親として
遅くなりました。
夢を見た。女の子とお話する夢。
「お姉ちゃんのなまえは?」
「私はフィースよ。あなたは?」
「わたしはね……」
女の子は不意に立ち上がり歩き出した。いつもと違う、知らない展開。女の子は数歩進んだところでこちらを振り返り、笑顔でこう答えた。
「リェナスっていうの。いい名前でしょ?」
リェナス。私の母と同じ名前。
「そうね。素敵な名前だと思うわ」
私の言葉に嬉しそうに笑いながら再度歩き始める。私は付いていこうと立ち上がろうとしたが身体に力が入らない。待ってと声をかけるがリェナスはそのまま歩き続ける。遠ざかる背中。不思議なことに声だけはしっかりと聞こえる。
「そろそろ行かなきゃ。ばいばい!お姉ちゃん。楽しかった」
遠ざかるリェナスの背中を見つめていると、瞬きをした瞬間に少女の姿から見知った姿に変化した。依然としてリェナスは進み続けている。
「我は己が正しいと信じる道を進み続けた。誰にも曲げられることも阻まれることもなく進み続けた。だが、それは我でなければとても難しいことなのだろう。フィスよ。我が信じた道を共に進む必要はない。己の信じる道を行け。誰かの理想の姿になろうとしなくて良い。やりたいようにやれば、なんとかなる!」
いつもの魔王口調だが少し違和感があった。なぜかはわからないが、そう感じた。その後、リェナスは黙って進み続け、やがて光に包まれて消えていった。その光の眩しさに耐えられず目を瞑る。
目を開けると、見知った天井が見えた。リェナスの城、私の城の天井。身体を起こそうとお腹に力を入れる。ふかふかのベッドでもたつきながら上半身を起こし、周りを見渡す。視界の左端に椅子に座りながらすぅすぅと寝息を立てる親友のミスィーの姿を捉えた。そして、ミスィーが伸ばしている腕の先を見て初めて自分の左手を握られていたことに気付いた。寝起きで気付かなかっただけだと考えつつミスィーに話しかける。
「ミスィー、ねぇミスィー。ねぇ起きて」
何度か呼びかけるとミスィーは身体を起こし、眠そうな目をこすりながら状況を確認していく。そして、意識が覚醒すると目に涙を浮かべて私に抱きついてくる。
「フィー!よかった!本当によかった」
突然のことに驚きながらもミスィーを落ち着かせる。
「はは、よかった。ごめんね急に。でも心配だったんだ。もしかして覚えてないのか?」
そう聞かれるが何を言っているのかが理解できない。何かを忘れている?
「数日前、城に大量の魔族と人間が送られてきた後、しばらくして墓守ちゃんが気を失ってぐったりとしたフィーを連れて帰って来たんだ。現地に墓守ちゃんがいたことも謎だけど、倒れていたって聞いて皆も大慌て。できる限りのことはやったけどその日は目を覚ますことはなく、そのまま二日が経ったのかな?で、今ようやく目を覚ましたんだ」
「そんなに!?待って、順番に思い出していくから」
その後、国境に行ってからの記憶を少しずつ話しながら思い出していった。そして、ガルムによって洗脳されかけたところで気を失ったところまで思い出した。
「そっか。そんなことがあったのか。フィー、ちょっと待ってて。墓守ちゃん呼んでくる」
ミスィーは、私を運んでくれた墓守ちゃんを探しに部屋を出ていった。部屋に残された私はベッドから降り軽く身体を動かすことにした。長時間眠っていたおかげか魔力の消費による疲労感は消えている。まっすぐ歩けるし、ジャンプもできる。問題は先程感じた左腕の違和感。全く動かない訳ではないが、自分の意思に反するように抵抗される。触覚も鈍くなっている。これでは以前のように戦うことはできないだろう。元に戻ると良いのだが。
『おはよう妹ちゃん。大変なことになってるわねぇ。それともこれくらいで済んでよかったって思うべきかしら?』
おはようお姉ちゃん。遅い起床だね。
『ええ。私は妹ちゃんが起きてしばらくしないと起きれないみたい。器にいた時はこんなことなかったのだけれど』
そっちは何か変わったことはない?
