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平和な魔王は静かに暮らしている……はず。  作者: ぬるま湯
始まりの物語
11/19

ライオットの特訓

書けるときに書く!

 リェナスの発言により、しばらくの間訓練に参加することになった。

個性的な教官の訓練メニューはどんなものなのだろうと考えながら、廊下を駆け抜けるライオットさんを追う。

「ライオットさ~ん!どこに行くんですかー!」

「それはもちろん!訓練場だ!そろそろ全員集合しているだろう」

息も乱さず猛進するライオットさん。さすが教官だね。

長い廊下を抜けると、屋外訓練場に出た。広々としていて、反対側にある的は小さな点にしか見えない。そして……、誰もいない。

「怠けものどもめ、何分の遅刻だと思っているんだ!」

そう言いながら訓練場の中心に歩いていくライオットさん。

 ちなみに、何時から始まるの?

『我が覚えているのは9時だが、ライオットは時計が読めない』

ん?じゃあ、ライオットさんは何で時間を把握してるの?

『太陽の位置、体感、あとは気まぐれだろう』

時間決まってないようなものじゃない!そんなの教官より先に集合とか無理でしょ。

 リェナスと話していると周囲の空気が薄くなるのを感じた。その感覚に私の身体は反応し耳を塞ぐ。同時にライオットさんの咆哮が響き渡る。

「しゅうごぉぉぉぉおおおおおおーーーーーー!!!!!」

耳を塞いでいても聞こえる咆哮。屋上の時よりも大きい。

『あの時は我の拳を受けることが前提だから控えていたのだろう』

 咆哮からしばらくしてドドドドッ…と近づいてくる音がした。入口の扉が開き訓練兵達がぞろぞろと入ってくる。その集団は全員筋肉質でなぜか薄着だった。

集まった訓練兵は入場して数秒でライオットさんの前に整列した。

「全員いるか?よっしゃ……ばんごぉーう!」

ライオットさんの号令に続き1,2,3,…と聞こえてくる。しかし、途中で番号が空き全員ではないことが明らかとなり、数え終わると訓練兵の顔は青ざめていた。

「やっぱりな。少ないもんな、うんうん。じゃあ、18番と39番!いけ」

何も言わずに走り去っていく二人。この場にいない者を呼びに行ったのだろう。

その後、全員が集まるまで静寂が続いた。


 しばらくして、集まれなかった訓練兵3人がライオットさんの前に立たされていた。

「わかるな?」

ライオットさんの言葉に震えながら頷く。

「よし。これからする話が終わったらな。戻れ!」

そう言われると3人は列の空いている場所に入っていく。

 全てを訓練場の端で見ていた私はリェナスの解説を聞いていた。

『ライオットはバカだが教官モードになると鬼になる。ネグレスに教官としての在り方を教わったらしい。訓練兵の顔が青ざめているのは…言うまでもないだろう』

鬼教官は苦手だなぁ。でも、参加する以上は立場なんて関係ない。

『心配する必要はない。訓練さえ始まればあとは気楽にいけるさ』

だといいけど。

「おーい、そんなとこで何してるんだ!こっちに来てくれ」

さっきから思ってたけど、ライオットさんってリェナスに対して畏まらないのね。

『バカだからな』

それでいいんだ…。

 呼ばれた私は早足でライオットさんの横につく。

「知らない奴もいるだろう。リェナス様だ。しばらく訓練に参加することになった」

ライオットさんの紹介に驚きざわつく訓練兵たち。

気にせずライオットさんは話を続ける。

「魔王様であるが訓練に参加する以上お前たちと同等に扱う。仲良くするように」

魔王と仲良くって、できないでしょ。

「それと、リェナス様にはもう一人いるから、そっちとも仲良くな」

知ってたんだ!?本体私だけど、もう一人扱いなのね。

『バカだからな』

リェナスってライオットさんを下に見すぎじゃない?


