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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

勘弁して下さいテンプレチートのショートストーリー

作者: 蠢く蠢く



 ボクは山田幸太郎。

 友達はインターネットという普通の高校生。

 チャットルームでの日本のどこかに住む大人の友達はいるけどクラスメートの友達はいない。


 学費がもったいなから地元の偏差値が低い公立高校に進んだんだけどクラスの半分は田舎のチームというカッコをつけた暴走族と関係者。

 その他はボクと同じようなインドア趣味か、無難に生活しようとする同年代。


 コミニケーション能力に不備はない…… はず?


 でもバイクを盗んだ話や何人の女性と肉体関係になったとか、アイドルに貢いだ話やゲームに廃課金したいからバイトばかりして授業中に寝ている人とか……

 

 いや、友達になるのムリっす。


 生活する為の最低限の会話だけで過ごすモブに撤して17歳の夏を迎えた。


 さて、明日から夏の休み。

 暴走族の集会の話や、アイドルイベントの話で盛り上がるクラスの昼休みに急に意識が途切れた。


 ──────── ああ、なんて旧派な……

 意識を取り戻した時の印象はコレ。


 白い空間に倒れながら首を左右に向け、自分が居る場所を確認する。


 晴れた空の濃厚な雲塊(うんかい)に居るような……

 でも寝転がれるような質量のある……


 その場にクラスの皆んながバラけて倒れて居て中央にボウッと光る巨大な老人がいるそんな場所だった。

 

 異世界ものかな?

 

 マンネリな場面に呑気な感想を脳内に浮かべていると不良の1人が老巨人を睨みながら詰め寄る。

 「んーだらぁぁ! オラァァ! ここどこじゃコラァー!」


 間違えてはいけない。

 彼等のこの言葉遣いは『ちょっと怒ってるんだけど』という風なのだ。

 どうやら不良のクラスメイトも流石に焦っているようだ。ボク的にはありがたいけどね知らない巨人に言葉は悪いけど尋ねる事ができるんだから。


 「…… 私は異世界の神だ」

 はい、きました。


 映像…… なのか不良がその言葉を聞いて胸ぐらを掴もうとするけど、どうやら老巨人の体をすり抜けるようで何度か試した後に驚愕しながら自分の手をじっと確認している。


 「恐れるではない異世界の子達よ」

 平坦な抑揚で老巨人…… 定義的に神様と呼ぶとする。

 神様はボク達に話しかけてきた。


────── ボク達は校舎裏にある化学工場からの爆発で死んだ事

────── あちらの世界(地球)の神様からボク達の魂を異世界に移す事を許された事

────── ボク達の魂は異世界において大きな価値があるという事。


 なるほど、話を聞いてきいて分かる。


 異世界の神はボク達を何とも思っていない。

 ボクは高校生だけどブログのアフィリエイトでいくらか稼いでいる。こうなると嫌でも金を目当てにする大人と、()だけ利用しようとする大人に出会う機会に恵まれる。


 異世界の神様は後者…… のような気がする。

 平坦で冷静な話し方、利益を誇張しながらわざと言葉を水増しして提示しする…… なにか裏があるだろう。

 

 周りの同級生はいきなり知らさせる自分の死、や、異世界に行くという楽しみの感情を爆発させる人に分かれて今の状況に対して注意と観察が出来ていない。


 高校生っぽくないわね──── チャットでちょくちょくと言われた言葉に苦笑する。

 そうだよな、未成年の日本人は[こんなもん]だろう。言い換えれば未成年を選んだのは急場での|問題に対する視点の往復コンセプチャル理論的(ロジカル)な思考を実地で経験して持っていない人間を選んだ…… のかな?

 ボクなんか経験値ある大人の半分も思考の柔軟性はないだろう。でも…… その程度でも気付くぐらいこの異世界の神様は胡散臭い。


 日本の学校は海外と比べて聞き取りと討論(ディベート)授業をしていない。与えられた情報を鵜呑みにする傾向があると思う。だから日本人を異世界に連れて行く事を選んだとかかな?

