我は魔王リェナスだ!
とりあえずここまで書いておこうと思いまして。
「どうして私が魔王なの?」
「どうして、と言われましても。魔王様だからとしか言えません」
「じゃあ理由を!私が魔王である証拠の提示を要求します!」
「承知しました。では、皆さん!準備を」
この人はメイドの中のリーダー的存在なのだろう。彼女が呼びかけると他のメイドは仕事仕事と動き始めた。
「できれば分かりやすく、簡単にね」
「はい」
「では、説明…いや証明させて頂きます」
「お、お願いします」
よくわからない道具や何かを記した紙が目の前に置かれている。椅子まで用意してもらって、立ったままでもいいのに。
「フィーが魔王か。できるのかな〜」
ミスィーはもう信じてるし。
「まずは、魔力測定器です。手首につけてください」
「こう、かな?」
「これは人間が使っていた物で、魔王様がもらったと持ち帰った物です。付けた人の魔力量がわかる、らしいのです」
らしいって。使ったことないのかな?手順わかってるから初めてじゃないじゃん!
ピピッピピッ
「測定が終わりました。えっと、魔王様の魔力量は…、嘘!?」
なになに?とんでもない数値が出たとか?
「なんなの?」
「魔力量……100、でございます」
初めてだから高いのか、低いのかわからない!
「魔王様の前回の記録がこちらです」
えーと、魔王…魔力量45000!?え、私低すぎない?
「フィー…低すぎ、ククッww」
「笑わないでよ!そういうミスィーはどうなの?」
「こんな感じ」
ミスィー…魔力量8300!
「なんで!?なんで私だけ低いの?」
「魔族の女性の平均魔力量は約5000です」
今までミスィーと一緒に過ごして、一緒のご飯食べて、一緒に鍛錬してどうしてこんなに差が。
「気に病む必要はございません。個人差はあります。魔王様は……その、……そう!武闘派です!魔法がダメなら身体で、です!」
メイドに気を遣われた!うぅ、可視化されると妙に傷つくなぁ。言われてみれば、私は魔法があまり得意ではない。
「さあ、次です。魔王様」
「おかしいです。魔力量、知識、器用さ、性格その他諸々が記録を下回っています」
「そうです、ね」
あれから身体の隅々まで調べられた。学舎でやる身体力測定やテストのようだった。
「身長、体重、単純なパワーは上回り、スリーサイズは記録より優れている!つまり、魔王様の容姿は成長した、ということなのでは?」
「魔王ってどんな姿だったの?」
「こちらです。魔王様身代わり用等身大人形!細部にまで職人のこだわりが詰まっている一品です」
「へえ〜。思ってたのより小さくてかわいい」
「魔王というより、近所にいる生まれて7年くらいの女の子みたいだ」
普通に7歳って言えばいいのに。でも、こんなに小さな子が魔王だなんて。悩みが多そうだなぁ。
「ああ、魔王様。私たちを置いてどこへ行かれたのですか」
やっぱり、記録的に見て私が魔王だとは言い切れないか。当然だよ。私は魔王じゃなくて、その辺の村にいる平凡な魔族だもん。
「フィー、可愛そうだから魔王のフリだけでもしてあげたら?」
「今更だよ。魔王になったって何もできないし。私、戦うのは嫌いだし」
でも、改めて考えると1つ違和感がある。魔力量。私から出た魔石は確かに大きくなってまた戻ってきた。なのに魔力量が上昇する訳でもなく、逆に低い。
トクン…
あれはなんだったのだろう。
トクン、トクン……ドクン!
「ッ!?」
「どうしたの?フィー」
「また、何か……」
意識が暗闇に沈んでいく。視界が狭くいや広く、遠くから全体を眺めているような。身体から切り離され感覚がなくなる。身体を別の何かに乗っ取られるように…。
『やっと繋がった。苦労したぞ。主人殿』
誰!?
