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平和な魔王は静かに暮らしている……はず。  作者: ぬるま湯
新たな魔王の歩む道
19/19

城に住む友人

寒いですね。

 メルミナさんの部屋からみんなのところへ戻ると狼の魔獣は説教を受けていた。状況が分からずネグレスに説明を求めると、傷だらけの城を見たメルミナさんが自分を乗せて走る狼の仕業だと理解し、早々に躾ける必要があると言ってお説教を始めたとか。主人から発せられる圧に狼は巨体を縮こまらせ反省の意を示している。

 傷をつけたのは狼だとしても暴れる原因になったのは私たちだ。ここは少し庇ってあげるべきだろう。

「あの~。メルミナさん?そのくらいにしてあげてもらえませんか?その子が興奮しちゃったのは私たちが驚かせたのもあると思うんです。」

「あら、そうなの?でもね、それとこれとは別よ。これからはこの子もここで暮らすことになるわ。自然の中で生きていた頃とは全く違う環境になるの。物を壊しちゃいけないとか、花壇を荒らしちゃダメとか、やっちゃいけないルールがあるでしょう?それを教えてあげるのは主人である私の役目よ。心配しないで。躾って言っても叩いたり蹴ったりなんかしないわ。それはただの虐待だもの。」

 メルミナさんはずっと先のことを考えて教育を施していると言いたいのだろう。子育ての経験があるメルミナさんだからこそできる考え方かもしれない。彼女から学ぶことは多そうだ。

「いいですか?これからは何かやりたいと思ったらまずは相談すること。城の物は壊しちゃダメ。んー、今はこれくらいかしらね。ああ、そんなに落ち込まないで。これからは私たちずっと一緒なんだから。二人で色々考えていきましょう?ね?」

「くぅ~ん」

 もはや狼からは最初に感じた迫力はなく、ペットという方が正しく見える。

「さあ、お説教は終わり!とりあえず今からお風呂に入りましょうか。みんなドロドロに汚れてるし、この子もキレイにしてあげないと。あ、もちろん男子禁制なのでネグレスとライオットはここで解散!また今度ゆっくりとお話しましょうね。」

 そう言うなりメルミナさんは私に転移魔法で送るように促してきた。二人は何か言いたいことがあったようだが気にせず訓練所行きの魔法陣を展開し転移ばした。二人を見送るとメルミナさんは先頭に立ちお風呂へ向かって歩き始めた。慌ててついていくメイドたち。私とミスィーも後を追い、狼もそれに続いた。



 リェナス城のお風呂場にて、城にいる女性全員が一緒に入るというリェナスがいたらビックイベントだと吠えること間違いなしのイベントが発生していた。きゃっきゃうふふと仲良く洗いっこ、とはならなかったが…。

 狼の巨体は城の広間までは入れたのだが、その後の扉はさすがに通れなかったため転移魔法で直接浴室まで送ることになった。その転移後が問題で、着いて早々初めて見るお風呂に興奮し汚れを落とす前に飛び込んでしまったのだ。そこで再びメルミナさんのお説教タイム。メイドたちは汚れたお湯を綺麗にする係と狼の身体を洗う係に分かれて、それぞれの作業に取り掛かった。狼の洗浄は特に大変らしく、何度洗っても出てくる汚れに悲鳴を上げていた。当の狼は洗われている間は大人しくしており、お湯や泡に驚くことなく気持ち良さそうにしていた。

 メイドたちの仕事を邪魔しないように私とミスィー、メルミナさんは離れたところで自分の身体を洗っていた。脱衣所でも思ったのだが、メルミナさんの身体は部屋でずっと過ごしていた割には引き締まっていることに驚いた。そして、首から腰にかけての滑らかなS字曲線が美しい。メイドたちも負けてはいないが、メルミナさんからは彼女たちには無い母親特有の柔らかな雰囲気を感じる。きっとあの胸のふくらみはこの世のどんなものよりも柔らかいのだろう。

『妹ちゃんはお母さんにそっくりね』

 は!?まさか、リェナスと共存していたから思考まで似てしまった!?あんなエロ魔王にはならないようにしようと思っていたのに!