 

 ここで神様はニヤリと初めて表情を変える。


 「さて異世界の子達よ…… わざわざ我が世界に来てくれるのだそれぞれに2つずつ能力をやろう」


 神様が語るにボク達が行くのは異世界ものの定番とした剣と魔法の世界で人口は地球の五分の一程度、中世前期…… 西暦1000年辺り+独自に進化した文化水準だという。

 

 神様はチート能力をエサにしてボク達に何をさせたいんだろう?

 不良の最初の対応を見てもチートを与えたら神様の自らの世界に害悪にしかならないだろうに。

 ここは…… 静観した方がいいね。


 さてさて、みんな色々な嬉々としてチートをゲットしていく例えば

 「女にモテる外見と何でも殴り殺せるぐらいの力が欲しい」

 「では容姿端麗とオークという魔物の力を与えよう」


 例えば

 「火魔法と光魔法を極めた能力が欲しい」

 「では2つの魔法の最極の知識が詰まった書物を与えよう」

 

 例えば

 「奴隷を作る魔法と大金が欲しい」

 「では世界にはない新たな奴隷を使役する魔法概念の本と金銀財宝を送ろう」


 例えば

 「回復魔法をとにかく大盛りで」

 「では死者をも蘇らせる光の魔法の呪文が書かれた書物を与えよう」


 それらチートは、まるで決められたようにスムーズに与えられていく

 ただし、一部の神様の言葉を止めるような要望もあった。

 「現地人とやりあう為に必要な力といっちゃん(一番)強い剣士とやりあえる剣の技術をくれ」

 「…… では、わかった」


 具体性が無い場合は決められたテンプレートの言葉で誘導して想定した能力を与え、具体的な要望には一瞬の詰まりがある…… のかな?

 

 確認と観察を続けて最後…… ボクの番になった


 神様の前に進む。ホントにデカイ。

 ボクの身長が165センチ。その頭頂を腰をかがめて触れてくる。手には実体がある?


 色々な考えをしていると神様と目が合う。早くチート能力を望めと言われたような気がしてボクは口を開いた。


────── 俺はクラスメイトには酷いけど見学して考えに至った

 魔法の能力があっても地球人には使えないんじゃないかと


 みんなは神様に一言二言と質問をしていたし俺も質問


「あの、地球人には…… 魔法を使う魔力は備わっているんでしょうか?」

 この言葉に神様は初めてニヤニヤという笑顔が消える


 「もちろん、地球人には魔力はない。魔法体系の知識は与えた…… が魔力が無いのだから使えないだろう。しかし現地人に教師として雇われる道もある 」

 もちろん、そんなコネクションなんか簡単に作れないだろうけどね。


 言外にそんな顔をする神様


 なるほど…… この(・・)含みだと…… 一部を除いて他のみんなは早く死ぬんだろう。

 異世界の神様は体よく言葉遊びで話を誘導して使えないチートを与え、早々に地球人の魂を異世界に還元させようとしている?


 「─────── 決めました、ボクの魔力量を異世界基準で一番多い生物と同じにして下さい。もう一つの能力は知識の獲得能力を異世界基準で一番多い生物と同じにして下さい」

 わざとミスリーディングしにくいよう語彙を狭めて願う。


 フン……

 異世界の神様は初めて嫌悪感がある顔になり鼻を鳴らしてボクの頭に乗せた手から暖かい光を体に注ぎ込んできた。


 「お前だけは、異世界でも長生きできるだろうな。せめて我が世界で励み、発展を促すように」

 「────── はい」

 ここで上からの言葉に噛み付いてチート取り上げとか馬鹿馬鹿しい…… と、文句を飲み込み頷くと背後に騒めきを感じる。


 みんなは、異世界での夢と希望に騒いでいる。

 ボクの願いは…… 現地でからまれたく無いからボソボソと声を絞って神様にお願いをしたから聞こえていなかったようだ。

 「神様、どうしてボクら世界の人間の魂を集めているんですか? 」

 「…… なに、実はそちらの世界の神様への嫌がらせが殆どなのだよ」


 うっわ、ゲスいなぁと考えて引いていると意識は混濁して……


 目がチカチカとして、前後不覚になりながら踏ん張るとボヤけた目に街の景観が見えた。


 「ここが…… 異世界?」

 街中の広場に地球での体は死んだんだから異世界転生(・・)かな?してくれたのかな?あの神様の事だから森の中にでも捨てられるかと思ったけど……

 呆けながら考えていると女性の悲鳴と男性の怒号が聞こえる。


 あれ?ボク達に向けられている?

