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班決め その2

新作更新しておりますので良ければ読んでみてください。


「よし、残念ながら先生と勉強したい奴はいないようだが、一通り班は決まったな。ではこれから、各々集まって修学旅行の予定を決める事。二日目と三日目の昼過ぎまでは自由行動だぞ」


 ひとりぼっちで項垂れる生徒を見ずに済んで、先生もさぞ嬉しいことだろう。

 今からは自由行動の際、どこへ行くのかを決める時間らしい。

 そもそも修学旅行に自由な時間がある事を、この瞬間初めて知ったんだが。


「片山、これはチャンスだ。この時間を利用して、岩城さんの好みとかを探ろう」

「流石相棒、天才か? よし、上手いこと話をそっちに持っていくか」


 俺たちは岩城さんに聞こえないよう、ヒソヒソと作戦を練り始めた。

 どうでも良いが、既に俺のランクは相棒にまで上り詰めていたようで、若干の気恥ずかしさを感じる。


「二人とも大丈夫? 今から予定を決めようと思うんだけど」

「平気だよ。片山も大丈夫だよな?」

「もちろん。じゃあどこに行くかなんだけど、やっぱり京都といえば清水寺だと思うんだ」

「確かにそうだね」


 こうして観光地の相談がスタートし、浅川が的確に相槌を入れていく。

 おそらく本当に清水寺に行きたいわけじゃないだろう。

 これはあくまで話の繋ぎで、本当の狙いは、ここから岩城さんと会話を始めること。


「だな。でも、有名どころ過ぎるんじゃないか?」

「流石宮本、いい意見だ。もう行ったことのある人も居るかもしれないしな。岩城さんはどう? 清水寺行ったことある?」

「わ、私は……京都自体初めてです」


 伏し目がちで告げる彼女の目元はよく見えない。

 今の段階では片山への拒絶は見られないが、依然警戒はしているようだ。

 どのようにすれば、安全な人間だと理解してもらえるんだろう。

 そう考えている間にも、片山は返事をする。


「そうなんだ、実は俺もなんだよ。いまいちどこに行きたいなっていうのがないんだけど、どっか気になってる場所とかある?」

「うーん……そもそも何があるのかもあんまり分からなくて……ごめんなさい」


 場が整ったお陰で、片山は自らのコミュニケーション力を存分に活かして話を回す事ができる。

 しかし、話はそう簡単にまとまらないようだ。

 ここからどうするべきか、上手い落とし所を探らねばならない。


「ううん、謝らないで。俺も同じだからさ」

「実は私も京都詳しくないんだよね。撮影で行くことはあっても、観光してる時間がなくて。宮本君はどう? 京都詳しいの?」


 涼しげな浅川の目元が、俺に何かを告げようとしている。

 よく考えろ、きっとこの二択が勝負の分かれ目だ。

 片山も岩城さんも、浅川も京都に詳しくない。

 もしここで俺が、京都に精通しているとしたら?

 俺が案内役になるか、目的地の候補を出してそれで終わりだ。

 しかし、俺も詳しくないと言えば……そうか!


「いや、俺も全くだ。なら、みんなで調べてみるのはどうだ? ショッピングモールの本屋なら、京都特集の本がいっぱい置いてあるだろうし、準備しなきゃいけないものも買えるし」

「それはいいな! 浅川さんと岩城さんはどう?」

「うん、いいと思う」

「私も……賛成です」


 浅川のキラーパスのお陰で、なんとか次に繋げる事ができたようだ。

 放課後なり休日なりに集まれば、嫌でも距離が縮まるだろう。

 隣の席からはうるうると感謝のこもった視線を送られているし、ミッションコンプリートだ。


『キーンコーンカーンコーン』


「お、それじゃあ今日はここまで。ちょっと職員室戻るから、その間にみんな帰りの準備しておけよ〜」


 一日の終わりを告げるチャイムが鳴り、小鳥遊先生が教室から出ていく。

 もともとざわざわとしていたクラスは、修学旅行への期待からか、さらに大きな音に包まれていた。


「よし、今日はこんなとこだな。調べに行く予定を合わせたいし、みんなでグループ作っておこう」


 片山がそう言うと、各々が自分のスマホを取り出し、メッセージアプリを起動させる。

 基本個人間でやりとりをするアプリなのだが、招待された人間が承認することで、複数人で連絡を取る事もできるのだ。

 手際の良い登録もあって、あっという間に四人のグループが完成し、片山は実質岩城さんの連絡先を手に入れたと言える。


「それじゃあ予定はグループに送るね。岩城さん、行こっか」

「う、うん。それじゃあ、失礼します」


 そうして浅川と岩城さんは去っていき、俺たち二人だけが残る。


「いやぁ良かったな片山。岩城さんの連絡先をゲットしたも同然じゃないか」

「お、おぉ……そうだな……」


 前人未到の快挙だというのに妙に歯切れが悪いなと思い彼の方を見ると、何故か汗がダラダラと額から流れ、顔面から血色も無くなっていた。


「片山!? どうした!?」

「い、いや……岩城さんとたくさん喋れたのが嬉しくてな……」

「そ、それならいい……のか?」

「あぁ……夢のようだ……。これ夢じゃないよな? 一回殴ってみてくれないか?」

「気持ち悪いからやめとくよ」


 赤くなるとかじゃなくて真っ白になるのは意味が分からないが、体調不良じゃないようで安心した。

 何はともあれ、次の勝負は近い。

 再び作戦を練って、二人の仲を近付けなくては。


 

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