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前日、現場で


 多くの光が私を目掛けてぶつかってくる。

 私の一番を引き出すために、絶えず身体を一定間隔で動かしていく。

 表情は硬くないかな、背筋が不自然に曲がっていないかな。

 未だに不安はあるものの、私は求められているのだ、過去の経験を元にポーズを形成する。


「はいおっけー! 確認してくるからちょっと休んでて!」

「はい。ありがとうございます」

「はーい! ありがとうございます!」


 そう言ってカメラマンさんは撮影したものをチェックしに走る。

 自分の表現方法が正しかったのか、魅力的に見えているのかどうか不安だが、同時にこの瞬間が最もワクワクする時間だ。

 と、そんな高ぶる気持ちと向き合っていると、誰かがこちらに歩いてくる音が聞こえた。


「由美ちゃんおつかれ!」

「あ、美奈さん、お疲れ様です」


 私に声をかけてきてくれたのは、同じ事務所の先輩モデルである渋谷美奈さんだ。

 今日は彼女と二人での撮影だったのだが、一人で思考を巡らせている私が心配になって声をかけてくれたのかもしれない。


「最近どう? なんか由美ちゃん雰囲気変わったよね! あ、いやいやもちろん良い意味だよ?」

「わかってますよ。私、そんなに変わって見えますか?」

「うん、なんていうか前よりも素直に見えるっていうか、心から仕事に挑戦してるのが伝わってくるよ!」


 ……そうなのだろうか。

 思い当たる節は一つしかない、ユ……宮本君との関係の変化だ。

 異性としての関係性は大幅に減衰してしまったが、以前よりもお互い心を見せて会話ができるし、寧ろ全体的に見れば進展していると捉えられるかもしれない。

 今まで使用していた思考の、悩みの大部分が消失した事で、私には余裕が生まれているのだ。


「……確かに、そうかもしれません」

「うんうん、すごく良いと思うよ! ……もしかして、恋愛関係?」

「そ、それは……」


 その通りだけど、恥ずかしさで言葉が詰まってしまう。

 しかしその行動自体が、問いかけに対して肯定の意を示している事に今更気付いた。

 私の表情を見て察した美奈さんの顔が、みるみる含みのある笑顔に変わっていく。


「そっかそっかぁ〜、青春だねぇ〜」

「み、美奈さんはそういう話ないんですか!?」

「私? 私はそうだなぁ……ないかな!」


 絶対に嘘だ。

 彼女が通っている大学は共学だし、これほど溌剌とした美貌の持ち主なら引くて数多のはず。

 それとも、何か恋愛に対してのこだわりがあるのかもしれない。例えば、理想が高すぎるとか。


「いや、なんか色々考えてるみたいだけど、ただ相手がいないだけだよ? ちょっと気になってる子はいるけど、他の子に夢中だしね〜」

「そう……なんですか?」


 モデルまでやっている彼女を差し置いて好意を向けられている相手とは、一体どんな女性なのだろう。

 まだ高校生の私にはわからない大人の世界なのかもしれない。

 しかし、高校に比べて大学には何倍もの生徒が在籍しているし、極めて魅力的な女性がいても不思議ではないのかも。

 もし宮本君がそんな人に夢中になってしまったら悔やんでも悔やみきれないし、今のうちに彼の心を私の虜にしなければ。


「あ、二人ともいたいた。今日の写真もすごく可愛く撮れたよ! ありがとねぇ!」

「いえ、こちらこそありがとうございます」

「由美ちゃん! なんか最近一層可愛くなったね! 何かあったの?」


 カメラマンさんにも言われたくらいだし、やはり私は変化したのだ。

 それが好評だということが、今後の自信になる。


「それがですね、由美ちゃん好きな男の子と進展があったらしいんですよ!」

「み、美奈さん!」

「へぇ〜それは良いねぇ! なに、今度デートしたりするの?」

「……修学旅行で京都に行くんですけど、同じグループになりました」


 特に他意はないのだろうが、突然美奈さんが話を進めるので驚いてしまった。

 それに、なんだか恋バナも私を離れてエスカレートしているし、早めにこの会話を終わらせ――


「修学旅行いいねぇ〜! 俺が学生の頃はさ、夜に気になってる子を呼び出して、二人で夜景を見たんだよ! ま、その子には振られちゃったんだけどね!」

「ちょっと、悲しい話じゃないですか〜!」

「あれれ、間違えちゃったみたいだ」


 ……確かに、夜景はいいかもしれない。

 京都の夜はさぞ雅だろうし、二人の距離が縮まる期待も持てる。

 幸い二日目の打ち合わせも夜には終わるから、宮本くんとの時間もとれるだろう。


「あの、ありがとうございます」

「え、何が? まぁ、参考になったら良かったよ。応援してるからねぇ! 美奈ちゃんもまたね!」

「はい! ありがとうございました!」


 足音が遠ざかっていき、再び二人の時間が戻ってくる。


「それで、愛しの彼に修学旅行でアプローチかけるの?」

「はい。多分彼の事だから、一気に進展することはないと思うけど、それでもチャレンジしてみようかなって思います」

「うんうん、私も応援してるからね!」

「ありがとうございます!」


 明日からはついに修学旅行。

 もちろん片山くん達の恋愛も応援するけれど、いつも宮本君と一緒にいる黒咲さんがいない今がチャンス。

 普段ゆっくり会話ができないし、この機会にさらに仲良くなれたらいいな。

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