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識別不能

「さて、では大悪魔のリストを見てください」


 切り替えはえーなこの女神。


「先程も言いましたが、上位に表示されている星ほど危険な悪魔が居る場所です。つまり、一番上の『惑星カルワリス』が現状最も危険な星というわけです」

「だったら早く行ってあげないとまずいのでは?」


 当然の疑問をぶつけると、ステラティアは依然として落ち着き払った様子でかぶりを振った。


「無論対応済みです。カルワリスには七体の神を送り込んだばかりです。この星にいる大悪魔はレムシオラ程の強敵ではありませんから。問題なく討伐を終えてきますよ」

「そうなのか……なら安心かな」


 口ではそう言っても、中々楽観視は出来ないのが実状だ。悪魔の何が恐ろしいって、戦闘中に進化するところだからなぁ。


「……あれ? 標準レベルの大悪魔に七体も送り込んだってことか?」

「本来は五体でしたが、丁度近場で任務を終えた神が居ましたので、念の為に合流させたのです」

「休む間もなく働き詰めか……負担が心配だ」

「大丈夫ですよ。合流した三体が遂行していた任務は戦闘ではなく、ダメージを受けていた星の修復ですから。消耗はほとんどしていません」

「そうか……なら良いけど。それで、俺はどこの星に行けば良いんだ? 二番目のとこ?」

「ここも既に対応中ですからね。未対応の案件となると……ええと、下の……いえ、ここまで行くと上級悪魔になりますね。これは神使でも対応できますので」

「凄いなぁ、めちゃくちゃ対応してんじゃん。正直侮ってたよ、神域を」


 俺の修行も大切だが、だからと言って悪魔を野放しにして良いはずがない。守れる命は先んじて守る、当然のことだ。


「どうする? セラ。今日のところは一旦帰って……」


 俺が言いかけた瞬間。

 ウウゥーーーッッッ!! というけたたましいサイレンの音が部屋中に響き渡った。あまりの音量に思わず耳を塞ぎかける。


「なんだ、どうした!?」

 “この音は……救難信号! しかもレベルVファイブじゃぞ!?”

「レベルV……!?」


 たしかレムシオラの時はレベルIVだったはずだ。つまり今回は、それさえ上回るほどの危機的状況ということか!?


「神王様! ステラティア卿! 惑星カルワリスからの救難信号をキャッチ! 不測の事態発生!!」


 先程談笑していた神の一人・グリューネルがモニターを注視しつつ、焦燥にまみれた声を上げる。


「ステラティア、レベルVってのはどれだけヤバい?」

「……IVなら、少なくとも星の管轄者は生き残っているということです。Vの場合は……管轄者が息絶え、信号発信者しか残っていない状態を指します」


 信号を出したからといって、その発信者が命からがら逃げ切れている、とは限らない。それほどの危機的状況なら、既に全滅している可能性が高いんだ。


「不測の事態ってこれ、やっぱり進化したんじゃ……」

「違います神王様、信号解析の結果……当初の標的は討伐しています!」

「倒してる!? じゃあ一体なんで救難信号なんかを!?」

「グリューネル、救難種別は?」


 ステラティアが早足でグリューネルに歩み寄って行く。つい先程まで和やかに談笑していたとは思えないほど、場の雰囲気が一変する。

 それも当然か、あのレムシオラすら凌駕するほどの危機的状況ならば。


「種別は……えっ、“識別不能”!?」  

「新手というわけではないのですか? 一体どんなイレギュラーが……現地の映像は映せます?」

「先程から試していますが、現地機器の損傷が著しく……」

「戦闘区域以外の映像も見せてください。何かヒントがあるかもしれません」

「畏まりました、映します!」

「まさか『ドゥーム』じゃないだろうな……どう思う? リントマット」

「十分にありえる話だと思う。尋常ではない事態だぞ、これは」


 四体の神が、戦闘区域以外の現地映像を映したモニターに注目する中、俺は一歩引いた立ち位置で考え込んでいた。


 最初は『ドゥーム』なのかもと思ったが……「ガルヴェライザによる神域襲撃が絶対である」という前提を鑑みれば、多分ない。

 現在『ドゥーム』は三体で構成されている。しかし極めて高い戦闘能力を誇るミヌートは、悪魔王の意向により行動に制限が掛けられていることがほぼ確実視されている。エメラナクォーツに関してはよく知らないが、この悪魔が表立って出てくることはまず無いらしい。悪魔王が差し向けるならまずガルヴェライザからだという話は、セラが日頃からよく言っていることだ。

 そして惑星カルワリスにガルヴェライザがいることはあり得ない。セラによれば、ガルヴェライザは全悪魔中最高の殲滅力を誇るという。モニターに映し出されている映像を見ても、場に存在するだけで星を焼き尽くす化け物がいるにしては、この星は綺麗すぎるのだ。


 “『ドゥーム』の可能性は無いな”


 一人思案に耽っていた俺の頭の中で、冷静沈着な声が響き渡る。


 “ハル、何故か分かるか?”

「何となく分かるよ。俺はまだ『ドゥーム』のレベルに達してないからな。成長を待ってる悪魔王が、前倒しで『ドゥーム』を動かすとは考えにくい」

 “うむ、その通りじゃな”


 満足気なセラの言葉を受け、俺は少しだけ息を吸い込んで口を開いた。


「みんな、ちょっといいか?」


 ステラティア含む四体の神が一斉にこちらへ振り返る。その眼差しは、まさしく救世主を見つめるようで。この眼差しを向けられるに相応しい存在に、俺はならなくちゃいけないのだと。

 ……怖気付くな。毅然とした態度をとれ。俺がみんなを引っ張るんだ。


「色々考えたんだけど、今回の件は『ドゥーム』だとは考えにくい。ちなみにセラも同じ考えだ。とりあえず『ドゥーム』と切り離して考えよう」

「しかし神王様……救難レベルVで“識別不能”となると……」

「まぁ滅茶苦茶強い悪魔には違いないだろうけど。レムシオラに匹敵、或いは凌駕する大悪魔も居ないことはないだろ?」

「そ、それはまぁ……」

「ガルヴェライザのこともあるし、敏感になるのも分かる。何れにせよ、今から俺がカルワリスに行く。生き残ってる奴がいればすぐに送り返すし、謎の敵も俺が倒す。ここは一つ、俺を信じて任せてくれ」


 出来る限り堂々と言葉を述べる。正直俺も、不安が無いと言えば嘘になるが……一番上に立つ者ならば、皆の不安を払拭することが求められる。そのための神王だ。


「それじゃ行ってくる」

「あ、ちょっ、待ってくださいハル様!」


 早速ゲートを開こうとした俺を、慌てた様子でステラティアが引き留めた。


「現地映像の痕跡から、候補の悪魔を絞りました。非常に強大な力の持ち主ですが、お伝えしておきます」

「ありがとう、助かるよ」


 敵の情報を事前に知っておけば、ほとんどの場合で有利に働く。この短時間で候補を一体に絞り込めるあたり、この機関の設備は確かな性能があるようだ。


 ステラティアから手短に悪魔の情報を教えて貰った俺は、四体の神に見守られながらゲートを生成する。


「ハル様、ご武運を」

「ありがとう、ステラティア」


 今しがた得た情報を頭の中で反芻しながら、全く振り返ることなくゲートの中へ飛び込んだ。


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