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Resurrection tentacle 〈衝撃〉

「テメェッ!!!!」


 神王剣フォルテシアの出現を目視で確認したブラルマンは、驚愕と危機感を全面に押し出しながら一斉に触手を伸ばしてきた。

 音速を遥かに超える速度……だが!!

 剣の柄を両手で握り締め、不可思議なまでに不規則な触手の動きを正確に目で捉える。


「おおォォッッ!!!!」


 裂帛の雄叫びを上げながら、超速の攻撃に対し超速の剣撃で応える。結果として、襲いかかって来た触手の全てをフォルテシアで弾ききることに成功する。


「ぐぅ……ッ、テメェ、この威力は……!!」


 斬撃を受けたブラルマンが苦しげな声を絞り出していたが、とても楽観的な気持ちになどなれなかった。

 攻撃を完璧に捌けた安心は勿論ある。だがそれ以上に強く湧き上がってきた感情は、目を見開くほどの驚嘆であった。


 硬い……!! この触手、予想を遥かに超える強靭さだ!


 あれほどのしなやかさを持っていながら、この強度……! これが『ドゥーム』に最も近い悪魔の実力か!!


 “此奴の肉体、フォルテシアで斬れないほどなのか!? 想像以上に『ドゥーム』に近付いている……!”


 奴の頑丈さにはセラも驚きを隠せないようだった。ゾフィオス時代にブラルマンの実力をある程度知っていたはずだが、その頃に比べて飛躍的な進化を遂げているというわけか。

 悪魔という生き物は、全くもって本当に恐ろしい。神王剣の斬撃で触手一つ斬り落とせないとなると、理論上神剣アルトアージュが何本あっても倒せないということになる。俺以外の神がブラルマンを倒すのは至難の業だ。


「っ!」


 不意にぞくりと背筋が寒くなる。背後に殺気を感じた俺は即座に振り返りながら剣を踊らせ、立て続けに繰り出される追撃を払い除けた。


「……ハハッ! 想定以上だぜぇ、神王様ァ!」


 ブラルマンは嬉々として骸の山頂から飛び上がると、宙を舞うように六本の触手を伸ばし、無茶苦茶な速さで振り回す。


「くっ!!」


 物凄い速さで魔力を纏った触手を振るう。端的に言ってブラルマンの攻撃はこれだけだ。

 だが威力、速度、範囲、あらゆる点において脅威的と言わざるを得ない。単純な攻撃方法も、ここまで極めれば半端な搦手を使うより余程厄介なものになる。


 “ハル、奴は想定よりもずっと手強い。教えた手筈で全開にしろ!”

「分かってる!」


 幾度となく襲い来る伸縮自在の触手を、今度は剣に頼らず宙を飛び回って躱していく。攻撃を掻い潜りながらも剣の柄を右手で握り締め、



「フォルテシア……全開ッッ!!」



 秘められし桁外れの輝力が烈火の如く噴き出し、純白に輝く美しい剣身を包み込む。

 これぞ神王剣フォルテシアの真髄……! 絶大な輝力を刃に纏わせることで単純に威力が増すほか、神王ならではの強大な奥義を放つことを可能とする!


「ふっ──!」


 それまで回避に徹していた俺だが、フォルテシアの力を解放すると同時に身を翻して切りかかる。

 強大極まる輝力で形成された光の刃が触手の表皮に触れた瞬間、かつてないほどの手応えを感じた。

 これは弾かれない、間違いなく切断出来る……!!


「はぁぁぁぁぁっっ!!」 


 ズバン! と、目論見通り丸太のような触手を一刀両断してみせた。残りは五本──問題ない、いける!

 高速で空を翔けながら、鬱陶しい触手の悉くをズバズバ切り落としていく。よし、奴の最大の武器を全て機能不全に追い込んだ! 本体は隙だらけだ!

 地上に佇むブラルマン目掛け、早急にケリを付けるべく降下していく。

 いくら強い悪魔と言えども結局こいつは『ドゥーム』じゃない、神王が負けてたまるか!


「せやぁぁぁぁぁぁぁっっ!!」


 奴の頭部を問答無用で串刺しにしようと剣を構え──直後、我が目を疑い空中で身を捩る。


「なんっ……!?」


 意味の無い回避行動で遊ぶ余裕はない。事実、俺は仕留める気満々で突貫していた。それを中断してまで身を捩った理由……まさに一目瞭然だった。


「ハッ、テメェ本当に強ェなぁオイ! この距離で躱すかよ、おれの触手をよ!」


 ──六本、全てある。

 なんだ、どういうことだ? 狐につままれたような気分だ、どうなってる?

 全部切断したはずだ、何故何事も無かったかのように俺を攻撃してきてんだ?


「ハハハッ、楽しい楽しい楽しいねェ!!」


 激しく動揺しつつも、俺は無理矢理身体を突き動かして乱舞する触手を避けていく。

 落ち着け、あるがままの現実を受け入れろ。触手は間違いなく斬り落とした。それが復活してるということは、奴の能力によるものだと考えるのが妥当だ。

 一体どんな能力なのか──ざっと考えるだけでも三つは候補が浮かぶ。

 幻覚か、結合か、再生か。そこから更に絞る必要がある。


「いいねェ、洗練された身のこなしィ! おれぁテメェみたいなのと戦いたかったんだ!」


 凶悪な触手が豪快に地表を削り、塵埃じんあいを巻き上げながら踊り狂う。それを的確に躱し続けながら、勝つ為の策を求めて思考を巡らせ続けた。


 斬り落とした際の血飛沫の跡がそこら中にあるってことは、幻覚の線は薄いか。

 なら結合も無い。落とした触手はまだ地面に転がったまま血溜まりを作っている。

 であれば、残された可能性は……!


「よいしょおっ!」


 攻撃にも慣れてきた俺は、丁度触手が折り重なるタイミングでフォルテシアを振り抜き、一挙に三本を斬り落とした。


「ッてェなぁ、オイ!!」

「……!」


 瞬きの間に生え揃った! やはり「再生」か! 


 “自己再生能力……!! 何と希少な……”


 セラの言う通りだ、俺もこの目で見ておきながらまだ半信半疑だった。

 客観的事実として、大悪魔は神より戦闘力が高い。俺やパルシド卿などの一部例外を除いて、タイマンではまず勝てないほどの実力差がある。

 それでもなんとかやってこれたのは、『悪魔は即時再生手段を持たない』という点が大きいように思える。


 地球におけるクライア様と姉さんの戦いはまさにそうだった。再生することを前提として戦うクライア様と、回復の手段を持たない姉さん。もし姉さんに回復の手立てがあったなら、まるで勝負にならなかっただろう。

 神と大悪魔のパワーバランス崩壊をギリギリ留めていた「再生能力」を……こいつは会得してしまっている。よりによって最高峰の実力を誇る悪魔がそれを会得してしまったという事実は、到底受け入れ難いほどの衝撃だった。


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