1日目 その3
突然ですが、書籍化作業のため、明日から暫くの間更新をストップします。
その間、書き溜めておいた他作品の投稿をしますので、もしよろしければそちらも読んでみてほしいです。
「それでは、今から各グループに分かれて自由行動を開始する。基本的に何処へ行くにも自由だが、人に迷惑をかけないこと、8時までには帰ってくること、いいな。もしこれを破るようだったら、明日からは私と源氏物語ツアーだ」
小鳥遊先生がそう言うと、クラスの生徒たちはグループ毎にまとまって、ぞろぞろと散らばっていった。
俺たちもそれに漏れず、ゆっくりと行動を開始する。
「私たちはどこへ行こっか」
「それなんだが、俺と相棒はこの古着屋が気になってるんだが、二人はどう思う?」
片山がスマホの画面を見せ、浅川と岩城さんの返答を待つ。
二人はお洒落好きだし、断られるようなことは無いと思うが、果たしてどうだろう。
「うん、私は楽しそうだし良いと思うよ」
「わ、私も行きたいです」
「よし、それじゃあ行こう!」
無事に提案は通り、俺たちはファイブピープルへ向かうことになった。
心なしか、岩城さんは少し心が躍っているような、ワクワクとした感じに見える。
京都駅から約20分ほどで目的の駅に着くと、多少迷いながらも階段を登って外へ出た。
すると、先程までの落ち着いた街並みから一変、ここには大きなデパートや店が立ち並び、人通りもとても多い。
「それにしても、本当に碁盤の目みたいだな」
「そうだね。お土産屋さんに飲食店に、アパレルまであるしなんでも揃ってるね」
京都駅もすごかったが、こちらもかなり賑わっているのが一眼でわかる。
この周辺を散策しているだけでも修学旅行が終わってしまいそうなほど魅力的な部分が多く、ついつい目移りしてしまいそうになるが、俺たちには行くべきところがあるのだ。
「片山、店はどこにあるんだ?」
「えっとな、向かいの通りを真っ直ぐ進んで、そのあと左に曲がると着くみたいだ」
「ありがとう。割と近いみたいだな」
地図のアプリで道を確認した片山先導の元、俺たちは古着屋へと向かった。
2分ほど歩くと、白い外装が特徴的な建物へと辿り着き、店の前に設置されている黄色い看板には、「five people」と記してある。
「ここか、落ち着いてるけどお洒落なお店って感じだ」
「そうだね。宮本君、後でそこのベンチで写真撮らない?」
「写真? 別にいいけど」
そういえば、黒咲に送る写真も撮らないとな。
浅川と一緒に写っているものを送れば黒咲の逆鱗に触れるだろうし、恥ずかしいけど自撮りをしよう。
そんな会話をしつつ、俺たちは店に入る。
少し歩き、白い木製の階段を登っていくと、店内は驚くほどに広く、右を見ても左を見てもラックいっぱいに古着が掛けられている。
「うお、すごいな! 悪いみんな、ちょっと服見てくる!」
「わ、私も行ってきます!」
壮大とも言えるその様子を見た途端、自らに流れる熱い思いに突き動かされたのか、片山と岩城さんは互いに気になる場所へと駆け出していった。
「似たもの同士なんだね」
「そうだな。二人とも、夢中で行っちゃったし」
「ねえ、私達は一緒に服探ししない? 似合うの選んであげる」
「ならお願いしようかな」
俺たちは俺たちで、端から気になる商品を確認していくことにした。
シンプルなシャツやパンツの他にも、海外から仕入れてきたであろう奇抜なロゴが入ったバンドTシャツや、軍物のジャケットなど、豊富な品揃えを見ているだけでも楽しい。
そんな中俺が見つけたのは、黒い細身のシャツコート。
9月末はまだ暖かいが、来るべき冬に備えてコートやジャケットも多く並べられているのだ。
「……浅川、これなんていいんじゃないか?」
「そう? じゃあちょっと着てみようかな」
浅川がゆっくりと袖を通すと、その服は細身の彼女の身体によく似合い、スタイリッシュさが際立つ。
「いいねこれ。秋なら羽織って着れるし、冬はコートの下に着てもお洒落かも」
「うん、すごく似合ってる」
「……嬉しいな。私はこれを買うことにしたよ」
自分が選んだ服を気に入ってもらえるのはなんとも嬉しく、同時にくすぐったい感じだ。
「……ふふ、こうして一緒に服選びできるの、すごく嬉しい」
「た、確かに」
ポーカーフェイスが常の浅川らしからぬ可憐な微笑に、思わず鼓動が早くなるのを感じる。
考えてみると、中学生の頃は、俺に服に対する興味がなく、こういう店に入ることもなかった。
「そういえば、あの二人はまだ服を見てるのかな」
「確認しに行ってみるか」
店内をくまなく探していくと、予想通りというかなんというか、片山も岩城さんも怖いくらい真剣な顔で、一着一着服を物色していた。
「……まぁ、後二人は放っておこう」
「うん。今話しかけたら怒られそうだしね」
俺たちは、気を取り直して店内を練り歩くことにした。
それからまた少しの時間が経った頃、少し弾んだ声が耳に入る。
「宮本君、これとか似合うと思うよ」
そう言って浅川が手渡してきたのは、濃いブラウンのセットアップだ。
「そうか?」
「うん。これに白いシャツなんか合わせたら、すごくお洒落だと思う」
「じゃあ試着してみようかな」
近くを歩いていた店員さんに一声かけ、試着室に案内してもらう。
そのまま部屋の中に入ると、勧められたジャケットとワイドパンツを着てみる。
ベロア生地で製作されているため、高級感もあって中々良いかもしれない。
試着室のカーテンを開けて、浅川に見せてみることにした。
「どうかな?」
「すごくかっこいいよ。私は良いと思う!」
「そっか、ならこれを買おうかな。ありがとう」
「ううん。今度デートするときに着てきてね」
その後、服を着替えた俺は、浅川と一緒にレジへ行き、お互いに選んだ服を購入した。
そこから30分ほど店内をぶらついていたのだが、一向に片山と岩城さんの古着探検が終了する気配がなかったので、大変心苦しいがストップをかけさせてもらうこととなった。