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平和な魔王は静かに暮らしている……はず。  作者: ぬるま湯
新たな魔王の歩む道
17/19

これから

すんごい空いちゃってすみません。

 エルバスでの事件から数か月が過ぎた。破壊された街は活気を取り戻しつつある。首謀者のガルムと魔族排斥に加担していた者は捕らえられ、エルバスの地下牢に拘置された。

 今日はエルバスの新王の誕生とガルムたちが裁かれる日。私は新王に招かれ、イベント全体を見渡せる特等席に案内された。目の前で流れていく光景をぼーっと眺める。今回、私はリェナス領を治める魔王として、新王の選出にもガルムらへの裁きにも何も口出しはしていない。リェナスはエルバスを取り込まず、魔族と友好な国にしようとした。ならばどんな問題が起きたにせよ私が口を出せば、エルバスは完全にリェナス領の一部となり今まで積み上げてきたものが無駄になってしまう。魔族が支配する人間との共存ではなく、互いに対等の関係における共存を望んだリェナスの、『母の夢』を否定したくはない。

 視界に入る情報を受け取らず、ぐるぐると考え事をしていると突然後ろから頭を小突かれた。慌てて振り返るとそこにはこの場に招待されていないはずの魔王レントモルドが立っていた。

「やあやあ新魔王様。お疲れかい?油断はだめだぞぉ?これも罠かもしれないからね。それと、彼らの催し物はちゃんと見ないとだめだよ?」

「よく言うよ。見張りのヒト殺してないよね?」

 彼はニコリと笑って返す。と同時に小さな紙きれを私に握らせた。

「終わったら見るといい。じゃ、僕はこれで失礼するよ。」

 そう言うとレントモルドは壁の中に消えていった。

 視線を新王の方に戻すとちょうどガルムたちが壇上に移動している時だった。新王が下す罰。内容によっては被害にあった魔族が黙っていないだろう。静かな会場に拡声器の不快音と共に新王の声が響き始める。

「先ほども名乗ったが皆に覚えてもらうためにもう一度名乗らせてもらう。私はサルクォード・アズバンド。代々続く王家の血を引く者だが、皆も知る通り私の引く血は正当なものではない。そんな私について来てもらえるかは今から行う罪人たちに対する処罰によって決まるだろう。」

 何代も前の王の血を引いているが彼の家系は正当な王家の血筋ではない。生後は国境に位置する魔族との共生区域で育ったという。貴族でも何でもない男がある日突然担ぎ上げられ今日から君がこの国の王だと言われる。王城の中では誰も信用できないだろう。彼を操って実質的な権力者になろうとする貴族が絶えないのだから。ガルムたちへの処罰も既に息がかかっているかもしれない。

 多くの者が静かに判決を待っている。ガルムらの罪状が読み上げられ、いよいよその時が来た。

「罪人ガルムらはこれらの罪を償うべく、首謀者であるガルムは処刑。そして加担者である他の者は人間と魔族の共生区域の復興および発展、整備に関する労働を科す。」

 これを聞いた聴衆からは不満の声が聞こえ始めた。それは一人また一人と連鎖していく。この光景には少し違和感があった。全体を眺めているからこそわかること。不満を唱えているのは共生区域に住む魔族だけなのだ。

「静粛に!これ以上は警備兵によって退場させますよ!」

 司会進行を務めている者から注意が入ると、しばらくの後に会場は再び静寂を取り戻した。聴衆から浴びせられる声に慌てていたサルクォードも落ち着きを取り戻し話を再開する。

「みなの不満はわかる。だがこの中には声に出していないだけで反対とは別の意見を持つ者がいることを考えて欲しい。そもそもの話だが、我が国には魔族に関する法が完全には整備されていない。今回の件もその法の穴を突いて実行されている点がいくつかある。私が今下せる判決は先程述べた通りだ。だが現在においてという話であり、これから法を見直し改善した後の判決では少なくとも今よりは多くの納得が得られるだろう。」

