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ありがとうと伝えることの大切さなんて、私は考えもしなかった。




彼に初めて出会った時のことは、あまりにも昔過ぎて覚えていない。記憶もないほど小さい頃から、気がついたら一緒にいたことしか私には思い出すことが出来ない。


「また明日も遊ぼうね」


誘うのはいつも彼からだった。私はそれが当たり前で、私たちにとっての『普通』だった。いや、そう思い込んでいただけで、もしかしたら彼にとってはそうじゃなかったのかもしれない。でも私にとってそれはあまりにも当たり前なことで、小学校になって出来た友人たちと私を誘わずに遊びに行った時は、理由も言わずにしばらく口を聞かなくなるなんてこともあった。つまるところ、私にとって彼は、私と一緒にいて然るべき存在なのだと勝手に決めつけていたのだった。




その関係は中学生になっても続いた。


2人で遊ぶことは少しずつ減っていったが、放課後の帰り道や、週末の殆どは一緒に過ごしていた。大体はお互いの家に行き、漫画やゲームをしたり勉強したりして過ごしていた。


よく、友人から付き合っているのかとたずねられた。


「そんなんじゃないわ。あいつが寂しそうにしてるから、構ってあげてるだけ。腐れ縁ってやつよ」


私は決まって、そう答えた。今思い出すと人を値踏みするようで嫌なのだが、彼はルックスもそれなりに良く社交的でみんなから人気があり、そんな彼と親しくしていることを内心でステータスのひとつのように考えていた。彼は私の事が好きに決まっている。当時の私はそう思い込んでいて、実際、後に彼本人に直接聞いたところそうだった返事をしてもらったこともある。彼は、小学生の頃から私を好きになってくれていたそうだ。もちろんそんなことを実際に聞く勇気もない当時の私だったが、彼が自分以外の女性と付き合うわけが無いという根拠の無い自信とプライドで、他の女生徒が彼にアプローチしていても何も言わず静観していた。もちろん心の中は穏やかでは無かったが、だからといって私が彼を好きなのだと言う訳にもいかず、どうしようもなかったとも言えた。そもそも、当時の私は、自分が彼を好きだなんて全く思っていなかった。自分の気持ちに、自分で気がつけていなかったのだ。そのことも相まって、根拠も無く自分に好意を抱いているはずと決めつけた彼が、いつになっても私に告白をしてこないことが腹立たしかった。その原因が、自分は彼に好意なんてない、といった態度を取っている自分自身のせいだということに気がついていないあの頃の私は、本当にどうしようもないくらいの阿呆だった。




そんな関係がぐだぐだと続き、私たちは高校生になった。私たちは、別々の高校に通うこととなった。


「これからはあんまり遊べなくなっちゃうかもね」


「別にいいんじゃない、あんたとの腐れ縁もここまでってことでしょ」


彼は公立の男子校へ、私は公立だが共学の高校に入学した。その時の私にとって、彼は私を裏切って別の高校を受験した最低野郎だった。もちろん実際は違う。彼には彼の目標とする夢があり、それを叶えるために偏差値の高い学校を選んだのだ。そのことを理解しようともしなかった私は、自分のレベルに最も近い高校を志望校に掲げ、彼も当たり前に同じ高校を受けるのだと決めつけていた。


「大丈夫かしら、他の子に取られちゃうんじゃない?」


ある日の母親の言葉に、私は憤慨した。それではまるで、私があいつを好きみたいではないか。私はその言葉に対抗するかのように、同じ高校の先輩と付き合い始めた。この前はここにデートに行った、2人きりで映画を見に行った、初めてのキスをした。私は事ある毎に、先輩との恋愛話を彼に伝えた。私を裏切った罰だとでも言わんばかりに、彼に対して自分の浮ついた話ばかりを投げつけた。そんな私の酷く低俗な行いを、彼はいつも優しく暖かい言葉で返してくれていた。その時の私にとって付き合っていた先輩は好意の対象ではなく、やはりクラスメイトへの一種のマウンティングであり、単なる彼への当てつけであった。ある時、彼から彼女が出来たと連絡があった。


「ふーん、よかったじゃん」


口では冷静を装ったが、一気にドクンと心臓が高鳴った。例えようのない、とてもネガティブな気持ちが私の中を駆け巡った。本当だったら言いたくないはずなのに、私は偉そうに、彼に自分なりのアドバイスを授けたりした。こうした方がいい、こんなことは絶対にしちゃいけない。恋の先輩ぶりながらも、とても複雑な心境でそれらを伝えた。それが原因なのか功を奏したのかは分からないが、しばらくして、彼からその子と別れてしまったと連絡があった。


口では彼を小馬鹿にしたが、その時の私は、本当に心の底から安堵した。

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