晴れ、ときどき人
突然ですが、私は現在まっすぐに澄んだ青空をものすごい速度で降下中です。重力に従うスピードはみるみるうちに増していき、正直このまま地面に落ちれば、まず助かることはないでしょう。
都合よく鮮やかな走馬灯が見え始めてきたので、順にことの経緯を説明しますね……
「あ〜〜〜……時計失くした………」
まず、私は自室の机の下に座り込んでいたわけです。
「出てきたらユリス・ナルダンとかになってないかなあ。」
嫌なことがあった時は、いつもここにうずくまって絵空事を思い描いています。私の好きな人も、よくそうしていると噂で聞きました。
「ここには無いよな。隠せる場所なんてものも無いし。」
この場所にいると、視野が狭くなります。比喩じゃなく、物理的に。だからこそ……
「あの光源がもしUFOだったら、面白い。嫌な気持ちも忘れられる。きっと、何が嫌だったのかさえ、忘れてしまうかもしれない。」
想像の世界は、とても広くなります。しかし、物理的に狭いからこそ……
「……このフック、なんでこんなところについてるんだろうな。毎回気になっちゃうよ。」
些細なことが気になってしまうものです。私は、何気なくそれに触れてみました。そういえば、今までこのフックには指を掛けてみたことがありません。とてもとても細々とした人生初に、私はほんの少しだけ心を躍らせていました。
すると………がちゃん。
「ん……?なっ、あ」
不思議なことに、自分の座っている床が音を立てて開き、私は謎の空間へ真っ逆さま。助けて、と言う暇もなく天空に放り投げられて、今に至るわけです。
しかし、まさか家の床下がどこかの大空へと繋がっているなんて、思いもしませんでした。本の重みで床が抜けても良いように、アパートの地階を借りていたのに……。
そろそろ落ちるかも知れません。風鳴りに紛れて、遠い街の音が耳に入り込むようになりました。ああ、もう自室の穴があんなにも遠くに。先ほどまで覗き見えていた机の天板も、いよいよ見えなくなりました。
短い人生に別れを告げましょう、どことも知れぬまちのまんなかで、澄んだ青空を見上げて……大丈夫です、この空はきっと、我が家の空とも繋がっていますから。
ぼふんっ! べき
「あ"痛っ………!!ぉ"う"ぅ………死ぬ……」
いや、違う。生きているぞ。何か背中に感じる……クッション?ではない、なんだろう……肉?それも、とびきり分厚い筋肉が、たくさん……
「おいっ、降ってきたの生きてるぞ!」
「本当か!?怪我はどうだ!」
「一目見ただけでもあちこち折れてるよ。病院まで担いでくから、道開けろ!」
途端に、掛け声と共に身体が揺れる。それでやっと状況がわかった。私は今、大勢のマッチョに受け止められて、病院へと担ぎ込まれようとしている。
空を仰ぐ。2.0の両目が光り、お帰り口となる天高くの黒い穴をぎりぎり捉えている。しかし高いな……200mは下らないだろうか?はしごで登るのは無理があるし、そもそもそんな長いはしごは無いし、私は飛べるわけでもないし……。
ここにあるものと言えば、仕事の出来そうなマッチョがたくさん。
建てるか……?塔。
えっさほいさと筋肉集団に運ばれながら、果てしない絵空事について、私は思いを巡らせるのだった。