 サルクォードの言う通りエルバスの法は魔族に関する項目が薄い。リェナスが介入できていたころは実験段階でもあり現在必要なことが欠けてしまっている。直近で改正されたのはガルムの時で、都合のいいように手を加えられていた。これでは裁こうにも裁けない。

「罪人に判決を出さずに拘置しておくには時間が経ちすぎてしまった。だが十分な工程を経るにはまだ時間がかかってしまう。だからお願いだ。今回の判決と執行は仮とし、改めて正式な判決を下すことを認めて欲しい。」

 そう言ってサルクォードは深々と頭を下げた。王が民に頭を下げる。こんなことをされては誰も文句を言えないだろう。私以外には、ね。

 お姉ちゃん、リェナスの真似お願い。私が指示するからある程度好きにやっちゃって。

『おっけー。お姉ちゃんに任せなさい!』

 身体の主導権を渡すと勢いよく立ち上がり大きく息を吸った。

「それは、我に対しても言っているのか?サルクォードよ。」

 突然の魔王の発言に全員の視線が私に集まる。サルクォードは怯むことなく私に返してきた。

「その通りだ。エルバスをあなたたち魔族も安心して暮らせる国にするにはとにかく時間が必要だ。」

「よかろう。当然その法改正には我も加わる。が、今の権力者共は参加させるな。」

 ちょ、ちょっと!そこまで私たちが手を出したら今までの関係が…。

『何を言ってるの妹ちゃん!さっきからママの夢だとか色々考えてたみたいだけど、同じ道を進まなくていいって言われたはずよ?それに今手を出さなかったらもっと面倒なことになるわ』

 お姉ちゃんに言われて思い出すリェナスとの別れの際にかけられた言葉。そうだ。全てにおいてリェナスにこだわる必要はない。大切なものを守るためには私たちが最適解だと判断した道を進まなければならない。ありがとうお姉ちゃん。

『うん。改めてよく考えてね。』

 魔王の発言にサルクォードは考える様子を見せる。その間に貴族用に設けられた場所から意見するものがいた。

「申し訳ないがそれは難しいかと。先代魔王リェナス様は私たちの意見も聞かないことには完成しないとおっしゃられていました。私たちが欠けてしまっては…。」

「黙れ。誰が発言を許可した?先代がしていたから我もそうしろと?ならガルムはなぜ代々の教えを守らなかったのだ?まさか、お前もガルムの協力者なのか?ならお前がいるべき場所はそこではないだろう。」

 パチンッと指を鳴らして転移魔法で発言した貴族をガルムの横に立たせる。多くの者は初めて見る転移魔法に驚き身体を緊張させた。

「こちらも調べていたが漏れがあったようだな。見つかってよかった。さて、サルクォードよ異論はあるか?」

 サルクォードは静かに首を横に振る。お姉ちゃんの演出のおかげでこちらが有意であることを再認識してもらえたようだ。短時間だが少し考えたなかで明確にやらなければならないことがある。これもお姉ちゃんに進めてもらいたい。

「ああ、それともうひとつ。共生区域だがエルバス全体にしてしまうのはどうだ?」

 一瞬で会場がざわついた。それもそうだ。サルクォードの先ほどの発言。判決に反対とは別の意見を持つ者がいる。声を上げていたのは判決よりもっと重い罰を求める者だった。つまり魔族排斥に関わってはいないが心のどこかで共生を否定している人間は多く存在する。

「法の改正にあたって区域内と外で条件立てするのは面倒だからな。」

「待ってくれ!そうなっては民が…。」

「不満をもって暴動でも起こすって?」

 そう言って会場全体をゆっくり見回す。表情は強張っているがこちらを睨む者が何人もいる。

「ふむ。ざっくりとした過去の話をしようか?リェナスにちょっかいかけて負けたのはエルバスだ。そのリェナスによって存続を認められたのは事実。だがそれはリェナスの理想の実現のために残されたに過ぎない。何が言いたいかわかるかな?」

 ちょっと待ってお姉ちゃん。いくらなんでもやりすぎじゃない?言葉は選ぼうね。それ以上は…。

「つまり、エルバスはリェナスに負けた時点でリェナスのおままごとセットになったんだよ。」

 すごいこと言っちゃった。印象最悪だよもう。冷静によく見て、ほら。あっちもこっちも怒った顔してる。こんな態度みせて魔族と共生してくださいなんて言えないでしょ!?

