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1日目


「ここが京都か……」


 特別空気が澄んでいるというわけではないだろうが、その地のイメージのお陰か、吸い込む空気にもどこか侘び寂びを感じる。

 ……本当は侘び寂びって使ってみたかっただけだ。


 作戦会議も上々に新幹線から降りた俺たちは、そのまま普通の電車へと乗り継ぎ、数駅先のホテルへと向かった。

 予想以上にシンプルな見た目のホテルに着くと、学年主任の先生が生徒たちを集めて口を開く。


「今から各自、自分の部屋に荷物を置いてきてください。30分後に再びここに集合し、その後ここで昼食を取ったのち、京都タワーに向かいます」


 そしてクラスごとに、生徒は順番に自らに割り当てられた部屋へと向かう。


「二人で一部屋だなんて、修学旅行にしてはすごくないか?」

「確かに。相棒と同じ部屋になれてよかったよ」


 グループが同じということで、俺たちは部屋も一緒なのだ。

 彼となら話も盛り上がるし、修学旅行の定番である、夜中の恋バナにも花が咲くだろう。彼の意中の相手はもう明らかであるが。


 エレベーターが9階を指したところで、俺たちは降りる。


「えっと……9015は……」

「……ここだな、自販機に近くていい位置だな」


 そんなに迷わず部屋を見つけることができた俺たちは、教師より渡された鍵でロックを外し、扉を開けた。

 室内はクリーム色を基調とした優しい色に包まれており、二つのシングルベッドとテレビ、小さい冷蔵庫なんかが備え付けてあった。

 他にも室内にはシャワーも設置されていて、ホテルとしてこの場所が特別優れているわけではないが、非日常にいるという気持ちの昂りが室内をより良く見せてくれる。


「おー、いかにもって感じだな」

「そうだな。カーテン開けてみようぜ」


 そう言って片山は窓際に歩いて行き、両手で勢い良くカーテンを開ける。


「景色めっちゃ良くないか?」

「ほんとだ。夜が楽しみだ」


 流石に9階というだけあって、窓から見える景色は素晴らしいものだった。

 ビルに阻まれることもなく、京都の美しい街並みを一望できる良い部屋だ。

 夜になればきっと、闇の中に明るい街が映し出され、幻想的な風景が楽しめることだろう。


「と、そうだ。荷物を置いたら下に戻らなきゃな。あんまりゆっくりもしてられないみたいだ」


 思い出したかのように片山が告げる。

 先程学年主任が言っていたように、これから俺たちは昼食を食べた後、京都駅へと戻り京都タワーを観光することになっている。

 そしてそれからの予定は各自自由行動で、大体8時までにホテルに戻ってくれば良いようだ。

 というか、二日目と三日目もほぼ自由行動だし、いくらうちの高校が生徒の自主性を重んじる校風だからって雑過ぎないか?

 教師陣が予定を決めるのを面倒に思っただけのように思えてしまう。

 まぁいい、俺たちからすれば、予定を決められているよりも自分たちで好きなところに行ける方が思い出に残るというものだ。


「そういえば、今日の自由行動の予定って決めてたか?」

「いや、決めてないぞ。明日明後日に割とデカいところに行くから、今日は文字通り各自自由行動だ。って言っても、グループはグループで集まる事になると思うけどな」

「そうか、了解した」


 片山の言う通り、今日までみっちり予定を入れてしまうと、明日以降に疲れが残ってしまうだろう。

 ならば今日は近場の観光にして、なんとなく京都の雰囲気を味わうのも良いかもしれない。


「でだ、実は俺、その時に行きたい場所があるんだが……」

「どこに行きたいんだ?」

「えっと、ちょっと待ってくれな」


 そう言いながら片山はスマホを操作して、何かを探しているようだ。

 2分ほど待っていると、彼は嬉々として手に持つそれを俺に見せてきた。

 画面には、どこかの店のサイトが表示されている。


「これは……どこだ?」

「流石の相棒も京都までは調べてなかったようだな。何を隠そう、ここは京都でも有名な古着屋なんだ!」


 店の名前は「ファイブピープル」。

 見てみると、ここは京都内でも最大クラスの広さと服数、知名度を誇る古着屋のようだ。


「ははぁ、そういうことか。そういえば前に、古着に興味があるとか言ってたもんな」

「よく覚えててくれたな! 古着って一期一会だろ? だから、京都で素晴らしい一着に出会えるんじゃないかと思って」


 ふむ、確かに古着屋に置いてある服の中には、今では新品で買うことのできないようなレアな一着や、海外から仕入れてきた癖のある物も存在している。

 系列店は東京にもあるとはいえ、置いてある服は店によって大きく違っていることもあるのだ。

 お洒落を追求する者として、この機会を逃すべきではないだろう。


「いいな、俺も良い一着を見つけたい」

「それに、岩城さんは服好きだし、浅川さんもお洒落だからきっとOKしてくれるだろうしな」

「そうだな。自由時間が一気に楽しみになってきた」

「だろ? そろそろ集合時間だし、向かいながら狙いの服について考えようぜ」


 二人は部屋に忘れ物がないかを確認した後、部屋を後にした。

 


 

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