 話が終わり訓練が始まった。

準備運動をしっかりして、訓練場の外周をひたすら走っている。

途中ライオットさんが横に来て話しかけてきた。

「リェナス様、ちょっといいか?」

「なんでしょうか」

「次に1対1の対戦があるんだが、こいつらの相手役をやってほしいんだ。魔王と戦う機会なんて滅多にないだろう?」

え?対戦?相手役?言われたからにはやるけど、私が主導だと魔王レベルなんてものじゃ…。

「いいだろう」

あー!勝手に返事しないでよ!

『どうせやるんだ。考え込んでないで早く返事をすればいい』

そうだけどぉ。

「よかった。じゃ、よろしく頼む」

そう言うとライオットさんは集団から抜けて訓練場の中央で号令をかける。

「よぉし、次行くぞ!1番から順に出てこい。特別相手役にリェナス様もいるからそっちは番号の最後のやつからだ。他はいつも通り走り続けろ!休憩もしっかりな!」

私は相手役に不安になりながら訓練場の中央に向かった。


 ライオットさんの言う対戦は、魔法を使わない格闘戦。己の技と肉体で勝負するという実にライオットさんらしい内容だ。

「よろしくお願いします!」

訓練兵の挨拶を合図に対戦が始まる。

私は相手の出方を見ようと構えをとる。が、読み合いなど関係ないと訓練兵は突進してくる。

咄嗟に回避し、続いて繰り出される攻撃を受け流す。

「せい!とりゃあ!」

訓練兵の攻撃はとても単純で避けやすい。単純な分パワーがあり、一発入れば大ダメージとなるだろう。だが当たらなければ意味がない。

『なるほど。フィスの師はカトラか』

そうよ。村で一番強かったし、ミスィーと一緒に教わってたの。攻撃を避けて受け流して、相手に隙ができるのを待つ。そこで反撃すればスタミナの消費も少なくなるし、攻撃が入る確率も上がる。

『相手が考えなしに突っ込んでくる場合はな』

リェナスと会話をしながら訓練兵の攻撃を受け流していく。

「はぁ、はぁ、…てえーい!」

相手の攻撃に鋭さがなくなり、苦し紛れに繰り出された一撃。これが隙となる。

ギリギリで躱し、拳を打ち込むと訓練兵は倒れた。

『気を失わせてどうする。軽い手合わせだ、次からは加減してやれ』

加減って言われても、結構ギリギリだったのよ。でも意外ね、みんなライオットさんみたいに硬そうなのに、私でも倒せちゃった。

『それは我と一つになった影響もあるが、フィスが効率よく鍛えられていたからだ。カトラに感謝だな。さて、次が来るぞ』

これ、体力もつかなぁ。


 訓練兵達との対戦が終わり、休憩をしているところにライオットさんが来た。

「いや~、さすがもう一人のお方。格闘戦においてはリェナス様以上かもしれない」

「あはは、そんなことないですよ。あと、私はフィースです」

「これは失礼、ネグレスに言われても覚えられなくて。改めて、ライオットだ。休憩が終わってからでいいから対戦を申し込みたい。本気が見てみたくてな」

「私で良ければ」

「よっしゃ!向こうで待ってるぜ」

ライオットさんの戦闘スタイルは脳筋そのもの。対戦中に横目で見ていたが、力でねじ伏せたり、あえて攻撃を受けてカウンターを入れたりと私とは正反対の戦い方をしていた。攻略にはなかなか骨が折れるだろう。

『がんばれよ』

応援ありがと。


 訓練場の中央に立つ私とライオットさん。訓練兵達は念のため避難して安全圏から見学している。

「はっはっは!あいつらびびってやがる。周りを気にせず戦えるのは嬉しいがね。本気でお願いしますよ!」

「お手柔らかに頼みます」

挨拶もそこそこにお互い構えをとる。訓練兵とは違い相手の出方を窺っている。これほどの緊張感はカトラさん以来だ。攻めようにも全く隙がない。

先に動いたのはライオットさんだった。踏み込んだと思うと一瞬で距離を詰められる。

 速い!回避が間に合わない!咄嗟にガードするが勢いを殺せずに後方に吹き飛ぶ。

壁にぶつかる寸前で受け身をとり体制を立て直すが、次の攻撃が目の前まで迫っていた。

ギリギリで躱し距離をとる。落ち着け、よく見れば躱せる。速さに慣れろ。

直前までの訓練兵の動きを見ていたのもあり、ライオットさんの動きが一段と早く感じられた。

「2撃目を避けるとは、さすがだ。だが、まだ遅いな」

言い終える前にライオットさんは距離を詰めてくる。繰り出された拳は顔の横を掠めた。再び距離をとり構えなおす。当たれば致命傷では済まない威力だった。ライオットさんの言う本気は、相手を殺すという意味だと理解する。