 目の端にクラスメイトが映るのでクルリと体を捻り回りを見ると異世界転生した皆んながいる。

 ドサリと置かれた金銀財宝とアイテム、人では無い魔物が次に目に入る。


 「では容姿端麗とオークという魔物の力を与えよう」

 「では世界にはない新たな奴隷を使役する魔法概念の書物と金銀財宝を送ろう」


 ああ、こうくるか……

 神様の殺意でオークの中でも容姿端麗な化け物の体を受肉、私物か判断出来ない場所に雪崩れるように置かれた金銀財宝。


 叫び声を聞いたのか鎧を着て抜き身の剣を持ち走る、衛兵だろうか?遠目にだけど広場に走ってくる。


 これは拙い……


 ボクは目につく地面に転がるクラスメイトが望んだ貨幣や書物やらをいくつか掴み、助けてと叫びながら異世界の人々の輪の中に走り隠れた。



─────── 不思議な事に言葉が理解出来た。

 これは神様が雲の世界から異世界に下ろす時に魂受肉したんだろう。脳や筋肉か神経を神様が触りやすいようにローカライズしたからだと無理矢理納得させた。


 出来ない事

 分からない事

 知らない事

 獲得している事に悩み続けるのは今は時間の無駄になるからね。


 クラスメイトから窃盗・強奪した貨幣…… 金貨で宿をとり狭い部屋で一息。

 どうやら金貨一枚で食事付きで半月の滞在ができるようだったので、それを頼む事にした。食べる・寝るが獲得出来たのは上々(じょうじょう)だろう。

 …… みんなには悪いと思うけど、すぐに喧嘩をする人や漫遊気分の人には付き合っていられない。


 なんせ、神様が殺しにきているんだから。



 「ふう、慣れていないけど金貨21枚に書物3冊も盗めた…… 窃盗の能力があるみたいで自己嫌悪だけどクラスメイトから盗めてよかった…… はぁ、ここで『よかった』という言葉が出るのか…… クズだなボクは」


 地面に落ちていたから…… と脳内の自己弁護にさらに憂鬱になりながら、盗んだ本のタイトルを眺める。


 回復魔法・光魔法・奴隷魔法…… か。


 奴隷魔法はオークに変えられたクラスメイトが持っていた物だ。自分の身体が怪異に変わり驚いた事で手放してしまったようだ。

 回復魔法、光魔法も神様が「書物で与える」と言っていた物だ。


 盗んだ事がバレたら恨まれるだろうなぁ……

 そう考えながら、ペラペラと光魔法の本をめくってみる。

 「これはダメだ。他の皆んなでは使えないな」


 例え魔力があっても。

 そう付け加えるぐらいの難度高いものだった。


 文庫本サイズ…… ライトノベルほどの薄さで表紙も少し厚いが中に書かれている文字はビッシリ…… 辞典のような文字数がある。


 ページ枚数は100ページぐらい…… だけど書き出しの文章から酷い。

 《異世界人が使うであれば、この本にある全てを暗記せよ》


 おいおい、丸暗記でやっと魔法を使えるのかよ。

 思わず足の指をギューッとしてしまう。


 「これは…… 魔法ムリじゃない?」

 血の気が引く思いだわ。例え魔力があり魔法を使う基盤があっても魔法を使うソフトが用意出来ない!?


 あ"あ"〜…… と絶望しながら本を読んでいくと異変に気付く。本の内容が全て頭に入るのだ。


 これは…… ボクが望んだ『能力は知識の獲得能力を異世界基準で一番多い生物と同じにして下さい』という能力のおかげ…… かな?


