グループ その2
「み、宮本、ちょっといいかな?」
教室に到着した俺に早速声をかけてきたのは片山……ではなく、誰だっけ?
目の前の男は180はありそうな長身で、身体つきもがっしりとしている。
だが顔の造形はとても優しそうで、蜂蜜が大好きなマスコットキャラクターを彷彿とさせるものだった。
それにしては少々マッシブな気もするが。
要件は不明だがせっかく話しかけてくれたんだ、おそらくクラスメイトだろうし、ちゃんと思い出さないと失礼だろう。
もっと良く見ればヒントが得られるかもしれない。
髪型はごく普通の短髪、おしゃれにも気を使っている方で……そうか、彼は片山のグループにいる一人だ!
よく気付くことができた俺、あとは彼の名前を当てるだけ。
朝のホームルームで呼ばれている名前を、そのときの記憶を呼び覚ますんだ宮本優太……!
「あぁ、おはよう高崎」
「……高崎はあそこにいる方で、俺は山内だよ……」
「……ごめん」
なんとか二択までは行ったんだけどな。
だが今ので完全に覚えた、後方でスマホをいじっている金髪の方が高崎だな。
目の前の優しそうな彼は山内、もう間違えないようにしよう。
「ま、まぁ、会話したこともないし仕方ないよ」
「ありがとう山内。それで、何か要件があるのか?」
「それなんだけど、片山の事なんだ」
「片山? あいつがどうかしたのか?」
……片山の事?
なんだろうか。もしかして、俺が最近片山と仲良くなっているのが気に食わなくて、関わりを持たないよう忠告しに来たのかもしれない。
それにしては彼の視線や物腰は柔らかで、注意や脅迫というよりお願いをしにきたように感じる。
「宮本は気付いてると思うけど、最近の片山は何か悩んでいるようなんだ」
「あー……それは、確かに」
気付いているどころか、現在進行形で作戦参謀を務めていると言っていいだろう。
「ただ、俺たちにはそれが何か教えてくれないんだ。いつもはぐらかされちゃってさ。いや、片山の事だから真面目に聞いたら答えてくれるとは思うんだけど、彼は宮本に信頼を置いているようだから」
「そうなのか? 山内たちの方が付き合いが長いじゃないか」
「ほら、片山はお洒落が好きだろう? だから宮本とその話ができて嬉しいって、俺たちにも言ってたんだよ。それもあるんじゃないかな」
「……そういうことか」
彼らも確かに格好いいが、片山ほど熱心にファッションには取り組んでいないからだろうな。
俺は趣味というより手段として知識を得たが、それでも彼にとっての理解者に違いない。
同様に岩城さんも、彼の理解者たり得るのだ。
「だから、俺たちが力になれない代わりに、片山を助けてあげてほしいんだ」
……友達に大切にされているんだな、片山は。
悩んでいる時に自分を心配してくれる友達がいて、それを苦手であろう相手に頼みに行けるなんて、相当な人望がないと不可能だ。
「もちろん、俺にできる限り頑張るつもりだ」
「……本当かい! ありがとう!」
「でも、よく俺に頼もうと思ったな。山内って、俺のこと苦手だろう?」
以前、俺が片山に歩いて行く時に、こちらを見て後ずさっていたのが山内だ。
俺に悪印象を持っているのではないかと、その時から思っている。
「いや? 宮本に対して苦手なイメージはないよ」
「……え? そうなのか?」
「もちろん。ただ、たまにオーラがあるっていうか、迫力があるっていうか……」
「……気をつけるよ」
特に苦手意識を持たれていたわけではなく、俺の鬼気迫る感情が原因だったということか。
うわぁ、何か恥ずかしくなったきた。
「そ、それが宮本のいいところでもあるよ、きっと!」
「ちょっとよく分からないけど、ありがたく受け取っておく」
「ありがとう。俺もさ、宮本と友達になりたいと思ってたんだよ。だからこれからは話しかけてもいいかな?」
「それは嬉しいな。俺も話しかけるよ、これからよろしくな」
もしかして、俺が思っているより何倍も友達を作るのは簡単なのかもしれない。現に山内はこう言ってくれたのだし。
しかし、相手に頼ってばかりではだめだ。
これからは自分でも友達を作ろうとしていかなければ。
「おぉ、相棒に山内って珍しい組み合わせだな。何の話をしてたんだ?」
「お、おはよう片山。えっと、俺たちは――」
「いやな、今日の小テストの範囲が分からなくなっちゃったから、山内に聞きにきたんだよ」
「それは災難だな、山内はノート取らないから分からないぞ」
「は、ははは……バレちゃった……」
咄嗟に考えるにはこれが精一杯だったが、なんとか誤魔化せたようだ。
山内、真面目そうなのにノート取ってないのか。
「あ、そうだ相棒、ちょっといいか?」
「ん? どうした?」
山内は気を遣って引っ込んでくれ、俺と片山だけの空間が出来上がる。
「いよいよ本番も近づいてきたからな。今日から予行練習を手伝ってくれないか?」
「いいぞ。実際に練習することで見えてくるものもあるしな」
「ありがとな! それじゃ早速、着物を――」
こうして、俺たちは約二週間の間様々なシミュレーションをし、そしてついに修学旅行本番を迎えることになる。