まってる!


「これでッ……!!」


 莫大な力を放出し続けるフォルテシアを振るうのは容易ではない。ナイアガラの滝を腕力だけで制御するようなものだ。

 それでもやる。やるしかないのなら、やるしかないんだよ!! 俺が背負ってんのはそういうモンなんだ!


「どうだァァッッッ!!!!」


『セラ=フォース』は絶やさないまま、突き出しの構えから強引に上へ振り上げる。巨大な光剣が天を穿つのも束の間、俺はあらん限りの力で剣を振り下ろした。


 プラチナ色の剣身に迸るプラチナ色の巨大光刃。

 比類なき神王剣の奥義は、防衛行動どころか惨澹たる断末魔を残す暇すら与えず悪魔の肉体を滅していく……!



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