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平和な魔王は静かに暮らしている……はず。  作者: ぬるま湯
始まりの物語
13/19

過去

お待たせしました。

 訓練施設での特訓が始まってから3か月が経過した。私の身体がリェナスの力を完全に取り込むまで続くと言われた時には死ぬまでかかると思っていたけど、昨日リェナスから特訓終了を言い渡された。

『感覚的なものだが、我とフィスの器はほぼ1つになったと言える。ここまでよく頑張ったな』

 なんか、素直に褒められると気持ち悪いわね。いつもはもっと見下した感じじゃない?

『我だって褒める時は褒めるさ。ただ褒めるだけでは伸びないだろうと付け加えていただけだ』

 確かに褒めて伸ばすって育て方もあるけど、私にはリェナスくらいがちょうど良かったのかも。なんだかんだ言ってリェナスが一番私のことを理解してくれてるのかもね。

『一緒にいる時間こそ短いが、身体も思考も共有しているのだ。当然だろう?』

 そういえばそうだった。っと、この話はこれくらいにして、特訓が終わったのなら城に帰るの?

『そうだな。手紙を送っていたにしても3か月もミスィーを放置していたのだ。我への不満も溜まりに溜まっているだろうな』

 ちょっと嬉しそうに言わないでよ。送ってたのも手紙というよりは『仕事を覚えろ』っていう指示書きだったし。はぁ、しばらくは私から離れないでしょうね。

 リェナスとの会話もそこそこに部屋で城に帰る準備を進めているとコンコンと扉をノックする音が聞こえた。

「魔王様、ネグレスです。少しお時間をいただけないでしょうか」

 いつもとは違う真剣な声。なにか問題が起きたのかもしれないとすぐに返事をして扉を開ける。

「朝早くに申し訳ありません。話というのはこの領地に隣接する人間の国エルバスについてです」

 エルバス、リェナスの友人の事件があった国だ。事件の後、リェナス領がエルバスを取り込んで支配したが、リェナスはエルバスを国として存在することを認め人間と魔族が共に暮らせる場所へと変化させた。

「リェナス様が姿を消してからエルバス内で魔族を排除しようとする集団が確認されており、我々もエルバスに住む魔族に危害が及ばぬよう動いていました。しかし、半年前に王が暗殺され、新たに魔族排斥派の王ガルムが即位しました。現在国内において魔族排斥を掲げる体制が安定し、エルバスに住む魔族は皆国境付近まで押しやられるか、無実の罪で捕らえられている状況です。既に裁かれた者もいます」

 この報告にリェナスは身体の主導権をとり、口を開く。

「なぜ、そうなるまで報告しなかった?」

 リェナスの問いに怯むことなくネグレスは答える。

「当時のリェナス様は全盛期の1割も力を発揮できず、以前のように現地に赴かれては御身に危険が及ぶと判断しました」

「我の命と民の命を天秤にかけ、その結果我を優先した。そういうことだな?」

 ネグレスは何も言わずにリェナスの目をじっと見ている。

「はは、別に責めているわけではない。こうなることを予想して先に手を打っておかなかった我の責任だ。まずは、これ以上犠牲が出ないように動くべきだな」

 緊張を解くようにおどけて話すリェナス。ネグレスは表情を変えずに緊張感を保っている。

「ネグレス、この施設にいる全員を訓練場に集めろ。これから国境に転移をする」

「御意」

 リェナスからの命令を聞くとネグレスは瞬時に行動を開始した。続いてリェナスは紙とペンをとり何かを書き始めた。

『城を避難所として扱う。受け入れ態勢を整えておけ』

 書き終えると転移魔法でミスィーに送る。またあの子の不満が溜まるわ。

『さて、フィスよ。大掃除の前にやることがある』

 やること?特訓は終わったでしょう?

