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【行間 二】 ツキ

 悪魔として順調に成長を重ねたおれは、遂に長年のライバルと相見えることとなる。

 大悪魔ユオリオ。エメラナクォーツと同格の悪魔をルーツに持つ、最高峰の大悪魔。能力系統は……『電気』。このおれの実力を持ってしても分が悪いと言わざるを得ないほどの強者だ。


 戦闘に突入し、改めて思う。確かに分が悪い。いや、分が悪いとかいうレベルじゃない。

 幾度となく戦闘を重ねてきたおれだからこそ、ユオリオに対してあまりに勝算が乏しいことを痛感していた。

 圧倒的なパワーと魔力量でゴリ押し、叩き潰す……我ながらシンプルイズベストな戦法を得意とするおれだが、ユオリオの電撃とはとにかく相性が悪い。

 魔力量にほぼ差が無く、ゴリ押ししようにも決定打が与えられない。奴に全身を電気で覆われると非常に手が出し辛い。

 あーイライラするビリビリする、何なんだよコイツはよォ!!


 手を出しあぐねている間にも、じわじわと肉体にダメージが蓄積していく。長期戦は絶対的に不利、しかし一気に決着を付ける手段もない!

 クソッ、クソッ、クソッ!! ユオリオに殺されるなんて死んでもゴメンだぜ!! そもそも、おれぁ殺すのは好きだが殺されるのは好きじゃねーんだ!

 どうする、このまま嬲り殺されるつもりか!? 活路はないか!? あいつを殺す活路は! 何か……あれっ。


 触手を全て掻い潜られ、懐に入られた。同時にユオリオの身体が、視界が完全に塗り潰されるほど発光する。

 まずい、これは……!




        ***




「ハァ……ハァ……ハァ……」


 視界が暗い。頭ん中も靄がかかっているようでハッキリしねぇ。

 だが……一方ですこぶる身体が軽い。なんだこれは……かつてないほど良い気分だ。

 大きく深呼吸をし、何度か瞬きをすると、ようやく視界が開けてきた。


「……これは」


 おれの足下に転がっていたのは、先程までユオリオだったモノ。完膚無きまでに破壊し尽くされた、見るも無惨な肉塊だった。


「あ、そうか」


 ぞわり、と歓喜が身を包む。

 そうだ、思い出した。おれがコイツをぶっ殺したんだ。惨めに抵抗するコイツを滅茶苦茶にぶっ壊してぶっ殺した。おれという一生命体の存在理由をこれ以上ないカタチで全うしたのだ。


「クハハ……クックックッ……アハハハハハ!!」


 自らの身体を眺める。なんて綺麗なんだ、傷一つない。

 そうだ、そうだ、そうなんだ!

 おれは最高の力を手に入れた……狂界において唯一無二の力を!

 拳を握り締め、気味の悪い空を見上げれば……居る。やはり居やがる。翠玉色の輝きを放つ、人生を賭して殺したい標的が。


「エェェェメラナクォォォォォーーーーーーーーーーツッッッ!!!!!!!」


 叫ぶと同時に宙へ飛び上がる。そして……ふと、もう一体悪魔がいる事に気付いた。

 人間みたいな風貌をした、銀髪の女悪魔だ。いや、この際見た目などどうでもいい。問題は、全てを舐め腐ったような立ち振る舞いが特徴のエメラナが、何故この女に対してはそうじゃないか、という点だ。

 パッと見じゃ普段通りに見えるが、おれにははっきりと分かる。あのエメラナクォーツが、この女には一定の敬意を払っていることを。

 ……何者だ? この女。


「ああ、彼女は『ドゥーム』だよ」

「なにっ」


 馬鹿な、こんな人モドキが……エメラナクォーツと同格だとぉ……!?


