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雨、パンケーキは伯爵の気持ちで。

作者: ビビディ

休日に食べたパンケーキが最高に美味しかったので、書きました。

皆さんはパンケーキ、薄い方と分厚い方どちらが好きですか?


こんな憂鬱な雨天の中、ジーン・ケリーのように踊り歌う気持ちになれないのは疲労のせいか。



鈍色の雨雲をビニール傘越しに見上げ、視界を地上に戻す。

この街は都会じみてるが、がやがやとした人通りはかつての下町の顔を覗かせるようだ。


雨に濡れて重い足取りで、防水加工されたスニーカーを履いた足は、水たまりを避けながら目的地へと向かう。


休日。大切な、自分の時間。

電車から降りて、ウィンドウショッピングを楽しみ終えた私は、エスカレーターを上ってすぐにその異世界のような深いグリーンの門を潜り抜けた。


お目当てのカウンター席が、運良く空いている。迷うことなく座って、差し出されたメニューを開いた。


スタンダードなバターとメープルシロップ。

シンプルなパンケーキのお供は、はてさて…如何なものか。


ダージリン、違う。コーヒー?違う…朝に飲んだからダメだ。


ならばやはりここはアールグレイか。雨で冷えるから、ここはホットに。


注文を終えると、現れたのは目に馴染み深いノリタケのカップ。100年間の歴史を持つ白が魅力のカップは、持ってみればほのかに暖かい。


傍らに置かれた砂時計と、ティーポット。


ピンク色の砂は静かに小瓶の中で、時を刻む。


目線を右にずらすと、銅板でパンケーキが焼かれていくのが映った。


カウンター席を選んだのは、正解。大いに正解。


…ああ、焼きたてのパンケーキの色をしてる。


あまり頭の良くない表現だと、内心苦笑したがそうなのだ。


仕方ないではないか、あんなにも…


考えているうちに、自分の目の前にパンケーキが置かれた。



考える前に、手が動いた。


ティーポットへと手が伸び、金の縁どりが気取り過ぎない白のカップの中へアールグレイを注ぐ。

湯気と共に仄かな柑橘混じりの芳香が、私の思考を止めた。

まずはストレートに紅茶の香りと、味と、熱。


猫舌の私でも飲みやすいアールグレイの適温と言える温かさが、憂鬱な気分を解きほぐした。


アイスを選ばなくてよかった。ホットでなくては、この柔らかなベルガモットの香りは楽しめない。


アールグレイの意味は、「グレイ伯爵」。

イギリスの伯爵である彼の名を冠した紅茶の名の由来は、いくつも説があって、どれが正解かはわからない。


けれど、そんなことどうでもいいじゃあないか。


兎にも角にも、この紅茶は今の私にとっての正解なのだから。


イギリスといえば、朝と夕、二回の紅茶の時間

がある。


アフタヌーンティーは、さながら伯爵の気持ち。


浸ったところで、パンケーキを食べるとしよう。


艶やかな焦げ付きもない表面に、そっとメープルシロップを掛けてみる。


……濃い。


焦がしたカラメルのようなシロップに自然と口角が緩むのを感じた。


溶けてこそ魅力的な金塊とも言えるバターを、そっとナイフで切る。二枚重ねだから、どちらも同じように味わいたい。


サクリ、ふわ、ふわ。スク。


ナイフを通し、一口大に切ったパンケーキをフォークに刺して口に運んだ。



じわりとメープルが滲んだ生地が、口の中に幸福感を与えた。


安っぽさなんてない。カラメルソースのようにほろ苦く、それでいて甘さもしっかりしている。


噛み締め、飲み込んで、またアールグレイを。




なんて幸福、いや……口福か。


ほぅ、と…ため息をついた。


疲れからでは無い。静かな口福に、心からの安らぎのため息。


2杯目のアールグレイ、2枚目のパンケーキ。


紅茶にはミルクを。パンケーキには、たっぷりのシロップを。


楽しめば楽しむほど、目の前の丸い形をした幸せは自分の体の中へと消えてしまう。


憂鬱な雨の休日。


歌い踊る味覚は疲労を溶かして心を満たした。




休日は異世界のように、普段の生活からかけ離れて過ごしたい。


平凡な下町の顔を残す街の中、変わらないレトロな喫茶店。


家路へ歩く足は、雨粒よりも軽かった。







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