『最後の仕上げだ』

 リェナスがそう言うと、足元に初めて目にする魔法陣を作り出していく。同時に私の身体にぴったりの領域テリトリーが展開される。

領域テリトリー展開。ターゲットロック。対象を指定の位置に転移」

 リェナスがそう唱えると、私の意識は暗闇に飲み込まれていった。



 夢を見た。いつか見た泣いている少女と話す夢。また名前を聞く前に目が覚めた。



 目が覚めたはずなのに視界がぼやけている。目の前に何かがあるのに焦点が定まらない。話しかけられているのに上手く聞き取れない。

「……!…ぃ…よ!」

 ぼんやりしていると頭を強く叩かれ、私の意識は覚醒した。

「いたッ!…なに?ここどこ?」

 視界にはどこまでも真っ白な空間が広がっている。あたりを見回すと見たことのある姿を見つける。

「リェナス?」

「やっと目を覚ましたか。我の美貌に見惚れて惚けているのかと思ったぞ」

「そんなちんちくりんな子供体型を美貌とは思わないわ。ていうかなんでリェナスの身体があるの?私死んだ?ここって死後の世界?」

「簡単に言うと、ここは器の中だ」

「…え?」

 急な説明と意味不明さに一瞬思考が停止する。器?魔力の?

「そして、そこにいる者たちと一緒に少し昔話をしようと思う」

 そういってリェナスが指差した先に2人の人物が出現する。長身で眼鏡に白衣という賢そうな見た目をした男性。私と同じ姿をした女の子。

「私が、もう一人ぃ!?」

 驚きのあまり叫んでしまった。私の動揺を気にすることなくリェナスは話を進めようとする。

「待って!理解が追い付かないんだけど」

「理解させるための昔話だ。続けるぞ。先に言っておくがツッコミは終わってからだ」

 そういうとリェナスは昔話を始めた。

「フィスが生まれるより前のことだ。およそ子供の時から身体の成長が止まったような小さな魔王リェナスと、魔王リェナスの右腕と言われる長身で眼鏡に白衣を着たロリコンの男がいた。男の名はアルバ。探知系の魔法を得意とし戦場を自由自在に操れるほどの策士だった。二人の魔法相性はとても良く、ある時を境に誰もリェナス領を攻めて来ないほどだったが、性格面では相性が悪く喧嘩ばかりの日々を送っていた。ある日、そんな二人の間に子供ができた」

「ちょっと待てえぇーーーーい!」

「なんだ。まだ始まったばかりではないか」

「気になるところが多すぎるのよ!省略しすぎて訳分からなくなってるし!アルバってそこで『懐かしいなぁ』って頷いてニコニコしてる人だよね?」

 私がアルバらしき男を指差すと、それに反応し手を振ってくる。

「じゃあ、二人の間にできた子供って私によく似た隣の女の子ってこと?」

「よく似たではなくフィスだが?」

 リェナスの言葉にフリーズしてしまった。続いてアルバが話し始める。

「リーナ、もっと詳しく説明しなければダメだよ。でもそうだねぇ、僕たちがフィースの実の親だということは素直に受け入れてもらうしかないかな」

「リーナと呼ぶなと言っているではないか!我は魔王リェナスだ!」

「え~、リーナの方が可愛いって。久しぶりに会ったんだし好きにさせてよ」

「やめろ!寄るな!抱き上げるな!お~ろ~せ~!」

 アルバに抱き上げられてジタバタと暴れるリェナス。子供にしか見えない。リェナスに殴られながらアルバは話を続ける。

「どこからだっけ。あぁそうそう。僕たちの間にフィースが生まれてからだった。生まれたばかりのフィースは小さくてねぇ。この小さな身体からもっと小さな子が生まれた時は信じられなかったよ」

 そう話しながらリェナスに目線を向けるアルバは顔面を殴られた。

「ところでフィースは魔王の子供が生まれてすぐに死んでしまうという話を聞いたことがあるかな?」

 突然質問され声が出なかったので黙って頷く。とても有名な話だ。魔族の子供は魔法の制御がうまくできず暴発させてしまうことが多々ある。ミスィーのようなちょっと魔力量が多い家系なら軽傷で済むのだが、魔王クラスになってしまうと大怪我に繋がり最悪死んでしまうこともある。

「そう。僕たちの子供、つまりフィース。君も例外ではなかったんだ。君が継いだ魔法はリーナと同じ転移。僕の探知系を継いでいれば命の危機にはならなかったんだけどね。最初の暴発時にリーナが相殺してくれなかったら今頃君はここにはいなかっただろう」