 下手な事を望めば殺されると思って期待しないで頼んだ物がどうやら有用だったようだ。全てのページを読み終わると本を理解したと感覚で分かる。


 「…… ライト」

 

 魔法の綴り(スペル)を唱えると指先に光が灯る。


 この異世界では魔法の規格化はされていないみたいで(光の書物の記述による)

 魔力量−頭の中で望んだ物=魔力量が足りるなら顕現化されるというファジーでアバウトな物…… みたいだ。


 ボクには神様の意地悪が上手くいかなかったみたいだから魔力量は…… 比べる対象がまだいないから分からないけど相当なものだと思う。これ、どうとでも生きていけるんじゃない?


 一気に押し寄せる希望の中、ボクは残りの魔法の書物を読破していった。



 翌朝、宿の一階にある食堂でパンと熱々のスープを飲む。異世界物にある飯うま・飯まずではなく…… うーん、表現は難しいけど外国料理ってこんな味だろうなー?の味薄い版という味だった。大丈夫。文句を言わなきゃ生きていける。


 魔法の書物は3冊とも暗記済み。

 まだまだ覚える余力はあると感じて怖くなる。

 少なくとも1人か1匹かは、この頭脳を持って異世界で生きているという意味でもあり人属の生命の軽さを思わせる。


 人間として転生した…… のはいいけどボクは明らかに魔力寄りのチート人間だ。直接の暴力には弱い。


 強い権力の庇護下に入るか、己が強くならないと長くは生きられないだろう。


 じゃあどうするかな…… と考えながらこの街[リバーサンド]の町の広場に来た。


 ボク達が昨日、異世界に立った場所だ。


 町の騒めきの中、広場にある岩に腰を下ろして見る。

 地面にはもちろん財宝やらは無く、黒ずんだ液体に砂がかけられた痕がある…… 魔物になったクラスメイトの彼が討伐され殺された痕なのかもしれない。

 日本の事故現場にあるアスファルトに流れた血を慣らす為の砂と同じなんだろうな…… オークになった彼は友人じゃないけど顔見知りがここで死んだと考えるとやはり心に来るものがある。


 前向き前向きに……

 「ふう…… 」

 「…… おう、」


 声が掛かった方を見ると不良の1人だったクラスメイトの梅田君が立っていた。

 


────── 彼は確か剣の才能が……  「現地人とやりあう為に必要な力といっちゃん(一番)強い剣士とやりあえる剣の技術をくれ」と言って神様を困らせた1人だった。


 ここで待っていた理由。

 それは情報の精査の為だ。


 人は自分に降り掛かった災難や幸運を確認したくなる。ここで待てばクラスメイトの誰かに会えるんじゃないかと考えた。

 宿屋の食堂で聞き耳を立てたから幾らかはクラスメイトがどうなったか知っているがそれは疎の情報だ。


 オークは即座に討伐され、財宝を持っていた少年は自分のものと大声で叫びながら衛兵が来る寸前に刺されて果てた。

 他のクラスメイトはオークや不審な金銀を所持していた人間の仲間と判断され勾留された。

 力のあるクラスメイトの男女の数人は叫びながら踏み止まろうとしたみたいだけど走錨した船のように地面を抉りながら牢屋へ連れて行かれた。


 もちろん物品は没収。

 この世界はどのように取得物を扱うかは分からないけど…… たぶん手元には戻らないだろう。


 情報はそれだけしか分からなかった。

 この世界を知らなすぎる。

 知恵が無い人間がどうなるか、保護されるのかが知りたかった。



 「やあ、梅田くん」

 「…… あぁ、なんだかヤベェ所に来ちまったな」


 梅田君は…… 目の下に(くま)もなく空腹に悩むでもなく苦笑する。

 「どうやら梅田君も持ち逃げした側…… かな?」

 「…… っ!ああ、そうだよ悪いかよ!?」

 「いや、違う違う。ボクも盗った側の人」


 クラスメイトの金を…… ね。

 宿に泊まったんだろう体調は…… 良いみたいだ。



 「はぁ…… 山田が置引き(窃盗)できる根性があるとはな…… ま、アレだ」

 「置き引きて…… まぁ、アレだね」


 梅田君はどうやら異世界人と戦う力を貰ったからか身のこなしやスピードがあがり昨日は余裕で逃げ延びたようだ。

 「金は? 」

 「ああ、ボクはあまりないよ。そんな体が強くないし素早くないしね多く取れなかった」


 強請られるかと思ったけど梅田君は梅田君でズボンの両ポケットがパンパンになるぐらいの金貨を奪い逃げたようで、ここに再び来たのは同郷の人間がいないか気になったから…… だと言う。