『ふむ。魔石の中の少女、かな?』
あの時の、ぼんやりとした。
『なんとなく気付いていると思うが、我は…』
あ、そうか。そういうことだったんだ。だから私は…,
『魔王だ』
魔王なんだ。
「しっかりしろ!フィー!」
「……」
「どうしたんだ。何が起きているのだ」
「……」
「目を開け、元から開いてた。なあ、起きてくれ」
「……う」
「フィー!無事か?」
「うーむ。やはり他人の身体は慣れんな」
「フィー?フィーじゃない」
「む、身体が重い。ん?目線が高いな。足下は…なんだ?足が見えんぞ。これが巨乳というやつか」
「誰だ。フィーに何をした?」
「おお、柔らかい。なんか変な気分になってきたぞ。なんだこれは。もっと激しくして…」
「フィーに触るな!」
「おっと、いいのか?大切な友人の身体に傷が付くぞ?」
「ぐ。では質問に答えろ。お前は誰なんだ」
「ふん。我は魔王だ!魔王リェナス。色々訳があってな、この身体に住ませてもらっている。ちなみにこの身体の主の意識ははっきりしているぞ。今我が見ている光景、いやそれより広い視野で状況を眺めている」
「フィーは無事なのか?」
「なんなら代わってやろう」
「ミスィー!私よ。フィースよ」
「本当にフィーなのか?」
「そう。ミスィーはなかなかBになれないAの持ち主。どう?」
「ああ、確かにフィーだ。もっとマシなのがあったと思うが今はそんなことどうでもいい。フィー、何があったんだ?」
「えっとね。簡単に言うと私に入ってきた魔石の持ち主が魔王リェナスだったみたい。で、今やっと私と繋がれたんだって」
「うーん、わからない。リェナスと話をさせてくれ」
「え?」
「と言う訳だ。理解してくれたか?ミスィーよ」
「理解した。フィーの説明では理解が難しくてね」
「今、中で『なんでよ!そっちの方が難しいわよ!』って言っているぞ」
「フィーの説明では伝わらないんだ。ごめんよ」
「さて、ここで息抜きに実験をしてみよう」
「なんだ?」
「今から我か主のどちらかが『どっちだ?』と聞く。それでミスィーはどちらかを当てる。簡単だろ?」
「ふん。容易い。幼馴染を侮るなよ」
「ではスタートだ!」
「どっちだ?」
「声を優しく寄せているのがバレバレだ。答えはリェナスだ!」
「なんで?難しかった?私だよ?フィースだよ?」
「な!?そんなはずはない。確かに人を見下した喋り方が残って…」
「もう、演技だよ演技。やっぱりミスィーには難しいか。あ、ちょっ、まだ終わってな………。はっはっは!成功だな」
「今度こそリェナスだな」
「おお、これはわかるのか。まあよい。とりあえず決定事項を伝えよう。我は黄色、主は元々の色の赤だ。ミスィーはこれから目を、瞳の色を見て会話をしろ。以上だ!」
「目?おお、黄色になってる。透き通った琥珀色だ。これの時はリェナスか」
「それでこれが私」
「うん、見慣れた色だ。やはり透き通っていて美しい緋色だ」
「あ、ありが…とう」
『さて、主人殿よ。この先、色々と不便になるだろう。よって、我と主人殿の決まりを作るぞ。あと制限の確認だ』
決まり?制限?
『そうだ。例えば、会話中に無理やり代わらない、とかな』
それ思った!すごく不愉快だった。今度からやらないでね。
『このように気付いたら検証してルールにしようと言う訳だ』
そうだね。あとは…。
『待った。先にこちらを片付ける。我の行動においての制限だ』
制限?リェナス結構自由に動いてるじゃない。
『そうでもなくてな。今のところ我が身体を利用できる時間は、1日で合計2時間と言ったところだ。まだ主人殿の身体に馴染めていないようだな。まあ、これから時間は増えていくだろう』
あれ?そろそろ1時間30分くらいじゃない?
『ああ、まだやる事は沢山あるがな。それと、この身体で魔法を使うのに限界があるらしい。というのも主人殿の身体が魔法に慣れていないからなのだが』
すみません。私の魔力量100でした。
『これからは我が主人殿の身体で魔法慣れをする。よってその間は話しかけないで欲しい』
わかった。
『まずは、これだけ決めておけばよかろう。もう少し借りるぞ』
お構いなく〜。
魔王って優しいんだなぁ。
『一応言っておくが、主人殿の考えている事は全て聞こえているぞ』
ええ〜!もっと早く言ってよ!
『面白くてな。悪かった』
いじわる。
「さて。おい!お前たち、いつまで泣いている。枯れるぞ」
「魔王様!ずっとお待ちしておりました」
「ああ、すまなかった。で、帰ってきて悪いがもう時間がない。この身体の主フィースと友人…失礼、幼馴染ミスィーが住める部屋を用意しろ。手入れは怠っていなかっただろう?お疲れのようだからな。しっかり休んでもらえ。明日になってから改めて話し合いだ。では、よろしく頼む」
「承知しました。皆さん!行きますよ!」
「「「「「はい!」」」」」
「ということで、これからよろしく頼む。ミスィーよ」
「ああ。言っておくがフィーに何かあったらリェナスを憎むからな」
「はっはっは。主は愛されているな。失礼するよ」
それから私たちは贅沢な食事に大きなお風呂、ふかふかなベッドを堪能して眠りについた。
私だよ。わかっていると思うけど『』はフィースの中での会話だよ。最近暑いね。皆も熱中症には気をつけて。それじゃまた。