「やっぱり、リェナスとそっくりね。あの子と最初に会った時もそんな目をしてたわ。」

 本人にもバレてる!?すぐに謝らないと!

「ご、ごめんなさい!つい見ちゃって…。」

「いいのよ。女同士なんだから。ふふ、触ってみる?」

「いいんですか!?」

 メルミナさんのぎゅっと胸を寄せる仕草に考えるよりも先に反応してしまった!で、でも女同士だし…許してくれるなら一回くらい…。

「あはは。即答って、あなた本当にリェナスの娘なのね。最後に見た時はあんなに小っちゃかったのに…。」

 最後?メルミナさんは私を知っている?

「あなたを抱っこしたこともあるし、遊んだこともあるのよ?まあ、赤ちゃんの時だから覚えてないでしょうけど。」

『赤ちゃんってことは、きっとお姉ちゃんのことね。私も覚えてないけど』

 そうだ。メルミナさんは私が生まれる前からリェナスと交流があって、私の小さい頃だって知っていて当然だ。リェナスの過去を、…私の知らない母のことを。

「あの、リェナスの…。昔の母のこと教えてくれませんか?どんなヒトだったのか、周りからはどう見えていたのか、少し気になって。」

「もちろんいいわよ。でも、このままだと体が冷えちゃうわ。ちょうどお風呂が綺麗になったみたいだから、お話は温まりながらにしましょう。私はまだかかるから先に行っててちょうだい。」

 メルミナさんはその後もゆっくりとしたペースで身体を洗っていた。私とミスィーはそこまで時間をかけずに洗い終わったため、先にお湯に浸かっていることにした。


 メルミナさんを待つこと数十分。しっかりと身体が温まったので半身浴に切り替えてミスィーと談笑をしていた。そこへようやく身体を洗い終わったメルミナさんがやって来た。

「おまたせ~。どう?よくあったまったかしら。」

 私とミスィーは二人で頷いて答える。確認したメルミナさんは手すりを伝いながらゆっくりと湯に腰を下ろしていく。

「ごめんなさいね。自分で洗うとどうしても長くなっちゃうの。」

 困った顔をしているメルミナさん。恐らくメルミナさんの体内時計がかなり遅いのだろう。時計に限らずメルミナさんの行動全体が遅いと言ってもいい。

「この身体とも長い付き合いだけれど、慣れないものね。」

 ため息混じりにそういうメルミナさん。その言葉にハッと気づく。心当たりがあった。彼女のため息はきっと昔のことを想起するにあたって色々と嫌なことを思い出させてしまったからだ。私がリェナスのことを聞きたいと言ったから…。

「そんな顔しないで。この感覚を改めて感じることは私にとってとても大事なことなの。あなたは何も悪くないわ。」

 気を使わせるほど顔に出ていたのだろうか、と顔をぺたぺたと触って確認し矯正する。何か言おうと必死に言葉を探したが何も思いつかなかった。沈黙が苦しい。そこへ遠慮なしに入って来たのはミスィーだった。

「メルミナさんのお風呂って普通だと思うよ。ママだって私たちよりすっごく長いし。人それぞれだよ。」

「ありがとうミスィーちゃん。でもね、私のこれは魔道具によるものなの。」

 魔道具。メルミナさんに使われたのは洗脳の魔道具。私が付けられたものの大元になったもので、危険度も今より高いものだったという。

「意識はあるけど何もできない。五感は感じるけどそれだけ。私に使われたものは当時の中でも最高に近いレベルだったのが不幸中の幸いかしら。他のはそもそも自我を崩壊させてただの人形にしてしまう、凶悪な魔道具だって言っていたわ。」

 洗脳の魔道具の改良は人間に対してのデメリットを無くす方向で成され、使われる魔獣や魔族に対する影響は特に考慮されない。自我の崩壊は魔道具の動作不良時に使用者が危険に晒されると判断されたため改善されたのだろう。