『こっちでは特に問題はないわ。確認のために代わってくれる?』
お姉ちゃんが表に出ると私と同じように動き回る。そして指を鳴らして水の入ったコップを手元に出現させる。
「魔法は問題なく使えるみたいね。右手がなんともなくて良かったわ」
と言いながらお姉ちゃんはコップの中の水を飲み干す。再び指を鳴らして空いたコップをもとの位置に戻す。そして、主導権が私に戻される。直後、部屋の扉が開かれミスィーと墓守ちゃんが入ってきた。
「あ、墓守ちゃん!助けてくれたみたいで、ありがとう!」
「フィー!起きたばかりなんだからあまり動かない方がいい。体に障るぞ」
「ごめん。でも、ちょっとは動かないと落ち着かなくて」
ミスィーに注意されベッドに戻る。元気そうな私を見て墓守ちゃんは安心した表情を浮かべていた。二人がベッドの横の椅子に座ると、墓守ちゃんによる説明が始まった。
「はかもりがぼちにいたら、りぇなすさまがきたの。しりょうになったりぇなすさま。それと、あるばさま。りぇなすさまにたのまれて、はかもりのちからかした。りぇなすさまのちからでとんで、ふぃーすさまをたすけた」
「待って?リェナスが関わってるの?」
私が聞くと墓守ちゃんはコクコクと頷く。驚いたぁ。あの魔王ただじゃ終わらないのね。
「ちょっと待て。フィー、リェナスはそこにいないのか?」
ミスィーに聞かれて、あの日起きたことを説明していなかったことに気がついた。
「ごめん。説明してなかった。簡単に言うとあの日、国境に向かう前にリェナスは消えたの。詳しいことは後で説明するわ」
「そっかぁ。次に会ったらいっぱい文句言ってやろうと思ってたのに」
残念そうにするミスィーを無視して墓守ちゃんは話を続ける。
「ふぃーすさまをたすけたあと、しろにつれてかえってりぇなすさまはいなくなった。きっともうあうことはないとおもう。…そうだ。あるばさまからおてがみ?あずかってる」
墓守ちゃんはそう言うと懐から何枚か紙を取り出した。墓守ちゃんから紙を受け取るとその内容を読み上げる。
『やあ。アルバだよ。なんだか大変なことになってたみたいだね。君たちを助けることができて良かったよ。助けたのは僕じゃないんだけど。まあ、それは置いといて。なぜ消えたはずの僕たちが死霊となって君たちを助けることができたのかって話だろう?最後に僕たちが使った魔法を覚えているかい?あれはね、僕の研究の成果の1つ。魔力の器に意識を送り、返す魔法。無事に発動したみたいで良かったよ。話が逸れたね。本題はこっちだ。資料庫を漁ればわかると思うけど僕の研究はもう1つあって、それが死後確実に死霊として存在する魔法。使ってみてわかったんだけど、これは一時的なもので、そう長くは存在できないみたいだ。僕もこれを書き終わる頃には消えているだろう。死霊についても研究していたから、今回それが役に立ったみたいだよ。うーん。時間がないし文字だとうまく説明できないから、あとは資料を読んでくれ。とにかく、僕の研究のおかげで君たちは助かったってことだけわかればいいさ。では、今後に期待するよ。僕の愛しの娘たち。』
「娘?フィーが?そのアルバって人の?それに娘たちって?」
「あ、これも言ってなかった。私、リェナスとアルバの娘らしいです。あと、私の中にお姉ちゃんがいます」
「ええええ!?なんで今まで言わなかったんだアイツは~!」
ミスィーが発狂してる。ため込んでいたものが爆発したのだろう。
『ふふふ。もう助けることはできないって言ってたのに。ママとパパはすごいわ』
そうね。これじゃリェナスを超えるなんて言えないわ。もっと強くならないと。
「ふぃーすさま。しりょうこいく?」
「行こうか」
我を忘れて叫んでいるミスィーを放置して、墓守ちゃんと共に城の資料庫へ向かった。
資料庫にてアルバの研究資料を読んだ。
『死霊の呪いはネクロマンサーの魔力を利用することによって、生前に使用していた魔法と同じ効果を発揮することができる。人間が作る魔道具によって魔法発動を阻害されたという情報があったが、同じ効果の呪いに対して使用した結果は無意味であることがわかった。つまり、現状死霊の呪いに対して人間が魔道具を使って対策を立てることはできないということになる』
この文章が今回の救出の鍵となったのだろう。まだまだ資料は大量にあるが今はこれだけ知ることができれば良い。
「それにしても墓守ちゃん。よくリェナスの呪いに魔力が尽きなかったね。常人の魔力量だとすぐに枯渇すると思うんだけど」
「わからない…。はかもりのまりょく、うつわにあながあいてるって、、あるばさまがいってた。はかもりたちのせかいと、しりょうたちのせかいをつなぐあなかもっていってた」
魔力の器に穴か。持ってる魔力を分け与えるではなく、必要な量を流し込んでいるということなのだろうか。…わからん。
「よし。確認することも終わったし戻ろう。墓守ちゃんはずっとこっちにいるみたいだけど、墓地の方は大丈夫なの?」
「だいじょうぶ…、じゃない。そろそろかえらないと、みんなしんぱいする。ごはんたべたら、かえる」
「そっか。じゃあ、一緒に食べよ。その後に送るよ」
墓守ちゃんはコクッと頷くと食道に向けて歩き出す。私は慌てて手にしていた資料を元の棚に戻し墓守ちゃんを追いかける。墓守ちゃんの横に並んだ時、少しだけ落ち着く匂いを感じた。何の匂いかは覚えていないが、どこか懐かしい匂い。そんなことから墓守ちゃんと一緒にいると、また父と母に会えるような気がした。
どうも。私です。年始が忙しくて気が付いたらここですよ。すぐに上げるって言ったのに…。とりあえず今回で一区切りとなります。まだ続いていきますが、次の投稿がいつになるかは自分も分かりません。なので、思い出したころに確認してみてください。おすすめは3回目に思い出した時ですかね、ははは。それではまた次回!