「んあー……私帰るから」

「待てやクソアマ。テメェが『ドゥーム』の一角だぁ? 抑えてるにしても魔力が少なすぎんだろうが……どんなイカサマを使いやがった?」

「悪いけどゴミと交わす言葉はないわ」

「ハッ! こいつぁ面白ぇゴミだぜ! えぇオイ!?」


 エメラナクォーツもそうだが、真の強者は卓越した魔力操作が可能だ。この女の異様な魔力の少なさもそういう事なんだろうが……今のおれなら何とでもなるはずだ。 

 何しろ今のおれは不死身の身体を手に入れたも同然なのだから、どうしたって負けようがない。この女の力、推し量らせてもらうぜ……!!


「待てシャルミヌート!」


 あん?

 エメラナクォーツが叫んだと思った時には、もう遅かった。


 女が傘を振り抜いていた。

 それを遮るように突如翠色の結晶が出現し。

 鼓膜が破れんばかりの凄まじい破壊音が轟いた。


 一秒にも満たない僅かな時間で怒涛の攻防が起きる。何が何だか分からないまま、気付いた時には傘で喉を貫かれていた。


「ギャゴッ、ゲッグォッ……!!!」


 貫かれて尚、何故自分がこうなってるいるのか分からない。おれの理解が及ぶ前におれは完全敗北を喫していた。

 喉が……息が、血が……!!


「痛い目は見てもらうわよ」


 再び女の声がした瞬間、視界が暗転する。そして直後、これまで味わったことのない感覚──まるで魂が綻びるような、この世のものとは思えない感覚が迸る。


 ボタボタボタッ!


 粘着質な音が、暗闇で立て続けに木霊した。

 何の音だ? 何が起きているか全く分からない、一体何の……………………ギ。



 ギャァァァァァァアアアアアアアあああぁぁぁぁアアアアアアアァァァァァーーーーーッッッ!!!!!!!!!!



 何だこれは!? なんだこれは!? ナンダコレハ!?!? 

 どうなってる、今のおれはどうなってる!? 生物が、命ある者が耐えられる痛みじゃねェ! 何故生きてる!? 何をされた!?


 まさかバラされたのか、一瞬の内に、全身を!? でなければ到底説明がつかねェほどの激痛!! 

 痛みには慣れてんだ、痛みを怖いと思ったことはねェ……そのおれが……今は恐怖しか感じない……!!


 アァァァ……クソが、クソが、何故だ、何故再生しない……どんな傷も治るはずだ……さっきは死の間際から即時全快したはずなのに……!!



「聴こえるかい? ブラルマン」



 どこからか声がする。近くなのか遠くからなのかも判然としない。痛みが酷くてそれどころではなかった。


「全く酷い有様だな。しかしこの結果は必然だ、彼女に突っかかるのは早過ぎた。もう少し相手の力量を見抜く力を磨かなければ、こういうことになってしまうのだよ」


 言い返そうにも声を発する器官が無い。仮に発声出来たとしても、正論過ぎて言い返す言葉など見当たるはずもなかっただろうが。


「ふーむ、断面に再生遅延の細工が施されているな。あの一瞬で器用な真似をするものだ。痛むだろうが、その内治る。今回は教育的指導として今後の糧としてくれたまえ……ふぅ、二度目だな、君にこれを言うのは。それでは失礼する」


 適当な挨拶であっさりと去っていく。いやいい、あんな奴に助けを乞うくらいなら死んだ方がずっとマシだ。

 そうさ、それよりマシだ……耐えられる……地獄のような痛苦すら、エメラナクォーツに媚び諂うことへの嫌悪感には敵わない。

 いいぜ、どのみち待ってりゃ治るんだ……いくらでも耐え忍んでやる……!!



        ***



 死さえ生温いほどの激痛は、絶え間なく続いた。意識を失うことすら許されない。再生能力が無ければとうにくたばっていたと確信できる。

 おれが再生することを前提として、長く苦しみ続けるような細工を施したんだ、あの女は。クソほど良い趣味してやがるぜ。


 それでも死んだ方が楽とは思わない。死んだら終わりだ、何もかも全て終わりだ。それをメリットとして捉えるようなタマじゃねぇんだよ、おれぁよ……!


