もう1人の私
お待たせしました。
少しの休憩が終わりアルバが話を再開した。
「ここからは魔石に取り込まれてからの話だね。僕が目を覚ました時、周囲にはなにも無くただただ白い空間が広がっているだけだった。最初は死後の世界だと思ったけど、生前と同じ感覚で魔法を使えることから魔石の中の世界だと僕は考えた。もっともらしい理由を挙げるなら、魔石としては異物となる僕の身体がすごく曖昧だけど検知できたからかな。そして、僕の魔法によってリーナの身体も残っていることがわかり、この空間のどこかにリーナがいると考えた僕は必死に探した。自害していたことは忘れてたね、ははは。やっとの思いでリーナを見つけ出したのはよかったんだけど、よく見たらリーナがフィースを抱いていてびっくりしたよ。さて、ここで問題。この空間にいる僕たちはどういった存在でしょうか?」
突然質問された!?しかも面倒な内容だし。
「え~っと、死霊みたいな感じの…やつ?」
「なかなか良い回答だね。さすがは僕たちの娘だ。わかりやすく言うと『魂』かな。今の話だと身体から切り離された状態ってことは伝わってたみたいだね。では、続けて第2問!『魂』はどこに宿る?」
連続!?また感覚的にしかわからないやつだし。
「よく本で書かれてるのは、私たちが命と捉えている心臓とか?」
「一般的だね。でも間違いではないよ。まあ、証明されたわけではないけど僕の考え方で行くと、『魂』は魔力の器に宿るってことになる。お、なんとなく察したような顔をしているね。まず、生まれてすぐに魂が宿ったとして、その後徐々に人格が形成されるとしよう。僕たちが合体魔法を作るのに時間がかかったと言ったね。そして魔力の器を取り出す魔法を使用した結果、この空間でフィースを見つけた。では、カトラの所にあるフィースの身体に魂はあるのだろうか」
恐らく、合体魔法を使用した直後の身体には無いだろう。魂がどこから来てどうやって宿るのかはわからない。ただ、アルバの考えが正しいとすれば…。
「理解が早いね。そう、君は僕たちの知るフィースとは違う魂ということになる。あぁ、安心して。だからと言って君を否定するわけでも他人と扱うこともしないから。この娘もフィースで、君もフィースだ。改めて祝おうか。生まれてきてくれて、生きていてくれてありがとう」
アルバは涙を流しながら私に笑いかける。いつか会ってみたいと思っていた本当の父親からの言葉を聞き、今までに感じたことのない感情を覚えた。そして、気が付いた時にはアルバの、『父』の胸に飛び込んでいた。
「おおっとっと。ははは、大きくなったね。こうして上から見ると、リーナにそっくりだ」
そう言いながら父は私の頭を優しくなでる。カトラさんとは違う安心感がある。
「そうだ、ひとつ僕のお願いを聞いてくれるかい?一度でいいから『お父さん』って呼んでみてくれないかな?実はこっちのフィースにはずっとパパって呼ばれてて、いつまで経っても変わらなくてね。僕が父親になってからの夢なんだ」
父からの要望に応えようにも少し泣いているせいでうまく声が出せないが、なんとか声を出そうと喉に力が入る。
「…ぉ、おとう、さん。………お父さん‼」
「ああ、2回も読んでくれた。ありがとう。ははは、なんだかムズムズするなぁ。……ふぅ。興奮は冷めないがそろそろ話を進めよう。リーナが邪魔はしなかったけど早くしろって目で訴えてきてる」
他の2人の存在を思い出し一気に恥ずかしくなるのと同時に父から離れる。
「あまり時間もないし、簡単に終わらせようか。君がカトラに育てられていた時、この娘には僕たちが持てる全てを教えた。魔石の外の世界に触れることができるかもしれないからね。この空間は面白いんだ。僕たちの記憶から景色を投影できたり、物体を再現できたりってね」
そう言いながら父は色々な物を作り出しては消していく。
「そして、子育てと同時に僕はこの魔石の今後についても同時に考えていた。時が経ち、魔石が元の持ち主に収まったことから、1つの答えを導き出した。それは、2つの魂が1つの器に共存し続けるということだ」
