2日目
お久しぶりです。
最近よく頭が痛くなります。
「伏見稲荷大社。京都市伏見区にある神社で、全国に約3万社あるといわれている稲荷神社の総本社なんだと。信者の寄進による鳥居は、山中に約一万基もあるんだ」
「片山君、物知りなんですね……すごいです」
「ま、まぁね。知識はほら、大切だから」
昨晩必死こいて調べていた情報を、さも昔から知っていたかのように語る片山。
感心されることに罪悪感があるのか、中身のない返事をしながら喜んでいる。
修学旅行二日目。
もうお分かりだと思うが、俺たちは今日、伏見稲荷大社に来ている。
と言っても、まだ近くに到着したというだけだが。
「えっと、割と近くに着物をレンタルできるお店があるはずなんだけど」
「マップだとここら辺だね。あ、宮本君、あれじゃない?」
浅川が指を指した方向を見てみると、店先のマネキンに着物を着せてある店を発見した。
「あれっぽいな。片山、あそこ行ってみよう」
「そうだな。ちょっと先に行って聞いてくる。相棒は2人を連れてきてくれ!」
そう言って、片山は小走りで店に向かう。
「片山、すごく頼りになるね」
「そ、そうですね。率先して聞きに行ってくれて、カッコいいなって思いました」
岩城さんからの印象も良いようだし、今日は2人の関係に進展がありそうだ。
さて、俺の方でも作戦を進めないと。
「そういえば、浅川は何時から打ち合わせなんだ?」
「えっと、17時にマネージャーさんと待ち合わせだから、16時くらいまではみんなと行動できると思う」
前にも言っていたが、浅川は今日、マネージャーと仕事の打ち合わせがあるらしい。
修学旅行の時にも抜けなければならないなんて、よっぽど大切な仕事なのかもしれない。
学生とモデルを両立させるというのは、生半可な覚悟では不可能なのだろう。
「ってことは、17時からは3人で回ることになるんだけど、実は俺もその時間、行きたいところがあるんだ」
「行きたいところ……ですか?」
「そうなんだ。アメコミのフィギュアを売ってるところがあって、それがもう凄いクオリティなんだ。映画に登場したヒーローたちがそのまま飛び出してきたかのような……」
いけないいけない。語ってしまうところだった。
「じゃなくて、とにかくそこに行きたいんだけど、ちょっと遠いから1人で行こうと思うんだ。みんなの時間を邪魔したくないし」
「そういうことですか。わかりました、片山君には私から伝えておきますね」
「あ、あぁ。ありがとう」
もう少し慌てた反応を取られるかと思ったんだが、予想以上にあっさりと受け入れられてしまった。
やはり、岩城さんは片山のことを悪く思っていないようだ。
ちなみに、フィギュアを見に行きたいというのは本当だ。
しかし実際に店舗があるのは大阪であり、ホテルへの帰宅時間までに行って帰ってくるのは不可能だろう。
残念だが、片山と岩城さんを2人きりにした後は、適当にぶらつくとしよう。
案外、思いもよらない出会いというのがあるかもしれないし。
作戦も成功したところで、俺たちはちょうどよく着物屋へと到着する。
「おう相棒、待ってたぞ」
店に入ると、待っていた片山が手を上げて出迎えてくれた」
「4人分の着物、あるみたいだ。さっそく着替えられるぞ」
店員さんとのやり取りなんかは全て済ませてくれたのだろう、そのまま俺たちはベルトコンベアのように案内され、男女に分かれて着物を着させてもらう。
「あ、そうだ。片山、例の作戦、うまく行ったぞ。後で岩城さんから説明があると思うけど、驚きすぎて失神するなよ」
「……あ、危ないところだった。今の説明ですら、緊張で心臓が止まるかと思った」
「先に言っておいて良かったな」
大切なことは伝えたし、あとは2日目を楽しむだけだ。
俺は青、片山は黒い着物をそれぞれ着せてもらい、店の外に出る。
「……2人はまだみたいだな」
「女の子の方が着るの大変だろうしな。気長に待つとしようぜ」
道を歩く人々の中にも、俺たちと同じように着物を着ている人間が大勢いる。
やはり、みんな考えることは同じなのだろう。
それにしても、俺が友達と修学旅行を回れるなんて思ってもみなかった。
心の中では、半分くらいは小鳥遊先生との思い出になるんじゃないかと思っていたし、何より――。
「あ、2人とも早かったね」
「お、お待たせしました」
振り向くと、そこには浅川と岩城さんがいた。
しかし、
「お……おぉ……」
片山が唸るのも理解できる。
2人とも、着物が恐ろしく似合っているのだ。
浅川は、少しくすんだ色の赤い着物を身に纏っている。
一見すると地味な色に見えるかもしれないが、彼女の顔が、スタイルが並外れているお陰で、良い意味でそれを落ち着かせている。
さらに、ポニーテールに髪を束ねることによって見えるうなじは、まだ昼だというのにしっとりとした気持ちを感じされた。
大和撫子というのはまさに、こういう見た目を言うのかもしれない。
それに対し岩城さんは、少し明るい、黄色の着物を身に纏っている。
学校の彼女はどちらかといえば地味な印象を与えるが、活力のある色のおかげでそれが中和され、彼女本来の洗練された雰囲気が伝わってくる。
全く着物に着られているという感覚がなく、むしろ普段から着ているかのような自然さだ。
系統は違えど、あまりに似合っている2人からは、神々しささえ感じる。
「……もう、神社行かなくていいんじゃないか?」
「逆に、2人を連れて行ったらめちゃくちゃご利益ありそうだな」
「確かに」
更新が滞っておりますが、他作品の方も読んでいただけると幸いです。