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1日目朝

「墜落船? 新しいのは珍しい。昨日の宇宙嵐にでも巻き込まれたか」


 久しぶりに出した声は掠れていたが、そんなことよりも真新しい船が私の居住地近くに墜落していたことに驚いた。昨日は随分小惑星も落ちてきていたし、それにでも巻き込まれたのだろう。


 不運なことだが外宇宙を航海するなら覚悟しておくべきことだ。


 全身を覆う防護服で気温の変化からも守られているが、きっと外は灼熱の地獄だろう。それも長くは続かない。この星のテラフォーミングはまだまだ始まったばかりだ。


 船に備え付けられた空気が抜ければすぐに火も収まるだろうと見守るつもりだったが、動く何かを見つけ警戒を強める。


 二度と使うことはないと思っていた小銃を抜いた。

 防護服のバイザーの倍率を上げれば、保護テープで破損部を必死に直そうとしている人だった。


 とっさに私は人影に向かって走り出す。嵐の間に作った駆動制御装置を搭載したブーツだから、絶命する前に何とか間に合うだろう。


 墜落現場に辿り着く。

 酸欠を起こし暴れる相手を押さえ付け、破損箇所に修復ジェルを塗り付ける。すぐに固まるそれを確認しながら、酸素を受け取るバルブに自作品の一つを押し込んだ。


 バルブを通して大気が供給され始めて、パニックを起こしていたらしい相手から縋り付くような視線を向けられる。バイザー越しに見える顔はまだ幼さを残す青年のものだ。


 近くの避難小屋に案内するため、立てと身振りで伝えて私は歩き出す。


 荒涼とした大地を先導しながら私は思い出に浸っていた。


 ここに降り立ってから何日経ったのかも覚えていない。そもそもここは地球とは一日の長さが違う。大気すらない不毛の大地だ。


 持ってきたのは降下用の居住ポットの中に積み込めた分だけだ。

 最低限の物資と私の発明品たち。

 それと少しの思い出。

 それだけあれば十分で、ここまで操縦してきた母船は軌道上に置いてきた。あとの材料は全てこの星にある。


 元植民惑星予定地。

 星系名称なし。

 座標情報不明。

 名称不明……多分なし。

 決める前に地球系連邦政府が内戦に突入したため詳しい情報がロストしたとされる失われた惑星がここだった。


 内乱では地球政府と敵対する陣営に所属していた。

 前線にも出たし、内勤も行った。星の数ほどある中の小さな組織だったから仕事の選り好みをしている余裕はなかった。大人も子供もみんな生き残る為に戦った。


 殺伐とした日々の中で、唯一の趣味が機械いじりだった。宇宙では少しの故障が命に関わる。発想を転換し問題を解決する。新しい何かを作り出すのが楽しくて仕方がなかった。


 趣味と実益を兼ねると陣営の上層部にも判断されて、私の開発は大目に見られていた。


 戦争には負けたけれど、その集大成がここの開発に生かされている。


 丘ひとつ越えたところに正方形のユニットを組み合わせた避難小屋が見えてきた。空から見ていたのだろう。着いてくる相手に動揺はない。


 自動扉を抜け、ユニット内の気圧の安定を確認する。不自然にならないよう距離もとれた。


 珍しいのか青年は入り口に立ち尽くしている。


 小銃がすぐに抜けるように確認し、ゆっくりとヘルメットを脱いだ。


「事故か? 災難だったな」


 先程よりはマシな声が出たがまだ掠れている。私の顔を見た相手は一瞬の硬直後、慌てて壊れかけのヘルメットを脱いだ。


δ1(デルタ・ワン)!」


 捨てた筈の名前を呼ばれてとっさに小銃を引き抜いた。


「閣下、ようやく見つけました!」


 私が何かする前にその青年はブワッと涙を流し崩れ落ちるように座り込んだ。


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