番外編 初詣 その2
投稿したと思ってました…
「すみません。おみくじ二人分お願いします」
スムーズと表現しても良いほど簡単に社務所にたどり着き、そのままの流れで用件を伝える。
すると、神主さんは優しい笑顔でおみくじの筒を渡してくれた。
お礼を言った後、六角形の筒を両手で受け取り、少し振る。
木製のそれは、同じく木製の棒が内部で転がるため、ジャラジャラと耳触りの良い音をさせていた。
「わー! 優太君頑張って! 目指せ大吉だよ!」
「まかせて」
俺の力を持ってすれば、大吉を出すことなど容易い。
新年になったことで運がフルチャージされているのも大きいだろう。
運にそんな要素はないって?確かに。
だが、何より俺の隣では、自称縁起の良い女神が応援してくれているのだ。
見ていてくれ、俺は必ず素晴らしい結果を残してみせる!
「よし……行くぞ!」
覚悟を決め、筒を逆さにして振る。
ぶつかり合う棒の音が、まるでどの番号を出そうか協議している声のように聞こえ、数秒後には、その小さな口から一本の姿が現れた。
「これは……55番。どうなんだ?」
「お疲れ様! ゾロ目だし、きっと大吉だよ!」
55番。
ふむ、そう言われてみると中々に演技が良い数字のように思えてきた。
どうやら、年明けからカッコいいところをユイちゃんに見せられたようだな。
俺は胸を張り、神主さんに番号を伝える。
彼の包み込むような笑顔も、俺を祝福してくれているかのようだ。
「はい、55番ねぇ。おめでとうねぇ」
「ありがとうございます」
……聞いたか?
おめでとう、全くもって良い言葉だ。
「これは期待できそうだね!」
「そうだね。ユイちゃんが応援してくれたからだよ」
「えへへ、ありがと」
まだ見ていないのに、完全にウイニングランしている気分である。
だがそれも仕方のないこと。もはや大吉を引くのは必然なのだから。
俺は華麗な手捌きで、丸めてある薄い紙を開いた。
「…………吉」
「…………吉、だね」
さっきまで人の声が止むことのなかったこの場所に、初めて静寂が訪れているように感じる。
実際にはなにも変わっていないのだが、これが神様の力というやつだろうか?
「で、でもほら、何か良いこと書いてあるよ!」
「……あれ、本当だ」
書かれている事を読んでみると、意外にもそんなに悪い内容ではなかった。
吉の中にも、良い吉と悪い吉があるのかもしれない。
「きっと吉の中でも良い吉だったんだよ。良かったね!」
「そうかもしれない。ありがとう」
励まそうとしてくれるユイちゃんに感謝しながら、おみくじ筒を渡す。
「それじゃあ、次は私の番だね……。見てて!」
「頑張ってね」
彼女は筒を両手に、それを見つめて一息つく。
そして、筒が若干重いためか、ぎこちない仕草でそれを振った。
「……あれ? 中々出ない……」
おそらく、再び協議が行われているのだろう。
数秒ほど膠着があり、ついに軽快な音を鳴らして棒が飛び出してきた。
「……え、1番だよ、1番!」
「すごいな、初めて見た!」
ユイちゃんが引いたのは、1番の棒だった。
記念すべき最初の数字。
結果を確認せずとも、大吉は確実だろう。
「これ、お願いします!」
溌剌とした彼女の声に呼応するかのように渡された紙には、もちろん大吉の二文字。
「やったぁ! 見て優太君、私やったよ!」
「うん、すごい幸運だよ」
紙を両手で開き、満面の笑みでこちらに見せてくれる姿は、さながらオリンピックで金メダルを取った選手のようだった。
おみくじを見てみても、ユイちゃんの明るい未来を約束するようなものばかり書かれていて、金メダルというのはあながち間違いではないかもしれない。
「ねぇ見て、待人来るって書いてある! 運も最高なんだって!」
「なら、今年も幸せな思い出がたくさんできるかもね」
その人その人の捉え方、気持ちの持ち方はとても大切なものだ。
同じ出来事に直面したとして、ネガティブな人よりもポジティブな人の方が良い結果、感想にたどり着くだろう。
ならば、年始から幸運への期待を持った彼女は、おそらく多くの幸せな経験を得られる。
俺の言葉を聞いてユイちゃんは、こちらを覗き込むようにして口を開く。
「……なら、一緒にたーくさん! 思い出を作ろうね!」
そうか。
俺のおみくじは微妙な結果に終わったが、この満面の笑み。
この笑顔を見れている俺は、一番幸運なスタートを切ったと言えるだろう。