3日目
ついに訪れた3日目。
初日、2日目とスムーズに事が運んだわけではなかったが、それでも俺や班のメンバーたちは楽しめているし、ユイちゃんにも会う事ができたし、ここまではまずまずと言える。
ただ一つ、岩城さんの真意だけが謎のままだったが、あまり深刻には考えていない。
俺まで緊張してしまえば片山もやりづらいだろうし、常日頃から思っているが、彼なら大丈夫だろう。
ということで、俺たちは今日の点呼も済ませ、班ごとの自由行動を開始しようとしていた。
「今日は清水寺だったよね」
浅川がハキハキとした声で確認する。
まだ昼前だというのに、昨日もかなり歩き回ったというのに眠気を感じさせない凛々しい表情。
俺だって真面目に学校に通っている身だし、遅刻癖もないが、それでも浅川のように振る舞うことはできない。
メイクも丁寧で、服装や立ち振る舞いにも一切の乱れがないのは日頃の努力の賜物だろう。
「そう……です。夕方までの自由行動の後は、京都駅で点呼をとって新幹線で帰る……はずです」
続いて岩城さん。昨日は泣いて宿に帰ってしまったと聞いたが、心なしか目が少しばかり腫れている気がするだけで、様子に後ろめたさはない。
浅川が話を聞いて励ましてくれたのか、それとも……。
「よぉし、それじゃあ出発だ! 今日も俺のガイドが火を吹くぜ!」
考えても仕方ない。俺の隣で元気に――空元気の部分も多々あるだろうが――腕を上げている片山の行動次第だ。
・
清水寺へのアクセス方法はいくつか考えられたが、1番確実なのはバスだろう。
京都駅から清水寺のほど近くに停車するバスが出ている。
だが、俺たちは夕方まで清水寺一本で時間を潰すつもりでいたし、あまり予定を詰めてしまってもいけない。
時間のなさは心の余裕のなさに繋がってしまう。
そのため、俺たちは位置的に少し手前の駅で降りて、京都の風情を楽しみながら徒歩で清水寺に向かうことにした。
観光シーズンであれば渋滞の可能性もあるし、場合によってはバスよりも徒歩の方が早い……こともあるかもしれないし、ないかもしれない。
「清水の手前は坂らしいし、疲れないようにゆっくり行こう」
「そうだね。もし宮本くんが疲れたらいつでも言って。私がおんぶしてあげるから」
「おお、丁重にお断りさせていただくよ」
最近、浅川は俺に受け流されるとなんとも言えない顔になる。
悲しんでいるのではなく、ぞくっ、という擬音が似合いそうな顔だ。
まさか塩対応を楽しんでいるとは思えないが……特殊な性癖に目覚めてしまったのだろうか。
それとも、普段はチヤホヤされているから新鮮に感じているのだろうか。
幼い頃から大切に育てられたお嬢様は、案外他人に叱られることを望んでいるとどこかで聞いた事があったし、人間とは複雑なものだ。
京都の街並みといえど、いかにもなのは観光地周辺だけで、俺たちが歩いている道は東京と遜色ない。
だが、それも少しの間だけで、やがて「雅」な雰囲気へと変わっていく。
「……さて、ついに辿り着いたぜ清水寺!」
待ってましたと言わんばかりに現地ガイド・片山の解説がスタートする。
「清水寺と言えば、一般的には切り立った崖上に建つ『清水の舞台』が有名だろうな。清水の舞台から飛び降りる、なんて言うだろ?」
「死ぬ覚悟で決断をする……的な意味だったよな?」
「その通り。まぁ、今では飛び降りは禁止なんだが……それくらい迫力ある場所ってことだ」
「それ以外に見る場所はないの?」
浅川も質問すると、片山は首を横に振った。
「いや、確かに一番有名なのは本堂だろうが、実は清水寺の境内には重要文化財の建造物が15棟もあるんだ。入ることができる建物は少ないが、見るだけで楽しめるものばかりだぞ。そう言っている間に――あれだ」
片山が指さしたのは、巨大な赤門。
「これは『仁王門』だな。応仁の乱で消失したものの室町時代に再建され、現在では重要文化財に指定されている」
「片山って応仁の乱とか知ってんの?」
「全然知らん。応仁の乱も、室町幕府もな」
知らんのかい。
そうツッコミたかったが、視界に広がる門の迫力に圧倒されてしまった。
「デカいだけじゃなくて上品だよなぁ……」
思わず呟くと、隣にいた浅川が反応する。
「やっぱり男子って大きい方がいいの?」
「そりゃあまぁ、ロボットとか詳しくないけど、カッコいいとは思っちゃうよな」
「ふぅん。触り心地とかはあんまり気にならない?」
「触り心地? ロボの話だよな?」
「うん。あとは張りとか」
「……それはロボの話だよな?」
俺たちが噛み合わない会話をしていると、片山の方からも声が聞こえた。
気付かれないように見てみれば、岩城さんと何か話している。
内容までは聞き取れないものの悪い雰囲気ではない。
「良い感じだね」
浅川も俺と同じくで気になっていたようだ。
「昨日の夜、何かしてくれたのか?」
問いかけると、浅川は首を横に振った。
「ううん、特に何もしてないよ」
「本当に?」
「私が部屋に戻った時には少し落ち込んでたみたいだけど、自分の中で整理できてそうだったの。多分、岩城さんも分かってるんだと思う」
片山が自分に悪意のない好意を向けているということに、だろう。
だとしたら、片山にとっては良い方向に進んでいる。
いつまでも門を見ているのも変だということで、俺たちは順路に沿って進むことにした。
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