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1日目 その2

脳内京都なので若干どころか大きく違う可能性があります。


 ホテルで昼食をとった俺たちは、再び京都駅へと戻ってきた。

 流石に府の名前を持つ駅だけあって、とにかく巨大だ。

 大きく吹き抜けた構内に、飲食店やお土産屋さんなど、多くの店がひしめき合っている。


「知ってる? 京都駅のホームって日本で一番長いらしいよ」

「へぇ、そうなんですね。片山君、物知りなんですね」

「そ、そう? まぁ、ネットで調べただけなんだけどね?」


 片山と岩城さんもずいぶんと打ち解けてきたようだし、これからの展開が楽しみである。

 それはそれで良いんだが、喜ぶ片山と反対に俺は戸惑っていた。


「……浅川、なんで腕組んでるんだ?」

「……だめかな?」

「ダメだと思うぞ。仮にも浅川は芸能人なんだし、この瞬間が誰かの手によってカメラに収められている可能性だってあるんだぞ」

「マスクしてるから大丈夫だよ。アイドルと違って別に恋愛を隠す必要もないし、宮本君相手ならみんなお似合いだって言ってくれるよ」

「そういう問題じゃないんだが……」


 浅川が俺に好意を持っていることはもう分かりきっているが、それでもいきなり腕を組むのは積極的過ぎやしないだろうか。

 それも、他の生徒も見ている中でだ。

 後もう一つ、アイドルが恋愛を禁止していると言わず、隠すと表現するのはやめてほしい。

 

「じゃあ、何かある時はすぐ腕を外すから、それならいい?」

「それなら……まぁ……」

「嬉しい。宮本君の腕って、意外と筋肉質なんだね」

「夏休みから毎日筋トレしてるからな。ちょっとずつ筋肉ついてきたんだ」


 一度成長を実感したからと言って、そこで努力をやめてしまえば再び以前に逆戻りしてしまうことになる。

 今までと同じように、いや、今まで以上の向上心を持って全てに取り組みたい。


「ふふ、偉いね、宮本君」

「……ありがとう」


 そう言いながら浅川はぎゅっと腕を引いて距離を詰めてくる。

 彼女の方が背が高いからだろうか、掴めば折れてしまいそうな細い身体だというのに、密着すると包まれているような感覚に陥る。

 そして、その芸術品のような身体からは甘い香りが漂っていた。

 これは……香水だな。


 学校では注意されてしまうこともあり、普段香水を付ける生徒はいない。

 それにファッションに聡い浅川であっても今までは調合された香りを身に纏うことはなかった。

 彼女も日々、進歩するためリサーチを欠かしていないということか。ステマの可能性もあるが。

 これは良いことに気が付いたな。


「浅川、その香水どこのなんだ?」

「フィオールのローズブーケってやつ。最近香水も使ってみようかなって。よく気付いたね」

「そりゃあ気付くよ。それ、めちゃくちゃ良い匂いだな。俺も今度買ってみようかな」

「なら私が教えてあげるよ。一緒に買いに行こうよ」

「そうだな、修学旅行から帰ったらよろしく頼む」


 彼女の使っている香水はレディース用の面が大きく、俺が使っても女々しい印象を与えてしまうかもしれない。

 自分が良いと思う匂いでも、他人からすれば迷惑になる事もあるし、折り紙付のセンスを持つ浅川に手伝ってもらう事にした。

 片山も香水までは手を伸ばしていないだろうし、彼にも教えてやろう。



 京都タワーの展望室は、地上約100メートルに位置していて、京都の有名な場所を一望することができるらしい。

 確かにガラスを隔てて見える景色は圧巻で、ひょっとしたら大阪まで見えているんじゃないだろうかという程の絶景。


「東京タワーとか東京スカイツリーなんかに行ったことがないから分からないけど、きっと東京の空から見える景色とは全然違うんだろうな」

「確かに。こっちの方が落ち着いてる気がする」


 若干図星をつかれた感はあるが、でも普段見ている建物とは色味なんかが違う気がする。


「二人とも、京都の空気に酔ってるだけなんじゃないの?」

「浅川さん酷いなぁ、岩城さんはどう思う?」

「わ、私は高いところ……あんまり得意じゃなくて」


 見ると、岩城さんは高所恐怖症なのか、少しだがふるふると震えていた。

 それを見て、片山が彼女のそばへと近づく。


「岩城さん無理しないで。俺も景色楽しんだから、あっちでゆっくり話でもしようよ」

「え……でも、悪いです……」

「気にしなくて良いよ。相棒、ちょっと向こう行ってるな」

「わかった。俺たちはしばらくここら辺にいる」


 俺の言葉を聞き終えると、片山は岩城さんを連れて外が見えない場所に離れていった。


「片山君、優しいね」

「そうだな。見習いたいところが沢山ある」


 好意を寄せている相手とはいえ、グループでの会話の際にはハブられる人が出ないよう全体に話を振り、さらに岩城さんが高いところを怖がっていると知れば、自ら進んで力になろうとする。

 自分も景色を楽しんだと言うことで、岩城さんに罪悪感を与えないようにしているのも見事だ。


「宮本君はそのままで素敵だから、見習う必要ないよ」

「……そうか?」

「うん。強いて欠点を挙げるとすれば、宮本君を狙う女の子がたくさんいるってことかな」

「ノーコメントでお願いします」


 皆さん魅力的な女性です、はい。


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