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凶悪

 蠢く世界。蠢く闇。

 暴力こそが至高だと。

 暴力こそが全てだと。

 生まれた時から知っていた。


 この世の全ては暴力で決まる。

 弱者に存在価値は無く。

 ただ生まれたことを恥じるべき。

 何故生まれたのかと嘲笑うだけの対象。


 変えたい何かがあるとして。

 変えたい世界があるとして。


 力も無しに何が出来る?


 何かを守るにも力が要る。

 何かを壊すにも力が要る。

 何かを成し得るには力が要るんだ。

 全てにおいて暴力は不可欠なんだ。


 それを呪文の様に繰り返していたのは、まさしく奴だった。



「殺したまえ。心ゆくまで殺意に身を委ねるんだ。それだけなんだよ、本当に。何も難しく考えることはない。どいつもこいつもただそれだけのことすら出来ないんだ。悪魔というものはね、強くなるほど知能が増すように出来ている。進化を重ねるほど殺しから遠ざかる輩の多さと言ったらもうね……嘆かわしいったらないよ! しかし面白い事に、君達はそういう風に創られたんだ。矛盾を抱えた君達はね、その「壁」を……思考の「壁」を壊して、ようやく僕らと同じステージに立てる……と、そういうことなんだと思う。これはね、あの御方が君達に与えてくださった試練と言っていい。その試練を乗り越えれば、見える景色は確実に変わるはずだ!」



 暴力を是とする思想。それを糧とする生態。

 なんて楽なんだろうと思った。天性の素質があると思った。

 奴がごちゃごちゃと述べた陳述は、言ってみれば魚に泳ぎ方をレクチャーしている様なものだ。そんなもの、わざわざ他人から教わらなくてもやれるだろ、バッカバカしい。

 詰まるところ、まず間違いなく。


 おれは、生まれた時からこうだったんだ。


 悪魔なんていう、分かりやすい化け物になる前から。

 おれは暴力と殺しを日常として享受し、自由気侭な生活を送っていたんだろう。


 何を「善」とするか。

 何を「悪」とするか。


 定義はそいつによって異なるだろう。

 あれは正義、あれは悪……だなんて、くだらない議論に明け暮れる馬鹿どもの了見など考えるだけで虫唾が走る。

 しかし、確固たる事実として。


 おれは「悪」だ。


 生まれた時からそうなんだ。

 生まれ変わってもそうなんだ。

 今後も。何があろうとも。

 それだけが、おれにとってただ一つの軸となっている。


 殺して殺して殺しまくる。

 生まれた意味。

 生まれた理由。

 おれの全てがそれに集約されている。



「さぁ、君に名前を与えよう。君の名は──『ブラルマン』」



 動機を持たない生まれながらの殺戮者。それがおれだ。

 全てを殺す。どんな奴でも殺してやる。

 そう……今目の前で能弁を垂れるこいつすらもいずれは殺す。

 殺して、殺して、殺しまくって、その先に……あれ、その先? 先ってなんだ? 殺す対象がいなくなったら何をするんだ?

 うーん、まぁいいか……その時はその時考えればいいんだもんな。考えても仕方が無いってやつだ。

 今やるべきことははっきりしてんだ。この目に映る全ての命を奪い、終わらせる。俺の命は命を奪う為に存在している。命を奪うことでしか全う出来ない命もあるわけだな。


 よーし、俄然楽しくなってきた!

 どいつもこいつも片っ端からぶち殺して回ろう!


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