 「でな、剣やら防具やら買って冒険者になろうかって奴らと(つる)んでる。」

 「…… なんか…… 不良っぽくないね梅田君」

 「ばっか。こんなトコでイキっても何もなんねぇよ」


 それからは梅田君の善意の情報開示があった。

 逮捕されたクラスメイトは保釈金が払えず奴隷落ち。奴隷魔法関係なく焼印で奴隷と判断されるらしい。なんて物理。奴隷魔法要らないんじなない?


 男子は力仕事

 女子は娼館に売られて死ぬまで抜けられない。


 「え?自分を買い戻す…… とかは?」

 「いや、連んでる奴の1人が現地人と酒飲んで聞いた話だとあまりに捕まった奴らの存在がおかしいから、隣国のスパイと判断されて買い取り不可能な国の持ち物になる奴隷焼印をされたみたいだぜ」

 判断…… ね?ぬくぬく日本人の未成年だから数人が聴取を受けてる時に異世界から来ただの身寄りが無いだの言ったんだろう。


 他国の平民で身寄りがない。

 こんな美味しい存在は人権啓発がない時代ではカモネギだろうに。


 「魔法は…… 山田は使えるのか?」

 「─────…… いやまだ試してない本が無いからね」

 宿屋のクローク入れに隠しているよ

 「そうか…… まだか俺らの仲間で魔法の能力をもらった奴らがいるけど魔法の知識があるのに難しくて使えないって鬱になってるぜ」

 ボクは彼等と生活するつもりは無いから、ここは秘密にしておこう。

 ちなみに、どうやら捕まらず殺されずで再開出来たクラスメイトは9人だけだったらしい。


 「…… 一緒にくるか?」

 「いや、」

 「だろうな山田は日本でも1人で何とかやってたもんな」

 

 不良と学校で一緒に生活したから分かるけど受け入れは易し脱退は難しいという性質のおかげかすぐに仲間の勧誘をやめてくれた。


 それからしばらく話をして梅田君と別れる。


 最後に最高にラッキーな事があった。

 仲間が9人もいると金が足りない、使えもしない魔法の本は現地人はゴミ・ガラクタに見えるらしく買取もクズパンが買えるぐらいの安価だったらしい。


 この魔法の本、買わないか?


 どうせガラクタになるだろうと考えているのか梅田君は申し訳なさそうにボクに魔法の本を金貨一枚で売ってくれた。



 宿屋に帰り昼食を摂り、部屋のベッドで魔法の本を読む。


 火魔法の本と防壁魔法の本…… 防壁って…… 結界とかじゃないんだね。


 スルスルと脳に染み込むように記憶していく。

 

 日本にいた時では想像がつかないぐらいの記憶力で、まるでPCのテキストをコピーペーストするように紙に書かれた文字を脳へペーストするような。

 暗記が作業のように悩みや停滞なく進む。


 今なら六法全書を一字一句間違わずに暗記できちゃうねこれ。


 よし、覚えた。

 おやすみなさい。


────────────────────


 翌朝

 「こうくるか…… 神様エグいなぁ」

 宿屋のベッドがスプリング無しマットだからねガタガタ揺れるので起きた。


 異変に急いで起き出しロビーへ向かうと人々の大声が嫌でも耳に届く。

 「スタンピードだ!」

 「魔物が襲ってくる」

 「南門から逃げるぞ」


 なるほど、神様はホントにボク達を殺したいらしい。

 町一つが潰れるよりボク達の魂が美味いのかな?

