表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

43/67

プランA その3



 いやほんと、なんていうかさ、夢のような時間だったよ……。


 宮本と浅川さんのおかげで二人で行動出来ることになって、まぁ最初はガチガチに緊張してたんだ。

 また避けられちゃったらどうしようってな。


 でも、岩城さんは全然そんな素振りがなくて、むしろ俺が話を振ればちゃんと返してくれてたんだ。

 それでも踏み込んだ話をするのは嫌かなって思って、初めのうちは昨日のテレビとか修学旅行で食べてみたいものとか、そんなとりとめのない会話をしてた。

 前まで避けられてた岩城さんとやっと話せたんだ、俺はそれだけで幸せだったんだけど、やっぱり人間ってさらに上を求めちゃう生き物なんだよな。


 ふと会話が途切れた時、意識したわけじゃなくて、本当に自然に俺は聞いてしまったんだ。


「そういえば、夏休みに展示会で会ったよね?」


 柔らかい表情だった岩城さんの顔は一変して、何かに焦っているような、再び前のように恐怖しているような表情になってしまった。

 その瞬間、あ、やばいと悟ったんだ。

 でも、一度言ってしまったことは取り消せない。

 俺はなんとか自分の思っていることを伝えようと、そのまま言葉を続ける。


「い、いやほら! 俺もそういう服装大好きでさ、周りに服の話できる人なんてほぼいなくて、だからすごく嬉しかったんだ! もし嫌な気持ちにさせたらごめん!」

「……え」


 ちょっとダサいが、理由を説明する俺の必死さが伝わったのか、岩城さんの目は驚きに大きく見開かれ、身体から滲み出ていた焦りも消えていた。

 何かを勘違いしていたと理解したのか、岩城さんは言葉が途切れ途切れになりつつも口を開く。


「あ、あの……私も……嬉しい……です」


 少し俯いて恥ずかしそうにそう言う彼女を見て、俺はもうノックアウト寸前だった。

 やっと想いが伝わった嬉しさ、同志と認めてもらえた満足感が俺の胸をなみなみと満たしていく。

 きっと、岩城さんも服好きの友達がいないのだ。


「今日のサンダルもカナタのコラボのやつだよね?」

「え、知ってるんですか?」

「一眼見たときから分かってたよ。スウェットもカッコよかったよね」

「そうですよね! 買うか悩んでる間に売り切れちゃって、悲しかったです……」


 警戒心が解けたおかげで一気に会話が盛り上がる。

 彼女はこんなに活発に、そして楽しそうな顔をするのかと、会話と共に鼓動も高まっていく。


「人気だから仕方ないけど、ちょっと悔しい感じするよね」

「わかります。次は絶対にゲットして……あ……」


 勢いよく喋っていたことにようやく気が付いたのか、岩城さんは再び縮こまったようになると、バツが悪そうに視線を左右に彷徨わせている。


「気にしないで、俺も岩城さんと話せて嬉しいからさ」

「……ほ、ほんと?」

「もちろん。展示会で会った時から、ずっと仲良くなりたかったから。岩城さんは俺と話したくない?」


 彼女の眼鏡が光に反射し、その表情を読み取ることはできない。

 一瞬の思考の後、彼女は俺の視界で唯一確認できる小さな口で告げる。


「…………話したい、です」


 その時、飛び上がらずにいられた自分を褒めてやりたいくらいだ。

 凄まじく喜んでいる様子は流石に気持ち悪いからな、どうにか平静を取り繕って会話に戻る。


「ありがとう、すごく嬉しいよ。じゃあさ、お互いタメ口にしない? 友達になれたってことで」

「え……う、うん。わかった、これで良い……かな?」


 不安そうにこちらを見つめる岩城さんが、推定だが、学校の人間の中では俺だけに軽い口調で話してくれる岩城さんが可愛くて、そこからの俺はもはや暴走列車のように会話をし続けた。

 その間も彼女は笑顔を増やし、二人と合流するまでにだいぶ距離が縮まったんだ。


 残念なことにみんなの前では口調が元に戻ってしまうが、考えてみたらそれもまた秘密にしている関係みたいで興奮するな。



「……って感じなんだ。岩城さん、可愛くないか?」

「流石片山だ……。岩城さん可愛いな」

「だろ? 俺は決めたぞ宮本」

「何をだ?」


 別に岩城さんがここにいるわけではないのだから、そんなに改まった態度を取る必要はないのだが。

 というか片山の話、岩城さんの表現だけ無駄に凝ってなかったか?


「俺は…………修学旅行の最終日、岩城さんに告白する!」

「お……おう」

「え!? なんでそんな微妙な反応なんだ!?」

「いや、なんでって……」


 そんなこと言われてもな、俺の返事は一つしかないだろう。


「そんなの分かりきってた事じゃないか」

「……確かに。やるな相棒」


 むしろ、ここまで進展があって未来が見込めるのに告白しないわけがないだろう。

 スーパーマン片山が、恋愛に臆病なわけでもないのだから。


「……じゃあ、次に俺が言う言葉もわかるか?」

「もちろん。一緒に頑張ろうな、片山」

「あ、相棒〜!!」


 目に涙を溜めながら抱きつこうと飛び込んでくる片山を華麗に回避する。


「なんで避けるんだよ!」

「いや、服に涙ついたら嫌だから」

「あーそれは悪かった。ま、岩城さんだったら全然いいんだけどな!」

「ロマンチックな雰囲気とかで服が汚れる分には、俺も構わないぞ」

「今もロマンチックだったろうが!」


 互いに笑いながら帰路へ着く俺たち。

 何はともあれ、片山と岩城さんに進展があって良かった。

 修学旅行も二週間後に控え、いよいよ準備も大詰めを迎えてくる。

 本番で失敗することは許されない、綿密な作戦を立てて、片山の恋を成就させてやりたい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