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プランA


 というわけで週末、俺たちは修学旅行の準備の為、近くのショッピングモールを訪れる事になっていた。


 駅での待ち合わせ場所には既に片山の姿が。

 黒いスラックスに白いTシャツ、それに黒いシャツを羽織ったシンプルなコーデだが、むしろ蒸し暑い夏はそのくらい簡素な服装の方が良いだろう。

 岩城さんに会えるとあって、彼の気合いを表しているかのように、髪は束感が感じられるセットをしてある。


「おはよ、片山」

「おう相棒。そういえば、私服で会うのって初めてだったか。お! それってmullniの新作の巾着バッグだよな!? めちゃくちゃかっこいいな!」

「ありがとう。手触りが良くて気に入ってるんだ」


 出会い頭から早速彼の知識量の豊富さと褒め上手を確認したところで、今回の作戦についての打ち合わせをする。

 そもそも、何故放課後でなく休日に集まることになったかというと、私服なら岩城さんが服好きだという証拠が得られるのではないかと考えたからだ。

 そして浅川の「ごめん、今週は撮影があって週末しか空いてないんだ」という一言で、無事にこの日が実現したというわけである。


「で、今日の作戦なんだけど」

「そうだったな。確か、最初に本屋に行った後、各自必要な道具を買いに行くって段取りだったな。それで、宮本と浅川さんが同じエリアに行くからって、二人ずつに別れる。これで大丈夫だよな?」

「大丈夫。その時岩城さんも同じエリアに来ないよう、事前に何を買いたいのか引き出しておく必要があるな」

「了解。なんとかやってみるよ」


 ペアで別れることとなれば、岩城さんも落ち着いて片山と話す事ができるだろうし、何かしら進展があるのではないかと考える。

 こんなもんで打ち合わせは大丈夫だろう。


「二人とも、おはよ」

「おはようござい……ます」


 その時現れたのは、浅川と岩城さんだった。

 黒いオフショルダーのトップスに、デニムのスキニーパンツ。とてもシンプルな格好だが、素材が良すぎるため、過度な装飾など不要だった。

 対する岩城さんはというと、黒いワイドパンツに白いグラフィックTシャツをタックインした、これまたシンプルな格好だった。

 確かに普段とは雰囲気が変わっているが、眼鏡もそのままだし、果たしてお洒落が好きだと理解できる情報はあるのだろうか。

 そう思い、小声で片山に判断を仰ぐ。


「なぁ、岩城さん、バレないように抑えてきてないか?」

「確かにその通りなんだが、良く見てくれ。あのサンダルはカナタとスポーツブランドがコラボした時のものなんだ。やっぱり、俺の見立てに間違いはないみたいだな」


 この一瞬でブランドを見抜く観察眼、そして本来であれば誰もが目を奪われるはずの浅川に見向きもしないことから、どれだけ彼が本気なのかが窺える。


「よし、じゃあみんな集まったし、早速行こうか。まずは本屋さんでいいよね?」


 片山が軽快に場を纏め、俺たちはショッピングモール内にある書店へ向かうことになった。



「えっと、観光雑誌は向こうみたいだ」

「だいぶ広いな、この本屋」

「そうだね。なんでも置いてありそう」


 書店に到着した俺たちは、観光誌が置いてあるエリアへと向かう。

 ここに来る途中も片山はみんなを盛り上げようと会話を振っていたんだが、やはり岩城さんはあまりノっていない様子だった。

 ただ、特に帰りたそうにする素振りもなく、時々小さく笑顔も見せることから、どうやら素でこれくらい落ち着いているみたいだ。


「……あ、これじゃないですか……?」

「本当だ。ありがとう、岩城さん」

「い、いえ」


 岩城さんが見つけたのは「京都観光名所50選」という、有名どころから絶対に楽しめないだろと思うようなところまで、様々な観光名所が載っている雑誌だった。


「へえ、伏見稲荷大社には千本鳥居っていうのがあるらしいぞ。浅川は行ったことある?」

「一回だけ近くは通ったことあるけど、実際に見たことはないかな。着物を着て歩いたら凄く楽しそう」

「確かに浅川さんの言う通り、着物着るのはいいかもしれないな。これを自由行動に入れようと思うんだけど、岩城さんはどう思う?」

「わ、私は賛成……です」

「宮本も浅川さんも賛成みたいだし、二日目はこれで決まりだな。三日目は定番だけど、清水寺でどうかな」


 こちらの問いかけにも皆同意し、早くも修学旅行の予定が決まることとなった。


「あ、ごめん。言うの忘れちゃってたんだけど、私二日目の夕方はマネージャーと打ち合わせがあるから、二時間くらい抜けることになっちゃうと思う」

「わかった。その間あんまり離れないでおくから、終わったら連絡してくれ」

「そうだな。多分夜は飯食って旅館に帰るだけだろうし」


 こういう時ですら気が抜けないのが、人気モデルだという証拠だろう。


「本当は宮本君と二人でデートしたかったんだけどね。そうすればあの二人もいい雰囲気になると思うし」

「そ、そうだな……」


 浅川が肩を寄せ、耳元でそう囁く。

 自分の要求に本来の目的を添えることで説得力を増すことのできる高等テクニックだ。

 自然に使ってくるなんて、やはり浅川は相当な策士だと思われる。



 

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