 ボクはそんな事を考えながら民衆と一緒に南門へ逃げながら情報を得る。


 魔物は北側から湧き出し

 南側の街道を行けば王都がある


 今のボク達は草食動物だ。

 数で移動して命を囮に削りながら進む団体。


 スタンピードは町を飲み込み一周。

 南の街道に抜けるのに遅れた人々を殺して南門からも町に雪崩れ込む、走り逃げるボク達を追いかける個体は少ないけど逃げ足が遅い人から狩られていく。


 心臓がバクバクする

 走ってしんどいのに汗が冷たい

 口の中が酸っぱい


 ボクはインドアだったから体力がない。

 捕食されるのも時間の問題!?


 ガチガチと歯を鳴らしながら追いかけてくる(ノミ)のような虫の魔物がチラリ振り返ると見える!

 まほ…… う!魔法!


 「ひっ! 火魔法!」

 バッと後ろ手にしながら恐怖で魔法をイメージする。


 魔力量チート、クラスメイトが得るはずだった火魔法の知識…… そしてネットオタクなボクの知識……


 原爆…… ボクに被害が!えっとえっと!

 「スカッドミサイル!」


 なぜか出てきたロシア製のミサイルの名前とイメージ。


 魔物と魔物が(うごめ)く町かざした手から1メートルの場所に光の輪が出来上がる。

 ゴオオオー!

 そこから熱した炎で形作られたスカッドミサイルが飛び出す。



 炎のミサイルは今にも食いつこうとしていた魔物を燃や巻き込みながら街に飛び込む


  「!!…… ダメだわ、スカッドミサイルでもこっちに被害が!」


 イメージした通りの威力なら鉄筋コンクリート構造の商業ビル建物を消し去る威力がある!


 急いで防壁魔法を!

 「ば…… 万里の長城!」

 ズルリ!と地面から石で出来た煉瓦もどきの壁が出来る!

 イメージを急いだから出来は良くないけど……


 ズゴ───── ンンン!!


 石壁を確認していると響く爆音と地鳴りに(たま)らず(うずくま)

 壁の上から流れ込む熱風とパラパラ落ちてくる小石。

 ギンギンする耳、グラグラまわる目


 これ、動けない…… 紛争地の子供が逃げ場を無くすのがわかる。壁なんかじゃ防ぎきれない!


 やばい!やばい!

 蹲ったままじゃあ魔物が…… !


 逃げようと、ふらふらと立ち上がるけど倒れそうなところを、グンッと引っ張られ抱き留められる。


 「おい!大魔法使いさんよくやった!逃げるぞ!」

 「あ…… あ…… …… 」

 肉体がどうやらパニックになっていたようで、革の鎧とショートソードを腰にした男性の肩に(かつ)がれた所で意識を失ってしまった。



 半日気を失うという事もなく陽の向きから昼ごろだろう数時間で意識は回復したみたいだ。


 倒れ寝る数人の人と一緒に荷車に乗せられていた。


 「、お、起きたかい大魔法使いさん」

 「…… はい、おはようございます。今は?」

 「ああ、何の説明が必要かだな───── ボクを担いでくれた冒険者?さんが寝ている人の見張りをしていたようだ。彼の話によるとどうやらボク達は町を襲ったスタンピードから逃げ切る事が出来たようだ。


 ボクの作った万里の長城がその後に襲ってくる魔物の足を止める事に一役買ったようで、それも周りの人から感謝された…… えへへ。


 万里の長城と言ってもイメージが足りなかったしスピード意識したから1キロぐらいの長さしか地面に作れなかったんだけど…… そんな事が出来る魔法使いなんて王国にいるかどうかとビックリされた。


 うーん。チートだなぁ。


──────── でだ、ここまで来れた。ありがとう」

 「いえ、どういたしまして?」


 いつの間にかボクの話を聞こうと生き残った住人の輪が広がっているんだけど勘弁して下さいよ。


 「おーい!そこの君!」

 ざわざわと、その大きな声の方にみんなの目が向く。


 「君が…… 若いな?ホントに大魔法使いかい?」

 あぁ、どうやら国に支える騎士の人達がスタンピードの対応で来たようで……

 「一緒に王城に来てくれるかい?」


 異世界は…… ぼくをそっとしておいて欲しい。


 ホントに勘弁して下さいよ。



 勘弁されない話がこれからはじまる。

 

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