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2日目 その5

お知らせ


本作のタイトルを『いつも馬鹿にしてくる美少女たちと絶縁したら、実は俺のことが大好きだったようだ。』と改めまして、講談社ラノベ文庫様より8月2日に発売されます!


イラストレーター様にヒロイン達を素敵に描いていただき、作品としても大幅な修正・加筆を行なっているため、より楽しんでいただけるかなと思います。


よろしくお願いいたします。


「お待たせしました。こちらふわふわパンケーキとりんごパフェになります」

 

 暑さにやられた犬のような、とろんとしたパンケーキ。薄切りのりんごがそびえる、パフェ界のサグラダ・ファミリア。

 二人とも店員さんに会釈こそしているものの、目線はそれぞれ、目の前に置かれたそれに注がれていた。

 

「見てこれ、すっごくふわふわ! 優太くんのパフェも食べがいがありそうだね!」

「確かに……作るのに300年くらいかかりそうな大作だ」

 

 文字だけのメニューを見た時には、まさかここまで巨大なものが来るとは予想していなかった。

 それと、サイズが予想外だった俺はともかく、晩飯もあるだろうによくパンケーキなんて頼めるな。

 

「男子と女子の胃の構造は違うのかもしれないな……」

「ん? どうしたの?」


 大きな目が、不思議そうに俺を見つめる。

 真っ赤なりんごと、正反対な髪が視界に収まっていて、ちょっぴり幻想的だ。

 

「いや、なんでもないよ。食べよっか」

「うん! いただきます!」


 どうでも良い謎はそのままに、互いに食事の挨拶を済ませる。

 ……俺の場合は戦いの始まりを告げる雄叫びとも言えるが。


「っていうか、まさかユイちゃんも修学旅行に、しかも同じ京都に来てるなんて思わなかったよ」


 そう。あの時「ゆうた」を呼んでいた声は、俺の知っている女子のもので、さらにその対象も自分自身だった。

 俺の事を「優太くん」と呼んでいるのはユイちゃんくらいだし、まさか修学旅行の時期も場所も被るなんて思わないだろう。

 未だに少し夢気分だ。


「ね! いや、私も最初は幻覚かなと思ったよ? 優太くんを想う気持ちがついに暴走したのかなって」


 もしそうだとしたら、それは季節外れの熱中症だ。


「それか、優太くんを召喚しちゃったのかなって」

「召喚?」

「うん。この間もらったイルカのペンスタンドを持ってきてるし、それが触媒になったのかなって……」

「ペンスタンドは絶対修学旅行に必要なくない?」


 必要ないし、どうせ召喚されるならもう少しカッコいいもので呼びかけに応じたい。剣とか。


「そしたらね、リコちゃん……はわかるよね?」

「わかるよ」


 リコちゃんは確か、ユイちゃんの親友だったはずだ。

 以前、うちの高校の前で話を聞いた時に名前を聞いている。

 その後もちょくちょく世間話に登場していたな。


「そのリコちゃんが、『いや、あの後ろ姿は多分彼だよ』って言うから、勇気出して呼んでみることにしたの!」

「……リコちゃんはなんで俺の後ろ姿知ってるわけ?」

「たぶん、二人で写ってるチェキとか見せてるからかな?」

「そういうことかぁ」


 ただ、チェキで後ろ姿が写ることなんてそうそうないはずだ。

 少なくとも、俺とユイちゃんが過去に撮ったチェキには存在しない。

 ……リコちゃん。実はかなりの強者の可能性があるな。


「今さらなんだけど、友達置いてきてよかったの?」


 すっかり驚きと雰囲気に流されていたが、振り向いた時にいたのは彼女だけではなかった。

 目の前にはユイちゃんしかいなかったが、後方には同じ制服を着た数人の生徒がいたのだ。

 おそらく、本来の俺たちと同じように班行動をしていたのだろう。

 こちらを指差してきゃあきゃあ楽しそうに話し合っていたのも、同じ班のメンバーの恋路に反応していたから……のはず。

 ともかく、せっかくの修学旅行を友達と楽しまなくて良いのか、そう思ったのだ。


「ぜんぜん!」


 全然なのか。


「むしろ、みんな行け行けオーラすごかったんだよ! 私が普段から優太くんの話してたからさ〜」

「それはちょっと恥ずかしいけどね。まぁ、ユイちゃんが良ければ安心だよ」

「心配してくれたんだ。ありがとね!」


 見慣れた柔らかな笑顔に、自分のいる場所が京都ではないんじゃないかと思ってしまう。

 そうして会話を続けながら甘い時間を過ごしていたが、ふと、彼女がカトラリーを置いた。


「……そういえばさ。言いたくなかったらいいんだけど……」

「ん?」


 何かを心配しているようなユイちゃんの表情。

 彼女はゆっくりと口を開く。


「なんで優太くんは一人で歩いてたの?」


 あぁ、そういうことか。

 彼女は、俺が一人で散策していたものだから、ハブられているんじゃないかと心配してくれたのだ。

 確かに俺は友達が少ない。それはユイちゃんも承知の事実だ。

 だが、流石に修学旅行で個人行動をしているようなら心配にもなる。

 しかも、当の本人が生き生きとしているからな。

 彼女のためにも、幸運なことに源氏物語ツアーを逃れたという事を、しっかり説明しておこう。

 

「それには色々理由があって――」



「そうだったんだ! それじゃあ今頃、片山くんは緊張してるだろうね!」


 納得。という風に上下に揺れる青い髪。

 俺の周りくどい説明の賜物か、無事にユイちゃんの誤解を解くことができた。

 

「片山のことだから、きっと上手くやれてると思うけどね」

「そうだね。でも、優太くんが一人で回ることになるなんて、ちょっと災難……って言いたいけど、こうやって一緒に京都が楽しめて私は嬉しいよ!」

「本当に、すごい偶然だよね」


 とんでもない低確率だと、改めて思う。


「ユイちゃんはまだ時間大丈夫? こうやって会えたわけだし、もっと二人で観光したいな」

「うわ、ちょっとキュンとしちゃった」


 チョロいな……。


「もちろん大丈夫だよ! なんなら点呼を誤魔化してでも……」

「いや、それはやめようね」


 声真似でもしてもらうのだろうか。

 いや、青い髪が見当たらない時点でバレるだろ。

 反対に、返事をしなくても視覚だけで存在がわかりやすいのは便利だな。

 そんなくだらない考え事をしながら水の入ったグラスに手を伸ばすと、逆にユイちゃんのひんやりとした手が俺のを捕まえる。


「あのさ、私、行きたいところがあるんだけど」


 視線を上げると、彼女はニヤリと笑っていた。

 

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