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二章開幕です



「というわけで、真壁は一月の間停学処分ということになった。お前たちには納得のいかない部分もあると思うが、これで勘弁してほしい。まぁ、その後の周囲の視線まで含めたら妥当な罰ではあるがな」


 事件の解決からややあって、俺と浅川は担任の教師に呼び出されていた。担任である小鳥遊先生は、足を組み替えながらハスキーな声で話を続ける。真壁の証拠を提出した事について、その処分を報告してくれたというわけだ。


「いえ、ありがとうございます先生。宮本君も、それでいいよね」

「はい。ありがとうございます。学校で待機する許可も、本当に助かりました」

「私はそういう映画みたいな展開は好きだが、あんまりやりすぎるんじゃないぞ?」


 メガネの位置を直しつつ注意を促す姿は、それこそ映画に出てくる教師みたいだった。しかし、本当に先生にはお世話になってしまった。いや変な意味ではなく、彼女が許可を出してくれなかったら、真壁の犯行の瞬間を写真に収める事は叶わなかっただろう。俺の話を聞き、柔軟な対応力を見せてくれた先生には頭が上がらない。


「話はそれくらいだ、浅川は戻っていいぞ。宮本はもう少し残れ」

「はい、失礼します。宮本君、先に行くね」


 一度小さく会釈をして、浅川は職員室から出て行った。特に俺に対する用事など無いように思えるが、何かしてしまっただろうか。


「先生、俺何かしましたか?」

「いや、何もしてないよ。そういう話じゃないんだが……あー……」


 何やら話しを切り出しづらそうな、言葉を慎重に選んでいるような様子だ。内容は分からないが、気を遣ってくれているのが読み取れる。


「大丈夫ですよ。最近色々あって鋼の心を手に入れたので、大抵の事ならダメージを受けません」

「その最近の事なんだが……まぁ、ぶっちゃけるが、お前何かあったのか? 辛い思いはしてないか?」


 あー、そういうことか。先生が伝えたい事が理解できた。俺が夏休み明けに急に変化した事や、真壁から嫌がらせを受けた事、浅川を泣かせた事なんかも風の噂で耳に入っているかもしれない。とにかく、そういう事があったから俺を心配してくれているのだ。


「辛くないですよ。むしろ、色々な問題が解決できて以前よりも気が楽になったくらいです」

「そうなのか? それならいいんだが……。じゃあ、もしまた何かあったら私に相談しろ。おそらくお前が本当に苦しい時に私は気付くことができなかったんだろうが、次は何としても力になってやる」


 組んでいた足を解き、こちらへ近付く。レンズの向こうから真剣な眼差しが覗いており、その迫力に一瞬気圧されてしまったが、根本にある優しさのお陰で恐怖はなかった。


「何で先生は、そこまでしてくれようとするんですか?」

「……それはお前が私の生徒だからだ。それ以外に理由はいらない」

「……ありがとうございます」


 本気で生徒に向き合おうとしてくれているのだろう。担任と言っても、常に生徒を見ていられるわけではない。だから俺と浅川の事について気付くことができないのは当然だが、その関係が変わった事を察したのだ。


 親身に生徒の悩みを解決しようとしてくれる小鳥遊先生が担任で頼もしいなと、そう思う。俗的な事を言うが、校内人気ナンバーワン女教師の座は伊達ではないということだ。


 浅川のように鋭い目元に眼鏡を掛けており、口調の堅苦しさも合いまって堅物と思っている生徒もいるが、実は彼女はかなり多趣味で、反抗期の生徒達との会話をいとも簡単にこなしてしまう。


 涼しく束ねられたポニーテールは、先生曰く邪魔にならないからだそうだが、男子生徒からすると些か目の毒である。彼女はまさに、現代の男子生徒が思い描く理想の女教師像その人なのだ。統計を取ったわけではないので本当に理想かは定かではないが。


「話はこれで終わりだ。宮本も教室に帰って良いぞ」

「はい、ありがとうございました」


 挨拶をして、職員室を後にする。


「宮本君、話は終わった?」


 部屋の外では、何か用があるのだろうか、浅川が俺を待っていたようだ。相変わらずのスタイルの良さで、ただ立っているだけなのに、モデルのオーラみたいなものが滲み出している気がする。大変羨ましい。


「終わったよ、浅川はどうして待ってたんだ?」

「特に理由はないよ。ちょっとでも一緒にいれたらなって」

「そ、そうなのか」


 用件は何もなかったらしい。あの夜以来、浅川は何かと隙間時間を見つけると、俺の元へとやって来るようになった。流石に黒咲がいる時はあまり声をかけてこないのだが、それでも三日にいっぺんくらいは当校に置ける二大巨頭の修羅バトルを特等席で見るハメになってしまう。


「先生は何か言ってた?」

「いや、特に何も言ってなかったよ。ただ、俺の事を心配してくれてたみたいだ」

「確かに、宮本君は女の子に人気があるから、いつか刺されないか心配だもんね」

「え、俺刺されるの?」


 さらっと怖い事を言われてしまった。俺に声をかけてくる女子なんて、黒咲と浅川くらいしかいないはずなのだが、もしやその二人のどちらかが俺の命を狙っているという事なのだろうか。


「……浅川は刺さないよな?」

「も、もちろんだよ。でも、そんな視線で見つめてもらえるなら答えは濁しておこうかな」

「…………」


 本当に、彼女はいつの間にマゾヒズムに目覚めたんだろう。ほとんどポーカーフェイスのくせに、こんな時だけ頬をぽっと赤くする意味が分からないぞ。


 話は戻るが、黒咲と浅川の二択だったら、俺を刺しそうなのは浅川……。いや、黒咲にも素質がありそうな気がする。意外と独占欲強いタイプだろうからなぁ。


 脳内では、二人で撮ったプリクラをスマホの裏に入れるよう説得してくる後輩の姿。結局財布の中にしまってあるが。


 そう考えると、俺の命を脅かす危険性があるのは浅川ではなく黒――


「宮本君、他の女の子の事考えてない?」

「……そんな、めっそうもございません」

「……ならいいんだけど」


 冬を先取りした、凍りつくような視線。前言撤回、二人とも危険だった。


 

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