「つまり、私ともう一人の私がこれからもずっと今までのリェナスみたいに存在するってこと?」
「そう!そして、完全に魔石の一部になった僕たちは消える」
予想していなかった言葉にわかりやすく動揺してしまう。だって、急に消えるって。慌ててリェナスの顔を見るが真剣な顔で頷くだけだった。
「消えるって、この空間に来ればまた会えるんじゃ…」
「では聞こう。今この場に僕たちのご先祖様はいるかい?読んだら返事して出てくるかな?おーーーーい!」
父が大きな声で呼びかけるが何も起きない。
「死後魂がどうなるのかはわからない。墓守ちゃんも言ってたよ。いつもいた死霊がある日突然いなくなるって。みんな行くべき場所に導かれているのかもしれないね。なんとなくだけどそろそろ消えそうだってことはわかるんだ。恐らく今日だろうね」
父は笑顔でそう言う。せっかく会えたのに、すぐにお別れなんて…。
「ああ、泣かないでおくれ。悲しい空気にするつもりはなかったんだけどなぁ。ははは」
「ははは、ではない。お前の話し方に問題があるのだ。フィスよ、聞いた通り我はこの先助けてやることも口出しすることもできん。だが安心しろ。もう一人のフィスは我に似て天才だ。困ったときは、『姉』を頼れ」
なかなか進まない話に痺れを切らしたリェナスが強引に進める。私より先に存在していたもう一人のフィース。リェナスに言われて気付いたけど、『姉』か。もう一人の私に視線を送ると任せなさい!とやる気に満ちた顔を向けられた。
「リェナスは天才かもしれないけど、空気は読めないわよね」
「無駄だからな。それに、時間がない。我が民が危険に晒されているのだ。忘れていたわけではないよな?」
「忘れてないわよ。先にやることがあるってリェナスが連れてきたんじゃない!」
いつもの口論。出会ってからずっと一緒にいた、我儘で強くて誰からも信頼されて欲望に忠実なエロ魔王。これも、今日で最後なんだ。
「泣くな!魔王が弱くては民を、部下を、友を、全てを守ることはできないのだ!いついかなる時も泣くことは先代魔王のリェナス様が許さん!笑え!」
そういうリェナスも少し泣きそうになっているが二人で無理やりに顔を引きつらせ笑顔を作り合う。
「そうだ。では、我の全てをフィスに託す。頼んだぞ」
「ええ。魔王リェナスの娘として、親を超える魔王になってやるわ!」
お互いの拳をあわせて誓いを立てる。親子って感じじゃないわね。私との会話を終えるとリェナスはアルバの元に歩いていく。するともう一人の私、姉が近づいてくる。姉は何も言わずに私の隣に並ぶ。そして、リェナスがこちらを向くのと同時に父が口を開く。
「リーナが急げっていうから、僕たちとの交流はここまでにしようか。あ、そうだ。最後にもう一つ。僕の研究は途中だけど資料庫に保管してあるから、時間がある時に目を通すといいよ。それじゃ、お別れだ。二人とも元気でね」
「二人とも我の娘だ。自信を持て!恐れるな!己の信じた道を進め!ではな」
両親は話し終えるととある魔法陣を作り出していく。あっという間に魔法陣は完成し起動し始める。私たちが返事をする時間を与えない気なのだろう。その意図を察してか、姉は私の手を握り笑いかけてくる。そして二人で両親に向けて満面の笑みを作ってこう言った。
「「ありがとう。行ってきます!」」
瞬く間に私たちの身体は光に包まれ、眠りにつくように意識が遠のいていった。
「優しくしてあげてもよかったんじゃない?」
「………。」
「我が子の成長を見届けることはできないけど、あの二人ならきっと大丈夫さ。心配いらないよ。あ、もしかして寂しいの?ちょっと泣いてるでしょ。痛い痛い。脛を蹴らないで。痛いって。ほら、おいで。今なら誰も見てないから、我慢しなくていいんだよ」
「………。」
どうも~。私で~す。年明けまで24時間切ってるって言うね。ははは。あ、待って!一話前の後書きの話をしないでぇ~。次で一区切りなんです!頑張って書くから年明けちゃっても許してください!もう時間ないけど良いお年を!ではまた次回!




