追想
「ねーさん」
「んー? どうしたの葉瑠くん」
「ねーさんはどうしてアルバイトをするの?」
「それはね、夢のためだよ」
「ゆめ?」
「うん、夢。私はね、この広い世界を見てみたいの。そして自由気ままに旅がしたい。今はそのための準備中ってわけ」
「そんなのさ、父さんに頼めばすぐじゃない? ねーさんが頼んだら、すぐにでも行かせてくれるに決まってるよ」
「ふふっ……ううん、お父さんにもお母さんにも頼らずに、自分の力で叶えたいんだ。だって、葉瑠くんが生まれるよりも前の、ずーっと小さい頃からの夢だもん。これだけはちょっと譲れないかな」
「へー、よくわかんないけど、りっぱなことだとおもう!」
「あはは、ありがと葉瑠くん。あぁ、でも、昔とは夢の内容が少し変わっちゃったんだよね」
「え? どういうこと?」
「この夢を掲げた時、私は一人で行くつもりだったんだけど……今は違う。私が世界を旅する時は、葉瑠くんも一緒に来てほしいんだよ。どう? 一緒に」
「えー! いくいく! ねーさんと世界旅行、ぜったいたのしいじゃん!」
「ふふ、葉瑠くんならそう言うと思った! 楽しみに待っててね。必ずお金を貯めて、私とあなたの二人で、一緒に……」
これは……十年ほど前の会話だったと思う。
自らの夢を語るあの人の瞳は、とても輝いていて。
ああ、俺の姉さんはなんて立派な人だったんだろうと。
歳を重ねるそのたびに、俺はあの人へ尊敬みたいな想いを強く抱くんだ。
それは十年経ったあの日から、決して色褪せることは無く。
ずっとずっと、想い続けて……。
今日まで生きてきた。
その結果がこれか!?
俺の姉さんの名前は月野凪。
そうさ、凪だ……凪姉さんだ!!
間違っても、まかり間違っても!!
『ミラ』などという禍々しい怪物なんかじゃない!!!!
違うんだ! 違うはずなんだ!
だって姉さんは本当に優しくて! 本当にあったかい人で!
地球の生命を滅ぼす存在なんかとは、対極のはずなのに!!
どうして……。
どうして……なんだよ……?
あんた……そんなんじゃなかっただろ……?
これはただの悪い夢だって……。
あの頃みたいに、笑い飛ばしてくれよ……。
姉さん……。