『だって頼む気ないもん。』

 そういってお姉ちゃんの暴走は止まらなかった。気が済むまでエルバスを罵倒し何度もサルクォードを巻き込みながら無茶な提案を呑ませていった。



 エルバスでの大騒ぎはなんとか終わりを迎えた。裏でげっそりした様子のサルクォードに私から謝ろうと駆け寄るといきなり手を握られた。そしてこう言ってきた。

「フィース殿!先ほどの堂々とした振る舞い見事だった!」

 私が頭に疑問符を浮かべているとサルクォードはさらに続ける。

「特にあの貴族は会議中に何度も魔族を蔑んだ言動が見受けられた人物で、事件の関係者では?と問いただそうにも後ろ盾が厚く、王になったばかりの私ではどうにもできなかったのです。これでは私は王とは呼べませんね。」

 はははと自信なさそうに笑うサルクォード。これ以上マシンガントークをされても困るのでとりあえず目的である謝罪をすることにした。

「サルクォード。さっきはごめんなさい。あなたの不安を構わずあんなことをしてしまいました。」

 サルクォードはきょとんとしている。なぜ謝られたのかわかっていないような顔だ。

「あの、わかっていますか?先ほどの提案を全て進めた場合、エルバスはもうエルバスではなくなるのですよ?」

「は、はい。おっしゃる通りで。」

「最悪の場合はエルバスは国ではなくなるのですよ?」

『妹ちゃん妹ちゃん。彼、まるで知らない人と話してるみたいじゃない?』

 確かに、今までの対応と明らかに違うというか戸惑っているというか。

 ふとこれまでのサルクォードとの会話を思い返してみる。するとあることに気付いた。私は彼と会ってからさっきまでまともな会話をしていなかった。考え事に集中してしまっていたこともありほぼ無口であの席に座ったんだった。おまけに先程のリェナス口調である。

「ご、ごめんなさい!さっきのはその、…そう!公の場だったからです!ああいった場では警戒もしなければならないし、威厳?も出さないとなめられてしまうでしょ?だから…。」

「あ、ああ。なるほど。驚いたな。全くの別人のようでした。私もなんとなくやっていたのですがフィース殿のようにはいきませんでした。さすがです!」

 私の中に二人いることは言えないし面倒だから誤魔化した。

「今日は本当にごめんなさい。疲れているでしょうしこの辺にして、後日また話し合いましょう。」

「ええ。その時までには私ももっと学んでおきます。」

 軽く握手をしその場を離れた。

 そういえばとレントモルドからもらった紙切れの存在を思い出しポケットから取り出す。開いてみると中にはこう書いてあった。

『新魔王様誕生おめでとう!お祝いの品をお城に届けておいたから帰ったら開けてみて。これからも仲良くしてね。リェナスの親友レントモルドより』

 レントモルドのことだ。きっとびっくり箱かなんかだろう。そう思いつつ我が城へと転移するのだった。


どうも皆さん。年が明けました。おめでとうございます。もう1月が終わりそうです。とっくにお餅ラッシュも終わってしまいました。きなこ餅が大好きな私です。もう何ヶ月空いたとか数えないでいただけると嬉しいなぁ、なんて。すみません。結構前から二つの作品を書いているのですが、凡人またはそれ以下の私には並行して考えるなんてできるはずもなく。浮かんだ話をどっちで展開しようかよく悩んでいる次第です。今回の話は浮かんだテーマに足突っ込んですらいないので調子が良ければ割とすぐ投稿できると思います。(当社比)ふと思ったのですが、私の作品読んでくださる方々って生存確認したい!って思ったりするのでしょうか?あ、久々の投稿で長くなってしまいましたね。それではこの辺で。また次回!

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