「転移の魔法?でも、リェナスと一つになる前は身体強化を…」

 私の言葉を手で制止してアルバは話を続ける。

「生まれた時のフィースの魔力量は既に僕と同等。赤ちゃんの暴発は制御が利かないから持てる量を全て使ってしまう。つまり、今後の成長と共に魔力量は増大し、いつかはリーナでも簡単に相殺できなくなるだろうと僕たちは考えた。そして、僕とリーナで合体魔法を作った。結構時間かかっちゃったけどね」

 ここでアルバはようやくリェナスを下ろした。そして、当時使用したであろう魔法陣を説明用に二人で作り出していく。

「内容は複雑だからざっくりと説明するよ?僕の探知魔法でフィースの魔力の器を探して、その一部をリーナの転移魔法で取り出すっていう魔法なんだ」

 私が理解できないと首を傾げるとアルバは笑う。

「ははは、わからなくていいよ。僕は誰も見たことがない魔石になる前の器を正確に探知したってことになるからね。僕たちにあるはずの魔力の器を誰も見たことが無いのは、死ぬとすぐに魔石になってしまうからだと唱えられているが、この説だと生きている状態で身体を切り開けば見つかると思わないかい?」

 話が難しくなってきたし怖いことを言っていると思っていると、リェナスがアルバの足を蹴って説明を止めた。

「長い!そんなことは城の倉庫に資料として残していただろう。後でそれを読ませれば良い!早く進めろ!」

「わかったよリーナ。わかったから蹴らないで。まぁ、そんな感じで完成した魔法を使ってフィースを助けようとしたんだが、ここで予想外の事態が起きた。取り出したはずの器はリェナスの手元で魔法陣の魔力を吸い始めたが形を成さなかった。そこで僕はやっと理解した。『器が魔石になる』ではなく『魔石が器になる』、そして同時にこの魔法には依代よりしろが必要だったと」

 私たち魔族や魔物が魔石を飲み込むことで魔石を吸収するということは間違いではない。実際に飲み込んだ者は少しだが強くなっている。魔族には死んだ親の魔石を飲み込むという弔いもある。ん?弔い…。はっ!とアルバに顔を向けると深く頷き話を続ける。

「僕たちは親の魔石を飲み込むことで死後に魔石になる準備が完了するんだ。たまに魔石にならずに死んでいく者がいるのはこの準備が行われないからだね。厳密に言うと『過去に自分と同じ魔法系統の魔石を飲み込む』だけどね。ただ、僕たちはそこまで考える時間がなかったからすぐにリーナが自害したよ。あれは君の直感かい?」

「そうだな。あの時は自然に身体が動いていた。不思議なものだな」

「で、無事にフィースの器を取り出せて成功!じゃなかったんだ。この魔法に必要な魔力の大半を担っていたリーナが消えたことで最後に発動するはずの安全装置みたいなやつが機能しなくてね。僕も魔石に取り込まれちゃって、あんなに大きな魔石が出来上がったってわけさ。ちなみにフィースは万が一の時にカトラの所に飛ばせるようにしておいたから生きていたのさ。これだけやって我が子も死んじゃったら意味ないだろう?ははは」

 と笑い話のように話しているが起きていたことはとても恐ろしいことだったということは感じ取れる。そんなことでも自信満々に実行し、結果目標を達成させるところがリェナスという魔王なのだろう。

「私が生まれた時が大変だったことはわかったわ。で?それともう一人の私がいることがどう繋がるの?」

「ははは、そう焦らないで。僕も久しぶりに長々と話したから疲れちゃって…」

 休憩しようと眼鏡を外してレンズを拭き始めるアルバ。リェナスは何も言わずにアルバの背中に抱きつく。子供っぽいなぁと思う一方で、久しぶりの再会でリェナスも甘えたいのだろうと微笑ましい姿をしばらく眺めていた。

どうも、私です!いやぁー、寒くなりましたねぇ。こたつで寝るの気持ちが良いんですよね。風邪には気を付けましょう。ちょっと急展開になりましたが年内には区切りをつける予定です。また間隔が空きますが気長にお待ちください。それではまた次回!

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