「リェナスに無理やり外してもらってから、徐々に私の身体は元に戻ってきた。でも、ある時その回復は速度をガクッと落としてしまったの。ゆっくりとだけど動かし続ければ思考と動作は連動するようになっていった。でも、今もまだ完全に元に戻ってはいないの。突然力が抜けてしまったり、気を抜いて転んでしまったり、全身に拘束具をつけて動いてるみたいに重くなることもあるわ。ふと、今は誰が動かしているのかしらって考えることもある。だから、『私はまだこの身体に慣れていない』、『全てが気を付けないと危険』って何度も確認しないと、最悪アタマとカラダが乖離を起こして動けなくなってしまうの。」

 洗脳の魔道具による影響がそこまで大きなものだなんて、私が左腕だけで済んだのがもはや奇跡かもしれない。

 メルミナさんの話を聞き慌ててミスィーがこっちに振り返る。私は大丈夫だと笑って返す。

「その反応。もしかしてフィースちゃんも洗脳の魔道具を?」

「はい。すぐに外せたからか、そこまで影響は出ていません。話を聞いて、自分の状況が奇跡に近いんだって思ったくらいです。」

「そう。良かったわ。…あ、ごめんなさい!私ったらリェナスじゃなくて自分のことばかり…。」

 思い出した!と慌ててしゃべろうとするメルミナさん。一旦彼女を落ち着かせようと声を掛けようとしたが、突然大きな影に三人とも覆われた。振り返るとそこには見違えるほどに綺麗になった狼が立っていた。土やコケなどで全体的に茶色かった体毛は、汚れを取り除くとキラキラと輝く銀色の毛並みだったのだ。

「あらあら。ルナちゃんキレイになったわね!みんなもお疲れ様。」

「ルナちゃん!?」

 恐らく狼の名前だろうが命名する所を見ていなかったため全員が困惑している。

「あら?言ってなかったかしら?この子はルナって名前にしたの。女の子ができたら私の名前からとってそう名付けようって決めていたのよ。気に入ってくれて良かったわ。」

「わふっ!」

 元気に返事をする狼、改めルナ。きっと契約者同士の間で静かに決まったのだろう。

「あれ?でも女の子って…。」

「確認しましたところ、メスでした。」

 ルナを洗っていたメイドの一人がそう答える。もしかしてメルミナさんはあの時、知ってて男子禁制と言ったのだろうか。

「じゃないと忠告もなしに洗わせたりしないわ。」

 疑問が顔に出ていたのかタイミングよくメルミナさんは答えてくれた。

「さあ。そこにいると冷えちゃうわ。みんなこっちにいらっしゃい。」

 メルミナさんが手招きするとルナは先程より慎重に、だがザブンッ!と湯船に飛び込む。さすがにメルミナさんもこれ以上はやりようがないと理解しているのか、あははと笑っている。ルナに続いてメイドたちが順番に入ってくるが、早々に私たちの邪魔にならないようにと離れていこうとしていた。それをメルミナさんは待ってと引き留める。

「みんなも一緒にお話ししましょう。ちょうどリェナスの昔話をするところだったの。ほら、彼女について私が知らないこともたくさんあるでしょう?みんなのリェナスとの思い出話も聞かせてほしいの。あ、お仕事じゃないからお堅いのはなしよ。魔王様もいいわよね?」

「もちろんです!」

 咄嗟の反応に頬を膨らませるメルミナさん。

「えっと、いいですよ?」

 不満なのかメルミナさんの表情が変わらない。どうするのが正解なんだ?

「お、…おっけー!……みたいな?」

 手でOKのサインを作りなるべく砕けて言ってみた。これにはメルミナさんも満足し、同じように満面の笑みでハンドサインを返してくれた。正直年上のヒトと敬語なしでしゃべるのは違和感があってどうにもやりにくいが、戻すとメルミナさんが不機嫌になりかねないのでミスィーに頼ることにした。

 こうしてお風呂で温まりながら、リェナスについて皆で話に花を咲かせていったのだった。


皆さんどうも。私です。話のストックが消えました。凡人またはそれ以下の私には次の内容を思いつくのにまたかなりの期間が空くと思います。ここまで読んでいただけて感謝しかないですね。こんな私の作品ですが、これかも読んで頂けると幸いです。更新は必ずします!いつかはわからないけど。それでは、また次回!

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