プランA その2
書店での情報収集も済ませ、俺たちは店を出る。
「岩城さんは後は何が必要なの?」
「私は…ウェットティッシュとかを買おうと思ってます」
「そうなんだ。宮本君と片山君は?」
浅川が自然に質問してくれたため、岩城さんが買いたいものについて簡単に知ることができた。
今此方に向けられている質問に対して、浅川と被りやすい返答をすることで、上手く別れる事ができる。
「小さいバッグを見ようと思ってるんだ」
「俺は岩城さんと同じでティッシュとかそういうやつだ、浅川さんは?」
「私は宮本君と同じ、ちょうどいい大きさの鞄があったら買おうかなって」
「それなら俺と岩城さん、宮本と浅川さんで分かれたらちょうどいいな」
よし、片山が今後の行動をうまいこと提案してくれた。
これで彼らに距離を縮めるチャンスができたことになる。
「岩城さんもそれで良いかな?」
「は、はい。それじゃあ片山君……い、行きましょう」
「う、うん! じゃあ二人とも、終わったら連絡してな!」
一瞬片山と目が合うと、彼の瞳はやる気と喜びに満ち溢れていた。
よくよく見ると、気づかれないように右手で此方にガッツポーズをしている。
頑張れ相棒。このチャンスを必ずモノにするんだぞ。
ぎこちない動きで歩いていく二人を見送ると、俺と浅川も行動を開始する。
「俺本当は買いたいものないんだけど、浅川はどうなんだ?」
「私もないよ。だから暫く二人でぶらぶらしようよ」
「そうだな。……あ、アイスでも食うか?」
「いいね。食べたいな」
タイミングよくアイスクリームショップを見かけたので、俺たちはそこでアイスを楽しみながら時間が経つのを待つ事にした。
俺が幼い頃から知っているチェーン店なだけに、お客さんも多い。
どの味にしようか考える時間が欲しかったのでちょうど良いとも言えるが、浅川は何を選ぶのだろう。
「浅川はもう味決めたか?」
「私はストロベリーにしようかな。宮本君は?」
「俺は……これかな」
そう言って俺が指差したのは、クッキー&クリームだ。
この二つを組み合わせようと思った人間は天才だと思う。
ノーベル平和賞とかあげてもいいんじゃないだろうか。
それはさておき、俺たちは店員さんにメニューを伝え、料金を払った。
少し経って、カウンターから二つの容器を手渡される。
俺はそれを受け取ると、浅川へストロベリー味を渡す。
「はい」
「ありがと。じゃあ食べよっか」
近くにあるベンチに二人で腰掛け、スプーンを口に運ぶ。
「ん……美味しい」
「懐かしいなぁ。久しぶりに食べる」
「確かに最近来てなかったかも。昔はよく来てたんだけどね」
そう言って浅川はこちらを一瞥する。
それがどういう意味なのか分からないわけではないが、もう今の俺たちには関係のない話だった。
その意図を察したであろう彼女は、微妙な空気を切り替えるかのように別の話をする。
「ねぇ、私も一口ほしいな」
片手で髪を耳にかきあげ、食べるときに邪魔にならないようにアピールしている。
少々こちらへ身を乗り出し、じっとこちらを見つめている姿は、アイスではなく俺を狙っているかのようだった。
「……はいよ」
「ん、ありがとう。こっちも美味しいね」
何か別の行動を起こされる前に、素直に自分のアイスを掬って、彼女の口元に差し出す。
それが口の中に達したという感触が親指に伝わり、雛鳥に餌を与える親の気持ちはこんな感じなのかなぁとぼんやり考えていた。
「じゃあ次は私のあげるね」
「いや、いいよ。あんま好きじゃないし」
「遠慮しなくていいよ。はい、あーん」
遠慮ではなく、本当にあまり好きではないのだが。
いちご自体は好きだが、アイスとなるとなんとも言えない。
だがそんな俺の思いも届かず、彼女のスプーンは俺の前に差し出される。
しょうがない、抵抗は諦めていただくとしよう。
「……あ、意外と美味しいかもな」
「でしょ? そういうと思った」
「もっと濃い味かと思ったけど、爽やかで食べやすい」
「わかる。あ、このスプーンは私が持って帰るから、新しいの貰ってくるね」
「おい待て」
さらっと変態っぽいことを言うな浅川は。
先程と違いこれに関してはしっかり抵抗しておかなければ。
最終的に渋々折れてくれたが、再び同じような事があれば、その時はきっと俺に何も言わずに持ち帰るだろう。
「じゃあ俺と片山はちょっと雑談してから帰るから、二人ともまたね」
「うん、またね」
「はい、ありがとうございました」
日も暮れかけてきて、全ての任務を終えた俺たちは解散することになった。
遠ざかっていく二人の背中を見ながら、片山に今日の戦果を聞いてみる。
帰ってきた二人はなんとなくぎこちない様子だったが、あながち悪い感じでもなかったため、良い物語を聞けるだろうと予期している。
「で、片山。二人でのデートはどうだった?」
「よくぞ聞いてくれた宮本よ。それではこれから、俺の体験した出来事を説明するとしよう」
そう言うと片山はぽつぽつと、まるで夢でも見ているかのように語り始めた。
え、またこういう感じなの?