「グォ……ガ、ァァァ……」


 よし、クソみてぇな声だが徐々に再生してきた。治りきったらあの女を殺しに……いや、待て。こんな目に遭ってまだ冷静になりきれてねぇのか?

 無策で挑んで勝てる相手じゃない。おれをバラした時だって、奴は実力の半分も出していなかったんだぞ。

 エメラナクォーツに全身を貫かれた時もそうだ。あれから何年も経ったが、結局おれは同じことを繰り返してこのザマじゃないか。


 おれが奴を殺すためには。

 奴と同等の境地へ至るためには。

 今のままじゃ駄目なんだ。実力も勿論だが、何より……精神的な部分を見直さねば、道は拓けない。


 むくりと上半身を起こす。ようやく大部分が再生し終わった。


「……ふぅー」


 不気味な色の空を見上げる。そういえば最近、黒い月を見かけない気がするな……あんな悪趣味な月にも新月という概念があるのか。

 まぁいい、あんな月なんぞ気にする方がどうかしている。叩きのめされたせいか、柄にもなくセンチメンタルな思考になってるみたいだな。


「さて、行くか」


 リスタートだ。

 これまでのやり方、考え方を改めて上を目指す。

 道を拓くのはいつだって自分自身だ。

 おれの最大の武器は触手でも再生能力でもなく、飽くなき向上心なのだから。


 次にエメラナやあの女と会う時は──おれが『ドゥーム』になった時だぜ。




        ***




 とある惑星に降り立った。確か、カルワリスとか言ったっけか? まぁいい、とにかくここに降り立ったのにも理由がある。


「よぉ、テメェ……名前は? 能力は? どんな殺し方がいい?」


 何を隠そう、先んじてカルワリスに降り立っていた大悪魔をぶっ殺すためだ。それ以外に理由などない。


 これといって面白い会話をする間もなく、おれは初対面の悪魔をあっという間に殺した。

 その後すぐに、七体の神がこの星に降り立つ気配を感じ取る。そういえば神とは久しく戦ってなかったな……よし、まとめて相手をしてやるか。


 意気揚々と、カルワリスで暮らす生物を皆殺しにした。戦闘中にこんな奴等を庇おうとでもされたら興醒めだからな。先にあいつらの負け筋を消しておいてやるとは、我ながら甘くなったもんだぜ。

 さぁ、七体もいるんだ。少しは面白いもん見せてくれよ、神域の皆々様。



        ***



 うーん……なんだかなぁ……。

 まぁ、奴等も別に弱くはなかったんだろうが……おれの修行相手としては決定的に不足している。


 あの女にボコされて暫く経つが、おれは肉体的にも精神的にも成熟の時を迎えている自負があった。

 悪魔として悟りを開いた……などと言うと大袈裟だが、そんな気分になってしまっていることは事実であり、同時に最大の焦燥となっている要因であった。


 どうすれば「上」に辿り着ける……エメラナクォーツやあの銀髪女は、そもそもどうやってあの領域に到達したというんだ?

 何か裏技があるのか? いや、エメラナは殺しを重ねれば上に辿り着けると言っていなかったか? ならばおれのやり方に間違いは無いはず……そう、やり方自体は間違っていないんだ。


 ただ、気掛かりなのは……今のおれには明確なライバルが居ないことだ。

 『ドゥーム』には勝てないが、かといってそこらの大悪魔や神では全く相手にならない。向上心は燃え盛っているのに、もどかしくて仕方がない。

 おれと互角以上に戦える相手……そんな奴さえ現れてくれれば、おれは必ず『ドゥーム』に到達できるはずなのに……!


「……ん? この感じ、神か?」

 

 ふと、新たなる来訪者を感知する。気配的には神……いや、なんだコイツは!? 

 思わず立ち上がる。信じられねェ、なんて強大な輝力の持ち主だ……覇天峰位ってレベルじゃねぇぞ!?



 「……ククク、いいねぇ。ツキは──このおれにある!!」





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