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2日目 その2



「……それで、今から俺たちがくぐるのが第一鳥居なんだ。これは……えっと、なんだっけ?」

「ふふっ。片山君、忘れちゃったんですか?」

「お、おかしいな。さっきまでは覚えてたんだけど」

「わかりますよ。突然忘れちゃうことって、ありますよね」


 俺たちは、ついに伏見稲荷大社の表参道に入り、第一鳥居と呼ばれている大きな鳥居をくぐった。

 前方では相変わらず、片山が雑談の傍ら豆知識を披露しているのだが、どうやら上手くいっていないようだ。

 ある意味上手くいっているかもしれないが。

 しかし、それも無理はないだろう。

 岩城さんの着物姿は普段のイメージと違いすぎて、隣にいるのが俺だったとしても、ドギマギしてしまいそうだからだ。

 そして、それは俺の横を歩く彼女に対しても言えることである。


「……ん、どうしたの?」

「い、いや。なんでもないよ」

「そう? 変なの」


 普段の俺なら浅川を褒められただろうが、何というか、本当に美しいものを見た時は言葉が出ないというのは真実らしい。

 いや、普段も綺麗だけど。

 澄ました顔で心臓の鼓動を落ち着かせていると、いつのまにか、前方には巨大な門が出現していた。


「これが楼門だね。ここから先が境内みたい」

「すごいな、こんなに大きな門は初めて見た」

「私も。なんか、圧倒されちゃうね」


 両脇には人型の像もあり、門自体の大きさも相まって凄まじい威圧感を放っている。

 そこから先は、テレビの特集で紹介されていることの多そうな外拝殿や本殿を見ていく。


「ここら辺の建造物はほとんど重要文化財みたいだ。確かに、それくらいの歴史を感じるもんだな」

「片山、めちゃくちゃ修学旅行生って感じだしてるな」

「そうですね。真面目で良いと思います」

「ううん、岩城さん。あれは多分何も分かってない顔だよ」

「……2人は割と俺に当たり強いよな」


 続いて俺たちがたどり着いたのは、幾重にも、幾重にも鳥居が連なっている場所。

 そう、伏見稲荷大社の名前を聞くと、誰もがまず思い浮かべるであろう千本鳥居だ。


「ものすごい数だな……」

「千本あるかは分からないけど、そうやって呼ばれるのも納得だな」

「いやほんとに、夜中に迷い込んだら漏らしそうだ」


 鳥居が連続して建てられているのだが、それはもはや洞窟のような形を作りあげ、ファンタジー世界のような非現実の空間にいると錯覚してしまいそうだった。

 しかも、平日の昼間だからか人も少ない。

 絶好の散歩日和というやつだろう。

 少しの間夢中になって歩いていると、ふと、浅川が何かを思い出したかのように立ち止まった。


「あ、宮本君。写真撮ってもらってもいい?仕事用のSNSに載せようと思って」

「任せろ、プロ顔負けの一枚を撮ってみせる。炎上しないように、俺の影が入らないようなベストポジションを探すからまっててくれ」

「……どこでそんな情報を手に入れたの?」


 脳内で青い髪の女の子が手を振っていた。

 そういえば、彼女も同時期に修学旅行だと言っていた気がするが、どこにいくのだろう。

 あとでメッセージを送ってみようと思いながら、カメラアプリ越しに浅川を見る。


「もう少し引きがいいか……」


 少し後ろに下がると、背中に人間の感触。


「あ、すいませ……なんだ、片山か」

「なんだってなんだよ。相棒は浅川さんを撮るんだろ? 俺は最高に可愛い岩城さんの写真を撮ってみせるぜ。そして待ち受けにする」

「気持ち悪いが良い覚悟だな。お互い頑張ろう」


 鳥居の間で恥ずかしそうに立っている岩城さんを映す片山の目は、天使を見ているかのようだった。

 というか、よくOKしてくれたな。

 2人の距離の縮まり方に感動を覚えながら、浅川に声をかける。


「俺の方はいい位置が見つかったぞ。浅川も準備はいいか?」

「いいよ。綺麗に撮ってね」

「元から綺麗だよ、大丈夫」

「……あ、ありがと!」


 お、今の浅川はすごく良い表情をしているな、たくさん撮っておこう。

 これがあれか、今若者に流行りの彼女感というやつだろうか。

 俺も若者のはずだが、どうにも流行には疎い。

 というか、こんな表情を狙って作り出せるなんて。

 モデルという仕事の賜物だろうか、浅川はやはりすごいな。


「いいね〜! 岩城さん、もう少しだけ右に寄ってもらってもいい? ……そうっ! 天才!」

「片山君……恥ずかしいです……」


 片山は凄腕カメラマンになりきってるな。

 自分がどう見られているのかを忘れて、完全にベストショットを狙う鬼になっていた。

 ……俺も負けてはいられない。


「よし、浅川! 次はポーズを取ってくれ!」

「ぽ、ポーズ?」

「そうだ! 後ろを向いて、少し身体を斜めに、それで髪を束ねて……それだ!」


 俺の指が、最高の瞬間を逃すまいと限界を超えて動く。

 その様は、なんだ……なんか、傍からみたら相当気持ち悪いと思う。

 だが、撮影したものを確認すると、最高の写真が何枚も撮れているじゃないか。


「どうだ浅川、俺の全力は」

「……わ、すごい盛れてるね。ありがとう、宮本君」

「このくらい朝飯前だ。またいつでも頼んでくれ」

「そうさせてもらうね。ありがとう。……また、か……ふふっ」


 相当写真が気に入ったのだろう、機嫌が良さそうな浅川と共に、片山達が待っているであろう先へ進む。

 すると、片山の満足げな顔が目に入った。

 どうやら、彼らも撮影を終えたようだ。


「おう相棒! 俺はもしかしたら、カメラマンを目指した方がいいかもしれない」

「調子に乗るな。でも、その顔を見るに相当良い写真が撮れたんだろうな」

「そうなんだよ! 見てくれほら……!」


 片山の差し出したスマホかには、岩城さんの可憐な姿が存分に詰め込まれていた。


「おぉ……これは凄いな」

「だろ? これが愛の成せる技ってやつさ」

「……深いな。だけど、肝心の岩城さんはどこへ行ったんだ?」

「あー……。それなんだけど……」


 片山が気まずそうに振り向くと、そこにはうずくまって顔を真っ赤にする岩城さんの姿があった。


「……馬鹿みたいに褒めちゃったんだよ。それはもう、言葉の限り」

「怒らせたわけじゃないし、照れてるだけなら良いんじゃないか?」

「まぁ、そうだな。可愛いしな」


 しかし、そこから10分ほど岩城さんは俺たちと口をきいてくれず、珍しく焦る片山の姿を見ることができた。

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