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【行間 一】 特別

 荒廃した大地の上に、巨大な大悪魔の死体が転がっていた。今しがたこの手で屠った名も知らぬそれは、崩れるように灰となり天へ登っていく。


「かなり強い悪魔じゃったな……この儂が梃子摺るとは」


 若干ひしゃげた肩の装甲を摩りつつ、ぽつりと呟いた。

 日増しに狂界の戦力が増強しているような気がする……何かの前触れじゃろうか。

 輝力も大分消費してしまった、速やかに帰還を……、



「やぁ」



 音も無く。余りにも突然に。

 光り輝く一体の悪魔が現れた。


「久々だね、セラフィオス」


 翠玉色の刺々しいボディをした長身の悪魔は、まるで親しい友人のような穏やさで儂の名を呼んだ。


「エメラナクォーツ……貴様……!!」


 まずい……万全には程遠い今、エメラナクォーツの相手は不可能じゃ! コイツはこれまで倒してきた悪魔とは格が違う!!


「近頃、狂界でも君の噂はよく聞いている。まさに一騎当千の所業……見事と言う他ない」

「……ふん、これは驚いたな。悪魔にも敵討ちの概念があるのか」

「ん? 深読みは結構だが、この場合は的外れの早とちりに過ぎないな。僕は有象無象の敵討ちなどする気は無いさ」

「ならば何をしに来た?」

「……君は、何故戦っている?」


 問いに問いで返すなと思ったのもあるが、何より奴の意図が分からず眉を顰めた。


「何故か、だと?」

「君は悪魔を殺して何を得ている?」

「平和と安心。それ以外に何がある」

「なんだ、強さを求めているわけではないのだね」


 きょとんとした声色でそんなことをほざかれ、柄にもなく苛立ちが募った。エメラナクォーツという悪魔は、喋り方からちょっとした仕草に至るまで、他者をどうしようもなく苛つかせる天性の素質の持ち主だ。


「貴様は一体何が言いたい? はっきり申せ、間怠っこしい」


 エメラナクォーツは小さく嘆息すると、スゥッと右手を差し出した。


「今、僕がこの手から『結晶』を放てば君は死ぬ」


 ハッとして大きく後方へ下がる。当然、奴が真に本気ならばこんな行為に意味は無い。

 遅すぎる回避行動を眺めていた奴は、煌めく宝石のような右手をゆっくりと下ろし、やれやれと肩をすくめる。


「君はもっと強さを求めるべきだ、セラフィオス。せっかく君に期待している御方がいるというのに」

「黙れ、余計なお世話じゃ。貴様ら悪魔共がこの世から消え去れば、くだらん戦いなどしなくて済むというのに」

「その思考こそくだらないな。君が望む平和と安心とやらは、悪魔との戦い無くして得られないのだから」


 静かに背を向け、この場から去ろうとするエメラナクォーツ。何なのじゃ、此奴は一体全体何をしに来た……?


「──セラフィオス。君にもうじき会いたいと言う御方がいる。僕にとっての主、狂界の創造主がね」

「!!」


 度々此奴の口から飛び出す『あの御方』……そいつが遂に儂の前に現れるというのか。


「ここ最近、強力な悪魔を君に送り込んでいるのは僕だ。これからも強い悪魔達を君にぶつける。それらを乗り越えた時──あの御方は君に会いに来るだろう」


 大悪魔エメラナクォーツは、今度こそ儂の目の前から消えた。

 極大の絶望を纏った言葉を残して。



 ***



 ふぅ……全く憂鬱な事ばかり起きるものじゃ。今後について考えを練らねば……。


「あれ、セラ様。おかえりなさいですの」

「む、プラニカ」


 重い足取りで我が城へ向かっていたところ、神域の中でも特に気心の知れた神と遭遇した。

 名はプラニカ。パルシドと共にこの神域を背負って立つべくして生まれた特別な神だ。


「なんだか浮かない顔ですの」

「実はだな……」


 事情を話すと、プラニカは目を丸くして子供のように笑い声を上げた。


「ぷふふっ! 狂界の親玉、まるでセラ様に恋してるみたいですの!」

「そんなわけないじゃろう……」


 呆れと安心。二つの感情が入り混じって自然と肩の力が抜けた。狙ってやってくれているなら大したものなのじゃが、生憎プラニカは馬鹿なので単なる偶然に違いなかった。


「ま、でもなんとかなりますの。そんなに気負う必要なんかありませんの」

「根拠は?」

「なんとなくですの!」

「うーん」


 此奴は生真面目なパルシドとは対照的だった。他の神とは異なる生まれ方をしたプラニカとパルシドは、姉弟と言うべき関係なのじゃが。


「そうそう、セラ様が出払っている間にステラとお話しましたの。明日ラランベリにド派手なイタズラを仕掛けてやりますの」

「呑気な奴らじゃなぁ相変わらず。程々にしておくのじゃぞ」

「はーい!」


 儂が望む平和とは、プラニカ達神域の面々を含め、この世の生物が安心して暮らせることだ。そのために、殺意が生物を()して歩いているような悪辣なる悪魔共は殲滅する他ない。

 神王とはそうあるべきだ。儂は特別な力を持って生まれてきたのだから、この力を正しく振るう義務がある。

 たとえ儂の理想とする世界に儂が存在しなくとも構わない。

 儂の理想郷に、儂は不可欠な存在ではないのだから。







 そして、月日は流れ。

 儂が数多の大悪魔を屠り、目に見えて強くなった頃。

 一体の化け物が現れた。

 究極無二の力を誇る狂界の創造主──悪魔王。

 儂は全身全霊を懸けて挑んだ。これまで培ったものを全て活用し、何もかもをかなぐり捨てる勢いで立ち向かった。

 その結果は……もはや語るまでもない。


 大悪魔ゾフィオス。

 此処に、水を操る一体の悪魔が誕生した。




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