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出発


 さぁ、今日は待ちに待った修学旅行当日。

 そんなに持っていく荷物もないが、忘れ物がないか念入りに確認を済ませる。


「……よし、全部持ったな。行ってきまーす!」


 大きな旅行用のバッグを手に持ち、鍵をかけて自宅を後にする。

 荷物の大きさに若干の不便さを感じつつも、俺は最寄りの駅へとたどり着いた。


「先輩、おはようございます! あれ、意外と荷物少ないですね? 持ってあげようと思ったのに」

「おはよう黒咲。そんなに持っていく物もないしなぁ、でもありがとう」


 今日2年生の生徒達が集まるのは学校ではなく、そこからほど近くにある新幹線の停車駅である。

 俺がその駅に向かうには学校の最寄駅をそのまま通り過ぎれば良いだけであり、時間的にも急ぐ必要はなかったので、こうして普段通り黒咲と待ち合わせていたのだ。


「それにしても、三日も先輩と会えないなんて耐えられませんよぉ……」

「大丈夫だって、ちゃんとメッセージも送るから」

「先輩いつも返信遅いじゃないですか!」

「そうか? まめに返してるつもりなんだけどな」


 うーむ、暇な時があればちまちま返信しているんだけどな。

 逆に彼女の返信が早すぎるのだ、これが現代JKにおいての必須スキルなのだとしたら、俺は既に時代という荒波に取り残されてしまっているということだろう。

 そもそも俺はDKだった。


「気付いたら返事してるぞ? それともあれか、スマホを使う大半の時間をゲームに充てているのがいけないのかもしれないな」

「それですよ! そんなゲームばっかしてちゃダメです!」

「でも、最近のゲームにはオート機能っていうのが実装されてて、筋トレしてる最中でも勝手に戦ってくれるんだよ。だから実質プレイ時間は半分ほどだな」

「それで通知見てないから気付かないんじゃ……?」


 確かにそうだ。

 これからはもう少し通知欄も開いてみるとしよう。


「まぁまぁ、とにかく連絡するからさ、楽しみにしててくれ」

「わかりました、先輩も寂しくなったらいつでも電話かけてくださいね?」

「そうする。夜中に号泣しながら電話かけたらごめんな」

「……それは可愛いですね」


 なんでですか!っていうツッコミを待っていたんだが、思いの外好評なようだった。

 

 そうこう言っている内に電車が到着し、俺達はいつも通り扉の近くに立っている。

 車内も普段と変わらず、日常が広がっていた。

 しかし、俺はこれから京都という非日常を体験するのかと思うと、心の奥底がムズムズとしてくるのを感じる。


「あー、やっぱり先輩と京都行きたいです。私だけ紛れ込んだりできませんかね?」

「スパイかお前は。黒咲は影が薄いわけでもないしバレるぞ。秒殺だ」

「ですよねぇ。じゃあ授業中、ずっと先輩と京都観光してる妄想してます……」

「ちゃんと授業を受けなさい」


 脳内で金閣寺を見ても虚しいだけだろう、ためにしにシミュレーションをしてみる。

 落ち着いた秋の風に、砂利を踏む足音。

 遠くに見える大きな建築物を前にしてはしゃぐ黒咲の姿が、くっきりと映し出される。

 いや……意外と楽しい……のか?

 それよりも、予想以上に鮮明な映像を思い浮かべてしまったことに驚いた。

 俺には妄想の才能があるのかもしれない。


「……ま、まぁ、ほどほどにな」

「どうしたんですか?」

「いや……なんでもない」


 妄想の楽しさを理解しかけてしまっている自分がいて、彼女にやめろという事ができなくなってしまった。


「あ、もう着いちゃいますね。それじゃあ先輩、楽しんできてくださいね!」

「ありがとう。お土産も期待しててくれ」

「はい! ロック画面に設定するんで、たくさん送ってくださいね!」


 そう言いながら黒咲は電車を降りて行った。

 ロックに設定するのは恥ずかしいから遠慮してほしい。


 一人になり、めっきり人が減った車内からしばしの間外の景色を眺めていると、やがて目的の駅へとたどり着いた。

 新幹線が止まる駅というだけあって、平日の朝からすごい人だ。

 その一員となって階段を降りていくと、俺が通ってきた他にも、ホームから繋がる無数の階段から降りてきた人々が合流してきた。


「えーっと……新幹線は……」


 俺たちの集合場所は、新幹線のホーム手前にある大きな広場だ。

 視界の上部にある看板を頼りに5分ほど彷徨っていると、どうやら俺は無事に目的地に辿り着けたようで、同じ制服を見に纏った生徒達の姿が目に入った。


「宮本か、おはよう」

「先生、おはようございます」

「2組の生徒は右側の列だ。メンバーがいたら、班ごとにまとまっていてくれ」

「わかりました」


 小鳥遊先生は既に到着していたようで、生徒たちを一纏めにするため指示を出していた。

 俺もそれに従い、右側の列に加わる。

 列の後方から班の仲間達がいないかを確認していると、少し前に背の高い女子がいることに気が付いた。

 背が高いどころか、170ちょっとはあるんじゃないか?

 このスタイルの良さはもちろん浅川だ。

 見ると、他にも片山と岩城さんもいるようで、どうやら俺が一番遅かったようだった。

 遅れたわけではないが、申し訳ないと思いつつ足を進める。


「おはよう、みんな」

「おはよう宮本君」

「おっす、相棒」

「おはよう……ございます」


 こうしてメンバーと合流した俺は、彼らと共に教師の指示を待つことにした。


 

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