班決め
「じゃあ、今日のロングホームルームは修学旅行の班決めをするから、4、5人で一つの班を作ったら黒板に名前を書きに来い。あぶれたやつは先生と二人で回ることになるぞー」
無事に風邪から回復した俺に待ち受けていたのは、全く頭になかった修学旅行の班決めという地獄のようなイベントだった。
そういえばもう九月だもんな、月末かなんかに京都に行くって学校行事表に書いてあったのを思い出したぞ。
これはまずい、唯一の友達である片山には自分のグループがあるし、浅川と二人で回ろうものなら何か事件が起こるに違いない。
というか、また真壁のような過激派に襲われかねん。
そう考えると小鳥遊先生と二人で京都観光っていうのも良い気がするな。先生綺麗だし、きっと静かに観光を――
「ちなみに私は大の源氏物語ファンでな。京都では延々と源氏物語についての知識を垂れ流すと思うから、勉強熱心なやつは自分から申し出ても良いんだぞ」
だめだ、俺の修学旅行は始まる前に終わってしまった。
もはや何の打開策も思い浮かばない。こうなったら、イマジナリーフレンドが三人いますとか言って先生をドン引かせるしかない。
「宮本? ちょっと良いか?」
そうか、イマジナリーフレンドを実体化させる方法を編み出せばいいんだ!
なんて頭の切れる男なんだ俺は。
「宮本、おい?」
そうと決まれば今日から修行だ。
系統的には魔術になるんだろうか、なんであっても俺は体得してみせるがな。はっはっは。
「宮本!!!」
「なんだ!? うるさいな!」
「うるさいは酷くない? 何回も呼んだんだぞ……」
いつのまにか俺の目の前には、心配そうな顔を浮かべた彫りの深い顔があった。
何か用事があるのか、片山が話しかけてきていたのだ。
「ごめんごめん、考え事してて。それで、どうした?」
「いや、こんな時に声をかける理由なんて一つしかないだろ。俺と班組んでくれよ!」
……え?
申し出は死ぬほどありがたいが、何を言ってるんだ片山は。
自慢じゃないが、彼のグループの人間は俺にマイナスの感情を抱いていそうだし、上手くやっていける自信なんて毛ほどもない。
それによって彼らの友情に亀裂が入るような事があったらと思うと、ここは丁重にお断りするのが得策だろう。
「申し出は嬉しいけど、他のメンバーと仲良くなれる気がしないんだが」
「何言ってるんだ? あいつらはあいつらでグループを組んでもらうから、メンバーはまだ俺たち二人しかいないぞ」
「……え」
確かに、片山を抜いても彼らはグループを組める人数だが、何故そんな事をするんだろう。
わざわざ俺を選んでくれる理由がわからない。
「なんで俺と組もうとしてくれるんだ? 一人で寂しそうとか?」
「あのな……。お前が思ってるより、俺にとって宮本は大切な友達なんだよ」
「片山……」
理由なんてものに固執した自分が恥ずかしくなった。
彼は俺のことを、本当に友達として大切にしてくれているのだ。
若干頬を染めているのは気持ち悪いが、きっと照れているからだろう。
「そういうことなら、俺の方からも言わせてくれ。よかったら、一緒に班を組んでくれないか?」
「もちろんだ。よろしくな」
こうして、ひとりぼっちはふたりぼっちへと進化を遂げた。
依然として小鳥遊先生による課外授業は避けられていないが、それでも彼と一緒なら乗り越えていけるだろう。
「そういえば岩城さんについて、三人程に聞いてみたぞ」
「本当か!? ありがとう! それで、なんて言ってた?」
「片山はキラキラしてて異性経験のない人には怖いと思うから、まずはゆっくり警戒心を解いていくほうがいいと思うってさ」
「ふむ……警戒心か……」
両肘を机の上に乗せ、両手を鼻の前で合わせて考えている。
アニメでよく見るポーズだが、彼がやるとサマになっているな。
「警戒心を解くって言っても、そもそも近付けないんだよなぁ」
「確かに、近付こうとすると避けられるって言ってたもんな」
「そうなんだよ。どうにかして、それこそ班にでも入ってくれれば名誉挽回のチャンスがあるんだけどな」
確かに、同じ班になれれば自然と関わる機会は増え、彼の誤解を解くことにも繋がるだろう。
しかし、この状況で俺たちが誘っても、加入してくれるとは思えない。
一体どうすれば――
「ねぇ宮本君、あなたたちの班ってまだ二人だけ?」
「浅川か……そうだけ……ど……?」
顔を前に向けると、スカートから伸びる細くて長い足が目に入った。足が長いせいで相対的に短く見えるスカートにどきっとする。
その美脚の持ち主である浅川が、班に入ろうと声をかけてくれたのは理解しているが、俺が驚いたのはその後ろにいる人物にだった。
「岩城さん……も、一緒に入る?」
「う、うん……。宮本君と、か、片山君が良かったらだけど……」
「片山……君……」
名前を呼ばれた嬉しさでショートしている彼は放置して、状況を考えてみる。
浅川はわかる、自分で言うのも恥ずかしいが、俺に好意を持っているので、この機会を利用しようと言うのだ。
だが、浅川と岩城さんの間に接点があるとは知らなかったし、わざわざ苦手な片山がいる班に入る動機もないように思える。
もしやこれが、浅川が言っていた良いアイデアというやつなのだろうか、だとしたらとんだ策士だ。
方法は分からないが、難攻不落の岩城さんを落としたのだから。
こちらの回答は分かりきっているが、形式的に片山にも話を振っておこう。
「俺は全然いいけど、片山はどう?」
「も、ももちろんおっけー! よろしくね、浅川さん、岩城さん!」
「あ、うん」
「よろしくお願い…します」
こうして、俺たちは一気に源氏物語体験ツアーから、華々しい修学旅行を手にしたのだった。
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