 たかが訓練と思っていたが間違いだったようだ。考えを改め自分の中のスイッチを切り替える。

「集中、……集中」

「いいね、その目だ。来い!!」

ライオットさんは全てを受けてみせると防御態勢に入った。それは鉄壁の要塞と言ってもいいだろう。私は一気に距離を詰め、正面から殴り、回り込んで蹴りとあらゆる角度から守りを崩しにかかる。だが、要塞はビクともせず、崩しにかかったこちらがダメージを負っているように感じられた。

「効くねぇ。この感覚は久しぶりだ」

守り続けた要塞は瞬時に攻撃態勢をとりカウンターを繰り出す。

「待ってました!」

「うおぉ!?」

溜まったダメージを倍にして返すために力を入れるカウンター。その力を利用し足を軸に回転させ後方に投げ飛ばす。巨体は壁に直撃したがほぼ無傷に等しい。ちょっとは傷ついてもいいと思う。

「焦ったぁ~。はは、やっぱすげぇよ。リェナス様じゃできないだろうよ」

「ありがとうございます」

「さて、お互いの手の内は大体出ただろう。こっからは、持久戦だ!」

「どうですかね!」

ライオットさんの速さにも慣れていつものような戦い方ができるようになった。当たれば一発で終わり。死と隣り合わせの緊張感は生まれて初めてだ。

 ライオットさんの攻撃を躱し、小さな隙を突く。受け流すときは確実に一発入れる。私の戦い方にはリスクがある。それは受け流した時のダメージの蓄積だ。受け流すには攻撃に僅かだが触れなければならない。その際に伝わる衝撃が徐々に溜まり動きが鈍くなる。やがて受け流せなくなるだろう。その前に仕留めなければならない。

「ぐうぅ…、強いな」

「はぁ…はぁ…」

互いに疲れが見え始めた。

「ラスト行くか!」

ライオットさんは咆えると構えた腕に力を籠める。すると筋肉が膨張し腕が一回り大きくなった。

「行きます!」

私も最後の一撃に備える。

同時に踏み込み、渾身の一撃を放つ。

迫る拳を受け流し、ライオットさんの腹部に拳をねじ込む。

受け流された拳から放たれた衝撃波は遥か先の壁を大きく抉った。

そして、ライオットさんは血を吐きその場に倒れた。



 その日の夜。

「いやぁ~、強かった。さすが魔王!はっはっはっはっは!」

訓練施設の食堂で高らかに笑う巨漢の姿があった。

「シュバ!ってなって気づいたらズン!っだぜ?ありゃ敵わんわ」

訓練兵達と盛り上がるライオットさんの回復は早く、夕方には山に肉を調達しに行くほどだった。

「フィース殿も食べてるかい?ここの肉はうまいぞ?はっはっはっは!」

ちなみにお酒飲んでなくてこのテンションです。

『正直負けると思っていたんだがな。初手で』

確かに、あれが確実に決まっていたら負けてたわね。

『今回の勝利に自惚れるなよ』

しないよ。むしろ、まだまだだなって感じてるんだから。

『なら良い。今日はゆっくり休め』

そうする。

「このあと風呂で恒例の背中流し大行列やるんだが、フィース殿も一緒にどうだ?」

「やりません!!」

いきなり何を言い出すかと思ったら、一緒にお風呂って…。おかしいでしょ。

『バカだからな』


食事の後のお風呂はゆっくりするために時間をずらして入った。

どうも~、私です。脳筋教官!筋肉!って考えていたらこうなりました。本編では書いてないですが、遅れた訓練兵3人はライオットと共に山に肉の調達に行ってました。ライオットのペースについていくのは辛いでしょうね。では、また次回。

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